第446話 とっておきの武器ですが何か?
リュー発案、マッドサイン作で製作された『異世雷光』の劣化版として『竜星組』組員に正式に支給されたドスは全て雷属性が付与されており、それにより敵を無力化する事を前提にしていた。
前世で言うところの身を守る為の防犯グッズであるスタンガンの強化版のような能力である。
その能力についてだが、『竜星組』本部事務所の体力自慢の組員となるとその辺のチンピラが大勢でかかっても返り討ちにするような猛者達を失神させるほどだから、どれだけ強力かわかるというものだ。
ちなみに、連続使用が出来ないのが欠点だが、捕縛するのに何度も使用する必要はないし、柄に嵌められた魔法の元となる魔石を交換すれば、再度の使用はすぐである。
魔石の価格は馬鹿にならないが、リューにとって、家族である竜星組直系組員の安全が確保できるなら安いものだと思っているから、使用制限はかけていない。
遊び感覚で使用されるのはさすがに困るが、今回、体力自慢の組員達による実験は威力の確認も兼ねて大目に見る事にした。
「リュー、室内の掃除終わったわよ。臭いも清浄魔法で綺麗にしておいたから大丈夫」
事務所の玄関前でマルコと談笑していたリューにリーンが声を掛けた。
「うん、わかった。ありがとう」
リューは、そこで中に入る。
事務所内には正座している顔なじみの組員達が数名いる。
「何で正座? ──あ、もしかしてドスで実験していた組員?」
リューは申し訳なさそうに座っている組員の様子からすぐにそう気づいた。
「「「「ご迷惑をおかけしました!」」」」
組員達は揃ってお詫びを口にする。
「ああ、今回はいいよ。──それで、威力はどう?使い勝手は良さそうかな?」
リューは組員の反省している様子が窺えたので今回の騒ぎを不問にして、確認した。
「それはもう! 使用前に魔力登録して他の奴には使えないようにしてあるのがとても良いとおもいますぜ!これなら、相手にドスを奪われるポカをやっても悪用されませんし」
「威力がとんでもないです。耐えようとしましたが、一瞬で意識が飛びましたよ」
「俺達でも完全にぶっ倒れたので、他の連中は耐える暇もないと思います」
組員達は口々に使用の感想をリューに話す。
「うんうん。それなら良かったよ。南部抗争の時にみんなに持たせた試作品は魔石を付けるところまでいってないものがほとんどだったから、『電撃』が使えなかったけど、この完成形ならサシの勝負ではそうそう負ける事は無いと思う。あ、一応、ドスには番号が振ってあるから、他の人のとは間違わないようにしてあるから、問題はないよね?」
「へい!もちろんです、若!」
「あとは無くさないようにね?解体防止に弄ったら『雷撃』発動と共に魔法陣が壊れる仕様になっているから、売り飛ばすのも無しだよ?」
リューは冗談で組員達に注意する。
「売り飛ばすなんてありえないです!そんな奴は、すぐに俺達で探し出して墓の下で後悔させますよ!」
組員達は当然とばかりに頷き合う。
おっと、今のは聞かなかった事にしよう。
リューは『竜星組』の裏切り者の扱いについては、マルコに一任している。
『闇組織』時代からのマイスタの街の暗黙の掟もあるから、リューはその辺の細かいところには口出ししないし、他所の人間にも介入させない。
マルコは敵から情報を引き出す為に、残酷な手法を使っているのも、わかっていたし、それは裏社会のやり方としてリューも目を瞑っている。
表の世界の常識と裏社会の常識というのは根本的に違うのだ。
裏社会は圧倒的に暴力が幅を利かせているから、それに対応するルールも罰も存在する。
表の人間には理解出来ない事も当然あるからそれら全てに理解を求める事はできないだろう。
だがリューはそれらも含めて了解する事で、『竜星組』という王都最大の組織をまとめ上げ、裏社会の安定を図っているのだ。
「マルコ、今後のドスの『雷撃』使用については徹底して教育よろしくね?」
リューは副組長のマルコに確認する。
「へい!きっちり、教え込んでおきます」
マルコはそう短く答えると、使用した体力自慢の組員達に向き直る。
そして、続ける。
「──てめぇら、今回、若からは多めに見てもらったが、魔石もただじゃない。無駄とわかる使用については、給料から差し引くからな!あと、数日は近隣のドブ掃除して地域貢献しろ!」
「「「「へ、へい!」」」」
体力自慢の組員達は立ち上がると掃除道具を持って外に飛び出していくのであった。
「ははは……。今回は威力の確認出来たから良かったのに」
リューは苦笑してマルコに言う。
「さすがに何もお咎め無しでは示しがつきませんから」
マルコもその辺はよくわかっている。
リューは基本家族に甘いから、細かいところは下のマルコ達がやっておく必要がある。
これにより恨まれ役を幹部であるマルコ達が負う事で、『竜星組』全体はまとまっていると言えるのだ。
リューは『竜星組』の絶対的な存在であり、組員達はいざという時、リューの為なら命を張って守るだろう。
それだけの信頼と血以上の結び付きがリューと本部事務所の組員達にはある。
それらも普段のマルコ達の部下教育とリューの日頃の行いの結果であった。
「うちの組員達はみんな真面目よね」
リーンが帰りの馬車で感心しながらリューに言う。
「ははは。やる事はやっていると思うけど、裏社会のルールにおいてはそうかもね」
リューは表の社会と裏社会の違いが分かっているから、どちらかによって評価は完全に異なるところだと思うから条件付きで納得する。
「王都の裏社会での評判も一部を除いて良いし……、あとは流れ者の扱いよね」
リーンが指摘するのは、最近東部地方から流れて来る連中の事である。
近いところでは、その連中を雇って『黒炎の羊』が『月下狼』との間に抗争を起こして、大騒ぎにもなっていたし、今もその連中と雇い主であった『黒炎の羊』の間で内部抗争が勃発していた。
その一端はリューの策謀によるものでもあるが、王都の一部、特に『黒炎の羊』の縄張り圏内は治安が悪化しており、治安を守る警備隊や騎士団が介入する可能性があるという情報もある。
だから、どこかで『竜星組』が間に入らなくてはいけないかもしれないと思うリューであった。