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第442話 勝負の翌日ですが何か?

 勇者一行との間で平和的なゲームでの勝敗がついた翌日の朝の教室。


「昨日は色々あったね」


 リューはいつもの端っこの席で従者のリーンと警護役のスードに前日の事を漏らした。


「そうね、でも、勇者との問題も平和的に解決できたし、リューの思惑通りでしょ?」


 リーンが今回のボウリング大会を企画したリューを評価して答えた。


「いやいや、僕としては勝っても、勇者チームから誰か引き抜くつもりは毛頭なかったんだけど、リズが恨まれ役を買って出てエミリー・オチメラルダ嬢を引き抜いたからびっくりだよ」


 リューは想定外の王女リズの行動について驚かされていた。


「王女殿下も主に対する勇者エクスの言動が許せなかったんですよ。もしくは主と勇者エクスがこれ以上争うのは良くないと思ったのかと思います。さすが王女殿下です」


 スードは王女リズの友人であるリューを守る姿勢に感銘を受けたようだ。


「確かにあそこで僕が何をやっても、禍根しか残さなかっただろうなぁ」


 リューも振り返ってみて、リズの行動が両者の不和を収める最善の策だったのかもしれないと思えてきた。


 そこへランス、イバル、ナジン、シズ、ラーシュが教室に入ってきた。


「リュー達早いな!おはよう!」


 ランスがみんなを代表するように、リューに声を掛ける。


 そこにみんなも挨拶して続く。


 ひとしきり、挨拶して言葉を交わした後、リズも教室に入ってきた。


「みんな、おはよう」


 王女リズが挨拶すると教室の生徒達が口々にリズに挨拶する。


 王女リズはそれに答えて挨拶してから、リュー達の元にきた。


「全員揃ったな。ところでさ、昨日の勝負で引き抜いたエミリー・オチメラルダ嬢の事はどうするんだ?」


 ランスが、肝心な質問をした。


 相手はリューであり、選んだリズに向けての言葉であった。


「そのままでいいんじゃない?」


 リューがリズの答えを聞かずにランスに答えた。


「リュー君の言う通り、あれはあくまで形式上の事。これで勇者エクス君側も、今後は、ああいう愚かな賭けを言い出す事もなくなるでしょう」


 リズもリューの考えに賛同した。


「だが、それだと、エミリー嬢はずっと、いつ何を命じられるかと生きた心地がしないんじゃないか?」


 ナジンが引き抜かれた形のエミリー・オチメラルダの立場を想像して話した。


「……私だったら心配のあまり登校拒否すると思う」


 シズが、自分が引き抜かれた時を想像して嫌な顔をした。


「そうだな。昼休みにでもエミリー嬢を呼んで、あの賭けは無しで良いと伝えた方が良いかもな」


 イバルがみんなの意見をまとめてリューに決断を促す。


 王女リズも頷いてリューに視線を向ける。


「え?判断って僕なの?一応、勝負で勝ったのリズチームだから代表者のリズの判断で良いと思うのだけど」


 最終判断をなぜか任されている事にリューは驚いて答えた。


「元々、二人の争いから生まれた賭けだからリュー君の判断で良いと思うわ。それにリュー君が決める事であちらのリュー君に対する印象が和らぐかもしれないし」


 王女リズは友人であるリューへの配慮を考えて答えた。


「いまさらよくなるかな?ははは……。──じゃあ、お言葉に甘えてエミリー嬢には僕から伝えて印象の回復に努めさせてもらうね」


 リューは苦笑して応じるのであった。


「それにしても昨日は面白かったな!それに女子チームが強いのには驚いた。あのゲームって力勝負だと思っていたのに、違うんだな!」


 ランスが悩ましい話は済んだとばかりに、ボウリングの話を始めた。


「そうだな。女子チームの強さは何か得体のしれないものを感じる程だった。リューの妹のハンナちゃんも上手だったし」


 ナジンがランスに賛同して昨日の女子チームの活躍に素直に驚いていた。


 さすがに妹ハンナが勇者エクスと同じ様な能力でチーム全体を強化していたとはリューも言えない。


「……私、昨日はなぜか絶好調だったよ」


 シズ自身も昨日は特別に調子が良いと思ったらしかった。


 だが、初めてのボウリングだったし、向いているのかもしれないとシズは思うのであった。


「私も昨日は不思議と体が動いてました……」


 ラーシュが初めて、みんなの輪に入って発言した。


 どうやらずっとその事が不思議で仕方なかったようだ。


「昨日のラーシュのスピンのかかった技巧的な投げは、キレキレだったもんね」


 リューはハンナの能力がバレないように、ラーシュ自身を褒める。


「いえ、そういう意味で言ったわけじゃ……」


 ラーシュは褒められて嬉しかったのか顔を赤らめ、照れ臭そうに答えた。


「昨日は女子チームは絶好調だったでいいんじゃないか?」


 イバルがリューの表情と、リーンが無口になった事からハンナ絡みだと察してたのか、簡単に結論づけた。


「そうそう。それに勝負は時の運とも言うし、次は男女混合でチーム編成して、また、やりたいね!」


 リューはイバルのフォローに内心感謝しつつ、話をまとめるのであった。



 その日のお昼、エミリー・オチメラルダ嬢は二年生の食堂にある個室に呼び出されていた。


 エミリー嬢は、こちら側から言い出した勝負の結果で二年生のグループに引き抜かれたのだから、何を命令されても仕方ない事だと一人腹を決めていた。


「それでエミリーさんの今後なんだけど──」


 リューが、「普段通り、勇者一行で問題無いよ」と言おうとした時であった。


「今後はミナトミュラー男爵の下で、忠誠を誓います!」


 エミリー嬢は屈辱的な命令される前に決意を表明しようと、忠誠を宣言した。


「あ、いや、そういう事ではなく──」


 リューは訂正しようとする。


「ですから、できれば、オチメラルダ家の名誉に関わる事だけは許して欲しいのです。どうか、よろしくお願いします!」


 エミリー嬢はリューの言葉を聞く事なくその場に土下座する。


「いや、だから話を聞──」


「私の体が目的なら、それでも構わ──」


 エミリー嬢の暴走が止まらないとわかったリューは、リーンの方を見る。


「リューの話を聞きなさい!」


 そう言うとリーンがエミリー嬢の頭にチョップをさく裂した。


「痛い!」


 頭を抑えるエミリー嬢。


「だから、話を聞いてくれるかな、エミリー嬢?──君の事は勇者エクスに賭けの愚かさをわかってもらう為にリズが指名しただけで、こちらとしては本意じゃないんだ。だから、これからも普段通り学園生活を送って欲しい。もちろん、僕達とも仲良くしてくれるとありがたいけどね」


「え?」


 エミリー嬢は、勇者一行の元で完全には鵜呑みにしていなかったとはいえ、ルーク・サムスギンの情報を基に、リューを悪の権化のように思っているところがあった。


 もちろん、最近ではそのイメージも薄れて来ていたが、どこかそれも完全には拭いされない部分もあったのだ。


 だからこのリューの言葉に驚いて顔を上げる。


「そういう事だから。これからもよろしくね」


 リューがそう念押ししてエミリー嬢を手を取ると立たせる。


 すると、その周囲のリーンや王女リズ達も同意するように頷く。


 それらを見て、エミリー嬢は、狐に化かされたような驚いた気持ちのまま、二年生食堂を後にするのであった。

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