43話 異種族に興味がありますが何か?
新しい宿はこのスゴエラ侯爵の領都であるこの街で一番の宿屋だった。
それこそ上級貴族やお金持ちが訪れた際に宿泊する様な贅の限りを尽くした宿である。
リューは少し、エランザ準男爵の屋敷を思い出したが、あそこと違うのは品の良さがあることだろう。
高そうな調度品も置いてあるが、ゴテゴテしておらず、前世で言うところのわびさび的な質素な美しさもある。
一介の貧乏男爵風情が泊まる宿ではないのだが、これがスゴエラ侯爵なりのお礼の1つなのだろう。
宿泊代が気になるところだが、ここは敢えて聞かないで黙って泊まろう、聞くと緊張でゆっくりできない自信がある。
「じゃあ、街を見てくるね」
「ああ、遠くに行き過ぎて迷子にならないようにな」
「はーい!」
リューは返事をすると走り出した。
夕方まで時間は少ない、色々と見て回りたかった。
「だ・か・ら!働かないと食べれないから雇われるって言ってるの!」
1人の金髪に緑の瞳の十六歳くらいの美少女が鍛冶屋の店先で鍛冶屋の主人であるドワーフに噛みついていた。
「だから、ワイが何でエルフを雇わんと、いかんのじゃ!?」
そう、ドワーフに噛みついていたのは耳が尖り、華奢で力仕事が不向きな者が多いエルフだった。
そして、ドワーフにとってエルフは相性が良くない。
それだけでもドワーフには雇いたくない理由だったが、鍛冶屋の仕事となると、このエルフに適性があるとは思えない。
「仕事募集の張り紙を出してたのそっちでしょ!」
「お主、絶対、適性ないじゃろ!?せめて体格が良ければ助手が務まるが、それも期待できない奴をなんで雇わないといかんのじゃ!」
「そんなの無いわよ!私の適性は誇り高き『精霊使い』に『追跡者』、『森の神官』よ!馬鹿にしないで!」
「やっぱりじゃないか!それで、その体格でなんでワイが雇うと思ったんじゃ!」
「知らないわよ!私はお金がないから食べれない、だから、その為に働く。そこにあなたが人手を募集してるんだから私が雇われる、それがこの世界の仕組みでしょ!」
「無茶を言うなエルフ!こっちも使える奴を雇わないと損にしかならんじゃろが!」
「エルフを使えない奴呼ばわりとは失礼でしょ!謝りなさいよ!謝らないとこのお店を潰すわよ!」
うわー
揉め事から一転、エルフがクレーマーになる瞬間を目撃したよ……。
現場に遭遇する事になったリューは、最初、ドワーフとエルフという珍しい組み合わせに感動すら覚えて見ていたが、ただの揉め事だった。
だが、今言ったスキルの持ち主ならうちが雇いたいぐらいだ。
お父さんに相談しないといけないが、個人的に異種族のエルフには興味がある。
自分の従者になってくれないだろうか?
「あのー……。そこのエルフさん。良かったら家で雇いましょうか?」
リューは口喧嘩の最中の二人に割って入って行った。
「「?」」
突然の子供の乱入にドワーフとエルフも思わず口喧嘩を止めたが、そこに雇うという言葉にさらに思考停止した。
が、すぐ、ドワーフは正気に戻ると、
「ボウズ、止めとけ。今の聞いてただろ?店を潰すと脅すような奴じゃぞ」
と止めに入った。
「ちょっと、人を悪党みたいに言わないで!」
エルフの少女が再びドワーフに噛みつく。
「ほら、自覚がないのが一番危険なんじゃ。エルフという奴はこれだから」
「いえ、エルフさんのスキルは優秀そうなのでうちで欲しい人材です」
「?」
リューは自分がランドマーク男爵家の三男である事を自己紹介した。
「あの巷で評判のランドマーク家の坊ちゃんかい!」
鍛冶屋のドワーフが驚く。
「誰、それ?」
エルフの美少女は全く知らない様だ。
「最近この街の領主様であるスゴエラ侯爵の命を救ったランドマーク男爵家を知らんのか!?」
「仕方ないでしょ?私、森から出てきたばかりなんだから!」
「ともかく貴族様なんだよ!」
「……じゃあ、私を雇ってくれるの?」
ぐー
言うタイミングでお腹がなり、エルフは顔を真っ赤にした。
「とりあえず、食事にしましょう、奢ります」
リューはニッコリ笑うとエルフの手を取った。