427話 勝負に向かいますが何か?
学校が休みの日の朝。
マイスタの街長邸の庭には、街長であるリューをはじめ、リーン、護衛役のスード、イバル、大幹部のランスキー、マルコ、ルチーナ、そして、ミナトミュラー一家直属の部下達が集結していた。
「若、一体何が始まるんです?」
ランスキーが裏稼業に携わる連中で動ける者を集結させた事について詳しく聞いていなかったのでリューに説明を求めた。
「第三次世界大戦だ」
リューは、某有名映画のセリフを真似して答える。
「ダイサンジセカイタイセン?」
一同はもちろん意味が分からず、ポカンとした。
「あ、ごめん、ごめん。言ってみたい台詞だったから……。──南部のエリザ連合を名乗る勢力を一網打尽にしようかと思ってね。みんなにはその為に集まってもらったんだ。説明は後にして南部のエリザの街まで一先ず行って、そこからサウシーの港街に向かうよ」
リューは、簡潔にそう説明すると『次元回廊』を開き、ランスキーから次々に全員をエリザの街に運ぼうとする。
リーンが、
「リューの考えがあるんだからみんな従って!」
と声を掛けると、全員が、
「「「へい!わかりました、姐さん!」」」と答えて素直に従うのであった。
エリザの街に全員を送ると、リュー達も移動した。
場所はエリザの街に構えている竜星組南部支部(仮)の大きな敷地の庭である。
そこには現地に出張中のイバルの部下達が沢山の馬車を用意して待機していた。
「若、大半の者はすでに先行してサウシーの街に潜入しています」
馬車を手配したイバルの部下が現在の状況を報告する。
「うん、ご苦労様!──ランスキー達大幹部は僕と同じ馬車で移動するから、そこで詳しく説明するよ」
リューは時間が惜しいとばかりに、全員に馬車に乗り込むように促す。
急いで全員が馬車に乗り込むと沢山の馬車が列をなしてエリザの街を出てサウシーの街へと向かうのであった。
「それで若。これはどういう状況ですか?」
ランスキーが幹部を代表して再質問した。
「もちろん、サウシーの街に集結している、竜星組に対抗する為に作られたエリザ連合を潰す為さ」
「それはわかりましたが、交易の街トレドで兵隊を集めさせていたシシドーとその一派が裏切っているかもしれない時に、こんな大規模に向かっていいんですかい?敵の本拠地ですし、地の利がないと思いますが……」
ランスキーがリューの言葉にそう答えると、それに続いて戦術部隊を率いるルチーナも戦略の重要性を説いた。
「そうだよ、若。こんな急に集められて、意味も分からないまま、地の利のないところに向かうのは危険さね。これだけの数が一気に動くのも相手に警戒させちまうよ」
「二人共、待て。若が何も考え無しにこんな事をするわけがないだろう」
竜星組組長代理のマルコが、二人を諭す。
「安心して。まず、サウシーの街を治めるサウシー伯爵には話を通してある。お金が思いの外かかったけどね。サウシー伯爵はいつの間にか自分の街がよその裏社会の勢力の拠点にされていて迷惑しているらしいから、駆逐する分には構わないと保証してもらっている。だから多少は暴れても大丈夫だよ」
「ですが、こんなに馬車を連ねて向かうと、目立ってしまいますが……」
ランスキーがルチーナの危惧する戦略性について指摘した。
「今回は目立った方がいいんだよ。それも行ってみればわかると思う」
リューはいたずらっぽく笑って答える。
「若、あんたの事は信じてるが、秘密は勘弁だよ。それに一網打尽にするにしても、シシドーの一派はどうするんだい?あっちはトレドの街で結構な勢力を作り上げたみたいじゃないか」
女幹部ルチーナが大事な事を指摘した。
「それも大丈夫。シシドー一派もサウシーの街に集結しているみたいだから」
リューは笑顔で答える。
「……という事は、敵は結構な数がサウシーの街の拠点に集結しているという事ですかい……。そうなるとなおさら、こんな目立って向かうと警戒され、いざ戦う時はこちらの優位性が無いので被害が少なからず出ると思いますが……」
ランスキーは今回のリューの行き当たりばったりと思われる作戦にさすがに心配になってきた。
「リューが大丈夫だと言ったら大丈夫なのよ、安心しなさい。みんなもびっくりする策があるんだからその時、驚きなさい!」
リーンは鼻息荒く自信満々にランスキー達幹部に言い切った。
「そういう事だから。多分、ほとんど何もせずにエリザ連合は潰せると思う」
リューも不安がる幹部達を宥めるように答える。
そして続けた。
「一応、期待した策が駄目な場合も、次の策があるから本当に大丈夫のはずだよ」
と、少し不安になるような事を言った。
これにはリューを擁護していたマルコも心配になり、
「……若、やっぱり、今回の作戦について詳しく説明してもらっていいですか?」
と説明を求めるのであった。
「──という事だから」
結局、リューは幹部達に今回の作戦について移動の馬車内で説明した。
「……そいつはまた、無茶な作戦ですね……」
いつもリューの支持者であるランスキーが苦笑して答える。
「でも、失敗した場合の策がしっかりあったので安心しました」
マルコは聞いておいて良かったとホッと胸を撫で下ろし、感想を漏らす。
「若を信じちゃいるけど、作戦が全て失敗した時の事も考えておこうかね」
女幹部ルチーナは、最悪の場合を想定してランスキー、マルコと話し合いを始めた。
「ギリギリまで秘密にしててごめんよ。でも、これでいけると思うんだけどなぁ」
リューは自分の作戦に自信があったのだが、幹部達の慎重さに首を傾げるのであった。




