42話 到着ですが何か?
リューはワクワクしていた。
ランドマーク領内から出たのは魔境の森だけなので他所の街に出かけるのは初めてだった。
それも、王国南東部域ではスゴエラ侯爵領の街が最も大きいらしい。
今後のランドマークの街を発展させる為の参考になりそうだ。
リューは堪えていた。
1日中馬車に乗っているとお尻が、もの凄く痛い。
衝撃がもろにお尻に伝わってくる、衝撃を和らげるクッションの様な物が馬車に付いていないのだ。
この道から伝わる凸凹の衝撃に1日中襲われる現状に、リューは早くも心が折れそうになっていた。
これは馬車を早急に改造しなければならないとリューは思った。
「お父さん、よく王都までの片道3週間も我慢できたね」
「いや、私も馬車は当分は乗りたくなかったよ」
ファーザが本音を漏らし苦笑いした。
「わははは!ワシも馬車より馬に直接乗る方がまだ楽だな。ジーロもさぞ、うんざりしただろう?」
「あの子は我慢強いから愚痴は漏らしませんでしたが、当分は乗りたくないでしょうね……」
そういえばジーロ兄さん帰還直後、げっそりしてたもんなぁ。
リューはその時の事を思い出した。
確かにこの状態で三週間、それも後半は昼夜休まず乗ってたら、これはほとんど寝れないとジーロに同情した。
自分が王都の学校に行くまでには馬車を改造して、楽しく行けるようにしようと思うリューであった。
途中、村に一泊して昼過ぎにはスゴエラの街に到着した。
初めて見た高い城壁に囲まれた立派な街である。
ランドマークの街しか知らなかったリューには外から眺めるだけでも圧巻の光景だった。
「これは凄いですね、お父さん、おじいちゃん。ランドマークの街もこんな風に栄えると良いですね!」
目を輝かすリューに、
「そうだな。栄えると良いが、道のりは遠そうだな。ははは」
と、父ファーザは答えるのであった。
領主として、息子の願いに応えたい想いはあるが、それは少なくと数十年はかかる事業になるだろう。
「わははは!ランドマークの街には田舎ならではの良さがある。こんなに栄える事だけが、良さではないぞリュー」
祖父カミーザならではの答えだった。
確かに、田舎ならではの良さがある、そしてそれは住んでる人にとっての過ごし易さで、それを守るのもランドマーク家の務めだろう。
発展と過ごし易さの両立、今後の課題にしよう。
城門を馬車が通過した。
そこに広がるのは大きく沢山の建物と高い塔、そして想像をはるかに超える人の数、そこは人種のるつぼだった。
前世の記憶では映画で観た記憶がある「エルフ」とか「ドワーフ」とかがいる。
うん?犬みたいな耳と尻尾を持つ人がいるけどあれは何だろう?
母セシルが勉強の時に言ってた獣人族だろうか?
よく見ると、耳や尻尾も違う種類がある。
あれは猫人族だろうか?
前世では猫好きだったから撫でたいけど、流石に怒られるよね?
リューの興味は尽きなかった。
馬車の引き戸窓に顔を張り付けたまま離れないでいた。
「リュー、そうしてると顔に跡が付くからそろそろやめておきなさい。あとは、着いてからじっくり見物するといい。今日は、到着を伝える使者を出すくらいだからな」
ファーザから注意されてやっと顔を離したリューだったがもう手遅れで顔に窓枠の跡がしっかり残っていた。
街に来た時にいつも泊まる宿に到着した。
受付で空きの確認をしていると奥から宿屋の主人が現れた。
「これはこれはランドマーク男爵様!実はスゴエラ侯爵様から使いが来まして、うちではなく違う宿屋に泊まる様、仰せつかっております。……ここだけの話、うちとは比べ物にならないくらい、とても良い宿屋です。侯爵様が宿泊費は負担してくれるそうですからタダですよ。良かったですね♪」
ここの主人とは、ファーザが騎士爵時代からの付き合いだ、とても親しい。
それだけに宿屋を移るのは申し訳なかったが、主人は気にしていなかった。
ファーザがお礼を言うと、
「いえいえ、男爵様のご活躍は聞き及んでおります。うちを長い事ご利用頂けていた事は自慢でございますよ。あ、男爵様の名前を使って宣伝していいですか?」
親しい間柄の冗談だ。
「もちろん自由に使ってくれ。今回は指定された宿に行くが、次回はこちらを利用させて貰うよ」
ファーザ達は挨拶するとまた、馬車に乗り込み移動するのであった。