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413話 専門家を雇いますが何か?

 元殺し屋であったメイドのアーサがある日、執務室でリューの休憩時間にお茶とお菓子を用意しながらある報告をしてきた。


「若様、そう言えば、例の専門家を三組ほど雇えそうだけど、どうする?」


「え、もう見つかったの!?」


 リューはアーサの仕事の早さに驚いた。


 そう言えば昨日、半日休みを取って出かけていたけど、その時に?と想像するリューであった。


「うん。王都で暗躍する暗殺ギルドから二組、どこにも所属しない腕利きを一組だよ」


「……暗殺ギルドなんて実在するんだ……?」


 リューはアーサの説明に少し驚いた。


 暗殺ギルドの存在は王都で都市伝説の類の話だからだ。


 貴族の間でもその存在については懐疑的だし、その実在するかも怪しい暗殺ギルドに不審死した貴族などが暗殺されたと疑惑が浮上しても一笑に付されるのが常であった。


 だから、アーサからの報告は、おとぎ話の架空の主人公が実は実在すると報告を受けたようなものだ。


「もちろんだよ若様。暗殺ギルドは存在が明るみになりそうになったら、何年も地下に潜る事があるくらい存在をひた隠しにしながら仕事をこなす組織だからね。それが一番組織を維持し、仕事を確実に成功させる秘訣なのさ」


「そうなんだ……。それで腕の方は確かなの?」


「ボク程じゃないと思うけど、『黒炎の羊』のチンピラを消すくらいは出来ると思うよ」


「一度、会ってその腕を確認したいけど、さすがに無理かな?」


 リューは仕事の成功の為に、慎重を期して接触による確認をお願いした。


「さすがにそれは無理かな。暗殺ギルドは正体を隠して依頼を遂行する事が第一で結果が全てなんだ」


 アーサはリューの提案に業界の常識を説いた。


「そっかー、それは残念! あ、無所属の方は?」


「そっちは交渉次第かなぁ。余計にお金かかっちゃうだろうし、あっちが誰かに雇われた時、若様の顔がバレていたら標的になるから会うのは止めておいた方がいいと思うよ?」


 アーサは組長であるリューの裏社会での顔バレは危険だと考え忠告した。


「やっぱりそうだよね……。じゃあ、今回雇ってみて、結果次第では、うちに来ないか交渉できないかな?」


 リューとしては常に人材が不足しているので、優秀であれば雇い入れたいところだ。


「その時はボクが交渉してみるよ。──そうだ、ボクが一応、専門家の三組が仕事を完全遂行できるか見届けたいのだけど……、その間、仕事を他の人に任せてもいい?」


「え?いいけど、誰に代わってもらうの?」


「それはもちろん、ボクが指導しているメイドだよ。呼んでくるね」


 アーサはそう言うと執務室を足早に出て代わりを呼びに行った。


 その代わりはすぐにアーサに連れられてやってきた。


 そこにいたのは、エラインダー公爵から送り込まれていた元間者の女性メイドだった。


 この女性、情報を流している現場をアーサに押さえられ、格の違いに即完堕ちし、こちらに寝返った経歴がある。


 今は、その家族も保護して、完全にミナトミュラー家のメイドの一人として、働いているのだ。


「あ、そう言えば、アーサに任せてたね……!──名前は確か……、二重間者のダブラさんだっけ?」


「は、はい!ダブラです!その節はすみませんでした!」


 アーサに急に執務室まで呼ばれて、明らかに緊張している様子だ。


「アーサのいない間、僕の身の回りをお願いするけどよろしくね。ちなみに、特技はある?」


 リューはダブラの特徴を掴みたいので、聞いてみた。


「ダブラはボクがちゃんとミナトミュラー家のメイドとして普段仕込んでいるからね!それなりに腕が立つし、刺客や間者撃退はお手のものだよ!」


 アーサはダブラの代わりに誇らしそうに答える。


 いや、アーサさん?うちのメイドとして仕込むにしても、腕が立つの方向性違うから!


 リューは内心でツッコミを入れる。


「……それは素晴らしいわね!」


 リーンが食いついて褒めた。


 リーンさん、君もそこは褒めずに疑問を持って?


 リューはまたも内心でツッコミを入れる。


「アーサ先輩には、生きた心地がしない程、その筋の技術をみっちり教え込まれたので少しはお役に立てると思います!」


 ダブラは地獄を見てきたのか、元気で明るい言い方だが、その目はかなり必死だ。


 僕が知らないところで、ブラックな職場状況になってるじゃん!


 リューはダブラの必死さを感じて苦笑すると、アーサを軽く咎めるように見た。


「?──そういう事だから、ボクのいない間はダブラに任せるね」


 アーサは大好きなご主人であるリューの咎める視線に気づかないまま、仕事を果たす為に退室するのであった。


「……はー。ごめんね、ダブラ。アーサの下で大変だったでしょ?」


 リューはアーサに代わり謝罪した。


 ダブラの必死さを見ると、その日頃の苦労が伝わってくるというものだ。


「い、いえ!ミナトミュラー家に迎えてもらって私は幸せです。家族も保護してもらえてますから、安心して仕事も出来ていますし、アーサ先輩には色んな事を教えてもらって世界が広がりました!メイドって奥が深いです!」


 ダブラは恐縮すると、一生懸命リューに答えた。


 その奥深さの意味、絶対普通のメイドの仕事内容と違うから!


 内心でツッコミを入れるリューであったが口にはしない。


 代わりに、


「ご苦労様。君が納得して仕事してくれているのならそれでいいんだけど、まあ、肩の力抜いてよ。メイドは冷静沈着でないとね」


 とダブラの労を労い、落ち着かせた。


「はい!──あ、わかりました。若様のお世話をさせてもらえる日が来るとは思っていなかったのですみません……」


 ダブラはリューの労いに恐縮すると落ち着きを取り戻すのであった。


「でも、意外にアーサは人を育てる事もできるんだね。見直した」


 方向性は間違っているが、悪い方向に育ってはいないようなので、リューもそこは感心する。


「そうね。見たところ、アーサ譲りの音を立てない足運び、ブレない体幹。あと反応も悪くないわ」


 リーンがダブラを見てそう評した。


 「いや、ちょっと、リーン。ダブラはメイドだからね?」


 評価するところが、違う事にツッコミを入れつつ、コーヒーを啜るリューであった。

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