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393話 北部進出の足掛かりですが何か?

 ダミスター商会会長は、まだ若い男性であった。


 名は、アント。


 親からまだ、引き継いだばかりの商会だという。


 その商会会長が、エミリーをオチメラルダ公爵令嬢として高く評価し、扱ってくれるのは相手として珍しい。


 エラインダー公爵家を恐れて近づいて来る者はほとんどいないのだ。


 両公爵家の暗闘は北部地方のみならず、貴族の間では有名な事だ。


 派閥が一つ消えたのだから当然である。


 王家も諸事情から見て見ぬふりをした事からも当時のオチメラルダ公爵家は誰からも見放されていたのがわかる。


「それで、そのダミスター商会の会長が、我が家の人脈が欲しいとはどういうことでしょうか?こう言ってはなんですが、オチメラルダ公爵家の人脈はすでに役に立たないものが多いのです。あまり、そちらの商会に利益を生むものは無いと思いますが……」


 エミリーは慎重に会長アントにそう答えた。


 アントはこれだけで、リューの命令を果たせると自信を持った。


 相手はこちらを否定するでもなく交渉の余地を残している受け答えをしてきたからだ。


 納得いく答えを出せば、頷いてくれるはずだ。


 ちなみにアントとは、竜星組の若い衆を率いる事も多いアントニオという幹部候補の一人である。


 頭の回転がよく腕っぷしもあるから、リューも期待している若者だ。


 今回はリューからの命令で竜星組傘下のダミスター商会の会長役として任務を行う事になっていた。


「我が商会としては北部地方に販路を広げたいと思っています。しかし、資金には限りがあります。北部地方の貴族と言えば最大派閥のサムスギン辺境伯家ですが、さすがにそこまでの貴族様には接触を試みる勇気はございません、ライバルが多すぎますから。──当然ながら私は商人として手元にある少ないお金で最大限の結果を生み出す事が目的になりますが、失礼を承知で申し上げるなら、あなたのオチメラルダ公爵家は現在、周囲の評価が非常に低い。ですが、その価値は現在の評価に比べたらとても高いと思っています。つまり、そこに利が生まれるわけです。私はあなたとあなたの家が持つ人脈が我がダミスター商会の利に繋がると思っています」


「……我が家を評価してくれるのは嬉しい事ですが、具体的にはどう思っているのでしょうか?」


 エミリーは内心では没落している我が家を評価してくれる人間がいる事を喜びながらも詐欺を警戒して、説明を求めた。


「こちらも商売ですから、オチメラルダ公爵家について色々と調べさせてもらいました。その結果、オチメラルダ公爵家の人脈もですが、実は……、私はエミリー嬢、あなたに最大の価値を見出しております」


「私!?」


「はい。あなたは今年の王立学園で、勇者エクス・カリバール男爵に次いで二位で合格を決められました。それだけで素晴らしいくらい十分な価値がありますが、そこに付加価値が付いています」


「付加価値?」


「ええ。同学年にその勇者カリバール男爵、サムスギン辺境伯の子息、ライハート伯爵令嬢と、北部地方での有力貴族や勇者とあなたに接点がある事が大きいのです。我が商会にとってこれは少ない資金で大きな利益を生むチャンスであると見ています。ですから、あなたとオチメラルダ公爵家に一足早く投資する事で、我がダミスター商会は北部地方に進出する足掛かりが容易に作れると考えています。もちろん、オチメラルダ公爵家の人脈も大事ですが、私としてはあなた自身の存在が大きいのです」


「私の存在が……」


 エミリーは女性である事から良い伴侶を見つけて結婚する事が、家への最大の貢献だと思っていた時期があった。


 親にもそうずっと言い聞かされてきたし、実際、そう思って学校もそういった勉強をする北部の一流学校に通っていた。


 だが、勇者の存在を知り、考えが変わったのだ。


 勇者エクスはその能力で平民から男爵位を叙爵され、その実力を持って王立学園に一位で合格して入学して見せた。


 自分はそれに次いで二位だ。


 そこに希望が持てた。


 最高レベルの才能を持っているであろう、勇者に並べる人物になれたらオチメラルダ公爵家の降爵も免れる事ができるのではないかと。


 親はその勇者エクスと結婚させる事が出来ればと算段しているようだが、エミリーにはそのつもりがない。


 正直、勇者エクスがタイプではない事もある。


 尊敬に値する程の才能を持ち、正義感に溢れた少年だが、人としては清廉すぎて野心を持つ自分には何か薄っぺらく感じていた。


 目標として掲げるには良い相手だが、ただそれだけである。


 そんなエミリーであったから、自分のように野心を持って接触して来たこのダミスター商会会長アントには好感が持てた。


 言っている事も理解出来る。


 それに自分を高く評価してくれる相手と組みたいという思いもあった。


 自分がこれから成功していく上で最初に評価してくれた相手となら利益を共有してもいいだろうという思いもある。


「……それで私にあなたは何を求めるのですか?」


「それはもちろん、あなたの接触する北部貴族や勇者様の情報を。それらは全てお金になると思って下さい。商機はどこにあるかわからないですからね。例えば勇者様の趣味一つとっても、そこから流行が生まれるかもしれない。それを先取りしたらどうなるかわかりますよね?些細な情報も商人にとってはお金になります。あなたはそれらを形のある価値にする事が出来る場所にいるのです。だからこそ、私はあなたに交渉を求めたのです」


 商人アント(アントニオ)はリューからあらかじめ交渉材料になるような情報の説明を受けていたからスラスラと話して説得した。


「……わかりました。あなたの商会の北部地方進出の為に協力いたしましょう」


 エミリーがそう答えると二人は立ち上がり、がっちりと握手を交わすのであった。


 ちなみにリューはこれを足掛かりに、本当に北部地方への販路開拓に繋げようとしているのであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] エミリー良い子でGOOD! ゆくゆくは女公爵になってほしい~ 勇者がタイプじゃないし薄っぺらいって、笑いましたw
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