392話 接触を試みますが何か?
リューは執務室で、ランスキーが持ち帰った情報を基に勇者一行についてどうすべきか悩んでいた。
別に叩き潰そうとか考えているわけでなく、関わらないように距離を取るのか、それとも親しくなるのか、適度に近づきちょうどいい塩梅にするのか色々である。
特別に注目の的である人物とは、王女リズ以外ではあまり近づきたくないところではある。
情報通りなら、勇者エクスは正義感の塊みたいだし、それに心酔している取り巻きともあまり関係は持たない方が良さそうな気もする。
ただし、オチメラルダ公爵の令嬢エミリーには少し興味があった。
もちろん異性として見ているとかではなく、オチメラルダ公爵家がエラインダー公爵家と不倶戴天の敵であるからだ。
敵の敵は味方という言葉もあるし、エラインダー公爵家の存在はとにかく怖い。
関わりたくないから、その為にオチメラルダ公爵家に息を吹き返してもらい対抗勢力になってくれると助かる。
無理な話ではあるが、腐っても公爵家。
人脈などもあるだろし、味方に出来ると利点が多そうだと思ったのだ。
それに対して、勇者エクスの後ろ盾に収まった北部の最大派閥サムスギン辺境伯家は少し警戒しておきたい。
王家と近い関係ではないし、エラインダー公爵家VSオチメラルダ公爵家の際には漁夫の利を得て北部最大派閥になっているからエラインダー公爵家との距離も気になるところだ。
オイテン準男爵の情報では、付かず離れずの距離を保っているそうだが、どこまでそういう関係なのかはわからない。
独立独歩の気風があるらしいが、両者の利害が一致すれば協力する事もありそうでそれはそれで怖い。
そういう意味ではあまり近づきたくもないが、そういうわけにもいかない。
獅子族のライハート伯爵家の令嬢レオーナも勇者に心酔している。
剣技において北部最強の異名を持つライハート伯爵家にあって、レオーナもかなりの腕前らしいが、勇者エクスと勝負をして一歩及ばず負けたらしい。
それからは心酔しているのだとか。
その他以外にも勇者エクスに心酔している一年生は多いらしい。
二年生が王女リズの元にまとまっているように、一年生は早くも勇者エクスの元にまとまっているようだ。
「あちらの情報は欲しいところだよね」
リューはリーンに話を振った。
「でも、オチメラルダ公爵家に近づいたら逆にエラインダー公爵家に目を付けられるんじゃない?気を付けた方が良いとは思うわよ?」
リーンの指摘はもっともだ。
だが、完全に落ち目で、じきに降爵されるらしいという話もあるから、すでに勝負が付いている感は否めない。
それだけに近づいても大丈夫そうな気もするが、リーンの言う通り慎重に動いた方がいいかもしれない。
「ならば、こういう時の為の竜星組傘下系列の商会を使って支援してみようかなって」
「オチメラルダ公爵家を?」
「そう。オチメラルダ公爵家は、勇者の威光に頼って公爵家を立て直そうとしているみたいだから。かといって勇者の後援をしているサムスギン辺境伯家には頼っている形跡はないじゃない?それってやっぱり、公爵家と辺境伯家は微妙な関係なのかなと。そこにオチメラルダ公爵家のエミリー嬢を金銭的援助する商会が現れたらどうかなと」
「渡りに船……だわね」
リーンが納得した。
「でしょ?今の一年生は勇者という宗教に染まっている状態だと思うんだよ。それって不気味というか、ちょっと今後も逐一情報が欲しい感じじゃない?その中で、エミリー嬢は心酔よりも打算で勇者の元にいる感じだから妥当な選択だと思うんだよね」
「でもエミリー嬢はその中でこっちに情報を流すとしたら針の筵じゃない?」
リーンはそんな状態で情報を流してくれるか疑問に思った。
「それはもちろん、情報を流す相手が僕だとは教えないさ。あちらはあくまでも支援してくれる商会に勇者情報を流しているだけだと思わせるよ」
「それで納得するのかしら?」
リーンが苦笑する。
「こちらとしては情報が欲しいし、オチメラルダ公爵家の支援をしてエラインダー公爵家にも対抗してもらいたい。これはあっちにも利があるし、win₋winな関係になれると思うんだけどなぁ……」
リューは良い作戦だと考えているようだ。
「……確かにそうね。利害関係は一致しているわ。あとはあちらが上手く乗って来るかどうかね」
「一応、すでに最初の手は打っているんだけど、どうなったかな……」
リューは執務室の外を眺めると結果が気になるのであった。
オチメラルダ公爵令嬢エミリーが現在滞在している一年生寮に荷物が届いていた。
宛先はエミリー宛だ。
送り主は、ダミスター商会。
竜星組傘下の商会の名だが、もちろんそれは誰も知らない。
「?」
エミリーは聞かない名の商会と荷物に首を傾げた。
中身を開けると手紙が同封してある。
エミリーは自室でその手紙の封を切り中身を読んだ。
内容は、オチメラルダ公爵家への支援を願い出るもので、代わりにオチメラルダ公爵家の人脈を求めているというものであった。
その為に、エミリーに父親を紹介して欲しいのだという。
荷物の中身は紹介料代わりにお金の入った革袋と、ご友人と一緒に食べてくれるようにと、王都で人気だという『チョコ』というお菓子が同封してあった。
そしてよければ、一度、お会いして話を聞いて欲しいともある。
エミリーは戸惑った。
それに同封しているお金も結構な額だ。
受け取るか受け取らないかは別にしてもこの額は、相手に直接会って話をしない事にはどうしようもないと思うエミリーであった。
 




