390話 水と油になりそうですが何か?
その日のお昼休み。
勇者エクスとその取り巻きは、上級貴族が利用する食堂の二階にいた。
「王女殿下、遅いな」
勇者エクスは王女リズが食堂に現れるのを待っていた。
「個室を利用しているのでしょうか?」
オチメラルダ公爵の令嬢エミリーが金色の縦ロール髪をなびかせ、指摘した。
「それならば見張っているレオーナが気付くはずだが……」
サムスギン辺境伯の子息ルークが切れ長な視線をレオーナに向けた。
「……今のところ、その気配はないな」
獅子人族のライハート伯爵令嬢レオーナはルークに答える。
「外へ食事に出かけているとか?」
勇者エクスが的外れな事を言う。
「この学校の規則で外での食事は禁じられているわ。でも、王女殿下が規則を守っていない可能性もあるわね」
オチメラルダ公爵令嬢エミリーが可能性の一つを口にした。
「……それは計算外だな。エクスがお昼にまた話そうと提案しているのだから、断らないと思っていたのだが……。わざわざ避ける意図がわからない……。もしや、王女殿下の性格に難があるのかな?」
サムスギン辺境伯子息のルークが確認を取るように公爵令嬢エミリーに視線を送った。
「王女殿下は良くも悪くも周囲に無関心なところは以前からあったわ。もしかしたら、エクスに興味を持たなかった、あるいは仲良くする意思がないと示したのかも……」
公爵令嬢エミリーは最後に王女リズと顔を合わせたのは二年前の公式の場が最後だったのであまり王女リズの事を把握しているとは言えないのであった。
「……仕方ないな。王女殿下がそのような態度を取るのなら、無理に距離を縮めるわけにもいかない」
勇者エクスは残念そうに溜息を吐く。
「エクス大丈夫よ。あなたの人柄を王女殿下が少しでも知れば、態度も改まるはず」
公爵令嬢エミリーはそう言うと勇者エクスを励ます。
「まさか、王女殿下が態度を悪くするのは傍にいた例の男爵のせいではないか?」
勇者エクス一行の頭脳であるルークが朝の王女殿下に馴れ馴れしい態度を取っていたリューの存在を問題視した。
「……ミナトミュラー男爵か。年齢こそ僕と同じだけど、王女殿下への態度は確かに眉を顰めるものだったな……」
勇者エクスも王女リズに馴れ馴れしいリューにあまり良い印象持たなかったようだ。
「エクスと違い、男爵位を苦労せずに得た事で、慢心している人物なのかもしれない。エクスは爵位を得てもその重責に応えるべく日々勉強して貴族としての態度を学んでいるのにな」
勇者エクスとこの数年共にしているルークはエクスの努力を知っているからこそ、リューの地位を笠に着ての王女リズへの態度を咎める気持ちが強かった。
もちろん誤解だが。
「新興の成金貴族の子息はこれだから!──王女殿下はエクスと違い周囲に恵まれていないのかもね。学年は違うけど王女殿下の為にも周囲の人間関係には注意を払って上げないといけないわ」
公爵令嬢エミリーは王女リズの環境を悪く解釈するとみんなに賛同を求めた。
「そうだな。俺が王女殿下の周囲の人間関係を調べてみる。レオーナも協力してくれ」
サムスギン辺境伯の子息ルークは獅子人族の頼もしい相棒にお願いした。
「……わかった」
レオーナは、淡々とした表情で頷く。
「みんな、王女殿下に相応しい日常を僕達で取り戻して差し上げよう!」
勇者エクスが仲間に提案すると、みんなは「おー!」と息を合わせるのであった。
その頃の、一般食堂のある一階の座席の一部。
「ヘックション!」
「クシュン!」
リューと王女リズは同じタイミングでくしゃみをしていた。
「寒気がしたんだけど……。まさか、またどこかで僕の噂をされている?」
リューは何度か経験のある寒気にそう疑うのであった。
「……花粉かしら?」
王女リズは寒気は無かったのか花粉症を疑うのであった。
「リューは何気に敵が多いからな。はははっ!」
ランスが食事をしながら指摘する。
「ちょっと、何気にとは何よ。リューはちゃんとした敵しかいないわよ?」
リーンがよくわからない擁護をした。
「ちゃんとした敵はいらないからね?」
リューがリーンの言葉にツッコミを入れる。
「……リズ、風邪じゃない?大丈夫?」
シズが、リズのくしゃみに気を遣った。
「大丈夫よ、シズ。風邪ではないと思う」
王女リズは友人の心配する顔に笑顔で答えるのであった。
「そう言えば、一年生の勇者はお昼にまた話そうって言ってなかった?」
リーンが、王女リズに朝の出来事について確認した。
「そういえば、確かに言ってたよね。あの感じだとお昼休みになったらすぐ来るのかなと思ってたんだけど来ないね?」
リューも朝を思い出して振り返ると意外だとばかりに首を傾げた。
「例の最年少男爵様か?リューとは何日差だっけ?」
ランスが、少し笑うと、誰に聞くでもなく聞いた。
「そんなに変わらないんじゃないか?それよりも、あちらは情報解禁と共に派手に動いているみたいだな。取り巻きのオチメラルダ公爵令嬢を中心にこの数日、同学年の上級貴族の子息令嬢に挨拶して回っていたらしい」
ナジンが入手した情報をみんなに提供した。
「約二百年ぶりの勇者スキル持ち登場だからな。周囲の貴族も好意的に受け止めているらしい。そして、勇者エクス本人も評判が良いみたいだな。取り巻きもその人柄に心酔しているみたいだ」
イバルがナジンの情報に付け足した。
「へー、そうなんだ?確かに爽やかな印象があったけど、僕はちょっと苦手かもしれないなぁ」
リューは正義感が強い潔癖そうな印象を持った勇者エクスとは反りが合わない気がした。
「リューの好敵手現る、かもな?何せ受験は圧倒的一位で合格。その才能は勇者スキル持ちとしてもかなり優秀みたいだ。まさに、正義の味方!って感じだな」
ランスがリューを冷やかすように言いながら、勇者エクスをそう称した。
「私としては朝のような事が起きなければ、別に構わないけれど、付き纏われるのは嫌かな」
王女リズはそう答えると、リューも朝を思い出して「確かにあれには同情するかな」と、苦笑すると賛同するのであった。
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