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373話 旅の最終日ですが何か?

 リューは少し前から『次元回廊』の出入り口が倍、増やせるようになっている。


 つまり二か所から四か所になっているのだ。


 現在は、ランドマーク本領自宅前、王都ランドーマークビル五階自宅、そして、王宮内の三か所に出入り口を設置しているが、もちろんそれは身内であるリーンとスード、イバル等の他は家族しか知らない事実である。


 表向きは王女一行を運ぶ為、王宮に作っているのでこの王女一行の旅が終わったら、王宮に一行を一度送り届けてこのエリザの街に戻り、ランドマーク本領まで一週間かけて戻って出入り口を設置、そこから王宮に戻ってランドマークビルに帰宅という手間を掛けなければならない。


 なぜこんな手間をかけるのかというと、それはひとえに王家や上級貴族による悪用、無理難題を押し付けられる可能性を回避する為であった。


 リューはランドマーク家の三男であるから、ランドマーク本領に出入り口は必須であり、それ以外には使用しないし、出来ないという立場を貫いている。


 リューの能力が限定的なものであるという事にしておく事で、今回の様に南部の王家直轄領に向かう為の近道に利用した事もあくまでランドマーク本領に近いからであり、他の事への使用は無理であるという事にしてあるのだ。


 だがもし、さらに二か所出入り口を作れると知られたらどうだろう?


 リューは必ず、利用されるはずだ。


 軍の移動から輸送など、王家や上級貴族の要望に応じた移動に便利使いされる可能性が高くなる。


 リューはまだ、準男爵であったし、ランドマーク家も伯爵としてはまだ、立場が弱い。


 なにしろスゴエラ侯爵派閥から離れて、派閥を立ち上げて間がなく、派閥としては最弱と言えるからだ。


 もちろん、『王家の騎士』という肩書があるから、大抵の貴族からの無理難題は断れなくもないが付き合いも生まれるし、何より王家自体からの無理難題がないとも限らない。


 王女リズの様な良識ある王族なら問題無いが、中にはこちらの都合など考えない人物もいるだろう。


 それだけにリューの『次元回廊』の使用条件はとても「限定的なものである」という風に思って貰わないといけないから、リューは『次元回廊』の出入り口は現在、王宮に一か所というように見せないといけないのであった。


「明日にはこの仕事も終わりね」


 リーンが重要な仕事がようやく終わるとばかりにリューに話を振った。


「そうだね。でも僕達はまだ、リズ達を送り届けた後、ランドマーク本領へ移動して出入り口の再設定があるんだけどね」


 リューは友人である王女リズはともかく、傍にはマカセリン伯爵やヤーク子爵もいたから『次元回廊』の出入り口が複数設置できる事実を隠して話すのであった。


「今回の旅はミナトミュラー準男爵の働きが大きいからな。帰ったら陛下には貴殿の昇爵を勧めるとしよう」


 マカセリン伯爵はリューの事をこの旅でかなり評価を高くしてくれたようだ。


 それに、飲めないヤーク子爵と違い、マカセリン伯爵はお酒が好きなので、『ドラスタ』や『ニホン酒』といった銘柄を作っているミナトミュラー酒造商会に好感を持っている事もあった。


「それは恐れ入ります」


 リューもここでは流石に断らない。


 それに推薦されたからといって必ずしも昇爵出来るとは限らないだろう。


 どうしてもランドマーク家がトントン拍子で昇爵したから感覚が麻痺しがちだが、昇爵は一代かかっても出来ない事はよくある事だ。


 特にランドマーク家は伯爵という上級貴族の仲間入りできた時点で、他の上級貴族との釣り合い上、これ以上は望めないはずだ。


 それこそ、国家の危機に立ち上がり奮戦して敵を退ける事に大いに貢献したスゴエラ侯爵でさえ、辺境伯から侯爵への昇爵は十年以上かかっている。


 それは多分、そろそろいい歳だからこれまでの国への貢献を評価して、やっと昇爵させた形だろう。


 だから、リューは昇爵については与力という立場も踏まえ、これ以上はあまり期待していないのであった。


「リュー君の立場は難しいところね」


 王女リズはそれを察してかそう指摘した。


「難しい立場とは?」


 すっかりリューを評価する様になったヤーク子爵が、リューの昇爵に疑問はないのでは?とばかりに不敬ながら王女リズに聞き返した。


「最年少での叙爵。そこから一年満たずに準男爵に昇爵だぞ?それを与力の立場で男爵にまでなってみよ。異例尽くしだわい」


 マカセリン伯爵が王女リズに代わってヤーク子爵に答えた。


 王女リズに答えさせるとヤーク子爵の不敬が浮き彫りになるからであった。


「失礼しました、殿下。──マカセリン伯爵、私は元から宮廷貴族ですから、与力の立場に疎くて。そんなに与力での昇爵は大変ですか」


「そうさな。王家としてはそう易々と地方貴族の求めるままに与力の昇爵を認めてしまうようでは、地方貴族との力関係が壊れかねないからな。それに貴族が増え過ぎても困るところだ」


「──それでもリュー君の功績は昇爵には十分なのだけど、さすがに父上も短期間のうちにリュー君を男爵まで昇爵させる決定はしないと思う」


 王女リズは、友人の活躍が異例過ぎる事に立場上、昇爵を願い出る事が出来ないでいるのであった。


「リズも大変ね。私が国王陛下だったら、リューをすぐに昇爵させるところよ」


 身内贔屓のリーンである。当然とばかりに言うのであった。


「リーン、リズの前で自分が陛下だったらは、さすがに不敬が過ぎるよ」


 リューが苦笑いして注意した。


「あ、ごめんなさい。リズ」


 リーンは言い過ぎたと友人に謝るのであった。


「うふふ。いいのよリーン。私もそうしたいくらいリュー君にはこの旅ではお世話になったもの」


 リズは微笑んでリューの今回の活躍を最大限に評価してくれるのであった。


「今回の旅は、リズが一番活躍したと思うよ。僕も確かに協力はしたけど、リズがいないと何も起きないからね。さすが王家の代表だよ」


 リューはそう一同の会話を締め括る様に褒めると、マカセリン伯爵やヤーク子爵、リーンもその言葉に大きく頷くのであった。

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