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368話 トレドの街での後始末ですが何か?

 リーンが珍しく怪我を負う事になったトレドの街最終日の夜であったが、その怪我もリューのポーションで簡単に治る程度のものであったから大事に至らずに済んだ。


 もちろん、今回の問題を引き起こすきっかけとなったマジデールとゴーマス男爵も助けられた。


 領兵にチンピラ達が連行されるのを見届けると、


「今回の騒動について言い訳はありますか?」


 と質問した。


 リューはかすり傷とはいえリーンの怪我について表面上は淡々としていたが、内心は怒りに煮えくり返っていたのだ。


「言い訳も何も我々は今回の騒動については被害者だ!このチンピラ達の事は知らないし、誘拐されそうになったのも我々だぞ!それを貴族同士で助け合っただけの事、何も恥じるところはない!」


 マジデールはきっかけを作ったのは自分自身である事を棚に上げてそう言い訳した。


 誘拐未遂、さらには罠に嵌めようとしたリュー達に助けられたのに、その事に対するお詫びや感謝の一つもないのであった。


 それどころか、


「それよりも、そちらのエルフの戦士、よくぞ助けてくれた。なるほど、ミナトミュラー準男爵が偉そうなのは傍に貴殿がいるからこそなのだな!あの剣技、素晴らしかったぞ!──そこでだ。準男爵程度の男の元で才能を枯らすのではなく、エラソン辺境伯家でその才を発揮せぬか?今の報酬の倍、いや、三倍出そう!」


 と、リーンの勧誘を始めた。


 このお坊ちゃん、どこまで面の皮が厚いんだ。


 リューは呆れを通り越して、押えていた怒りが溢れてきた。


 ここははっきり言っておかなければならない。


「己で絵図を画いた(策略企む事)事を一部始終唄っておいて(自白する事)、失敗した挙句に芋を引き(怖気づく事)、いまさら知らぬ存ぜぬとは、恥を知れ。終いにはうちの大事な家族に怪我を負わせ、さらに引き抜こうとは畜生も良いところ。──その剣を渡すから抜くがいい。僕が相手をして上げるよ」


 リューは怒りのあまり、極道用語並べ立てて啖呵を切る。


「リュー、極道用語が多すぎてあまり、伝わってないわよ」


 リーンが横で冷静なツッコミを入れた。


 だが少し笑みを浮かべている。自分の為に怒ってくれている事が嬉しのだろう。


「な、何を言っている!?──私に決闘を挑むつもりか?南部の学校では好敵手もいないほど圧倒的な実力を持つ私に?はははっ!いいだろう、一分でかたを付けてやる!」


 前半の意味はよくわからないマジデールであったが、リューの怒り具合から、決闘を挑んでいるとわかり、勝負を受ける事にした。


 マジデールはゴーマス男爵の制止を聞かずに渡された剣を抜く。


 リューは、鬼気迫る気配を立ち上らせて無言で剣を抜く。


「リュー、落ち着いて!殺してしまったら後々、ランドマーク家も面倒な事になるわ!斬り落としたりしても、引っ付けられないから、表面だけ傷つける形で我慢して!」


 相手を殺してしまいそうなリューの雰囲気にリーンが鋭い声で制止を掛けた。


 内容がまた、微妙に残酷なものだったが、ランドマーク家という言葉にリューも正気に戻る。


 だが、その目はやはり、怒っている。


「そっちから来ないなら、私からいくぞ!」


 マジデールが余裕を持ってそう口にした時であった。


 リューの姿がぼやける。


 いや、そうではない。


 視界が自分の血で遮られたのだ。


 リューは残像と錯覚するほどに一瞬で距離を詰めると、リーンのアドバイス通り、致命傷を避けて四肢の表面を無数に切り刻む選択をしたのだ。


 マジデールは浅からず深からずの傷を全身に一瞬で受けていた。


 服は無残にも粉々に散り、体中からは血しぶきを上げ、その激痛のあまり、マジデールはその場に失禁して倒れるのであった。


 傍でマジデールの勝利を見届けようとしていたゴーマス男爵は、その光景に血の気が引くと顔を引き攣らせた。


「ぼ、坊ちゃん!」


 そこへ、リーンが即座に治癒魔法の詠唱に入る。


 リューは、はっ!?と、正気に戻ると、急いでマジック収納からポーションを取り出してマジデールにかける。


 ボロボロの上に水浸し、そして白目を剥いて失禁している様はエラソン辺境伯の嫡男としては醜態も良いところであった。



「──わかりました。私達の道案内をお願いしているミナトミュラー準男爵に対しての数々の無礼は、見過ごせません。マジデール殿の今後の同行は拒否し、正式にエラソン辺境伯には抗議文を送らせてもらいます」


 王女リズはトレドの街最後の夜に、マカセリン伯爵を通して、一部始終の報告を受け、リュー達に対してそう告げた。


 そこには気を失って立ち会えないマジデールの代わりに、ゴーマス男爵がいた。


「ど、どうか、マジデール様の言い分もお聞き下さい!」


 ゴーマス男爵が必死にそう言い訳をする。


「傍にいたあなたからも先程話は聞きましたよね?ほとんど、差異は無い様に思えますが?」


 王女リズは鋭い目つきでゴーマス男爵を見据えた。


 ゴーマス男爵はその視線に固まると横に視線を逸らした。


「マジデール殿はまだ未成年。ですが本人の為を思えば、今回は厳しく処罰する必要があると思います。ゴーマス男爵、あなたも側近としてゴマばかり擦っておらずに耳に痛い忠言もする事を忘れてはいけません。それが、エラソン辺境伯家の未来に繋がる事になるのですから」


 王女リズはゴーマス男爵にそう忠告すると、ゴーマス男爵を下がらせるのであった。


 ゴーマス男爵は心から反省した様に落ち込んだ様子で部屋を出て行くのであった。


「……リュー君、リーンさん、スード君。三人とも私やランス君に内緒で何をしているの」


 王女リズは、急に厳粛な雰囲気を崩すと、苦笑して注意した。


 マカセリン伯爵はそれを笑い飛ばす。


「わははっ!いや、エラソン辺境伯とその息子には良い薬ですよ!ミナトミュラー準男爵、良い仕事をしてくれた。王女殿下は南部派閥の最大勢力であるエラソン辺境伯にもこれで貸しを作る事が出来るし、ランドマーク伯爵派閥にも手が出しづらくなっただろうからな」


「事後処理をしてもらってすみません……。今回は色々と反省しました……」


 リューは王家の対応に感謝すると、お礼を言うのであった。

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