36話 身辺調査ですが何か?
スゴエラ侯爵は、ランドマーク男爵に譲る土地の選定に悩んでいた。
その一部として隣領のエランザ準男爵に新たな土地を与えて移動を打診したが、頑として首を振らないどころか、ランドマーク男爵の罵詈雑言を手紙に書き連ねて送ってきた。
この妄言としか思えない内容にスゴエラ侯爵も閉口した。
エランザ準男爵にはここのところいい噂が無い。
この手紙を読むと、どうやらその噂もあながち嘘ではない様だ。
そこでランドマーク男爵宛に一通の手紙を送った。
その内容は、エランザ準男爵からランドマーク家を誹る手紙がきた事や、隣領のランドマーク男爵ならばエランザ準男爵にまつわる噂の真実を知ってるかどうかと、問いただすものだった。
もちろん、ランドマーク男爵に譲る領地候補であることは記さない。
そこまで記せば事実とは異なる報告が来るかもしれない、まあ、ランドマーク家は悪い話は聞かないし、初代当主のカミーザは自分の部下として先の大戦で大いに活躍してくれた信頼すべき男なので疑ってはいない。
息子のファーザもこれまでカミーザと共によく尽くしてくれた。
そんなファーザからは、昇爵の儀直後に今後も恩を忘れず、スゴエラ侯爵の派閥の一員としてついて行くとも宣言してくれた。
同じ派閥の一員であるベイブリッジ伯爵とも最近親交を深めてるというし信頼は変わらない。
ランドマーク家に、スゴエラ侯爵から手紙が来た。
何でも、隣領のエランザ準男爵からランドマーク家を誹る手紙が来たそうだ。
ファーザはため息が出る思いだったが、スゴエラ侯爵がそれを真に受けてない事が伝わってきたので良かったが、これ以上の放置はランドマーク家の沽券にかかわる問題だ。
そこでリューを呼ぶとこの手紙をみせた。
「やっぱりこうなったんですね、ははは……」
「リューが言っていた通り、エスカレートしてきたな」
「実はお父さんには黙ってたけど、エランザ準男爵の身辺調査をやっておきました」
「そうなのか!?」
「債務者の身辺調査は金貸し屋の基本なんで!」
ガッツポーズをとるリュー。
「そうなのか?」
「そうなんです!」
またもガッツポーズをするリュー。
「よ、よし、それならば、私見を入れず、証拠だけをまとめて侯爵にお送りし、その上で判断して貰おう。で、エランザ準男爵の評判はそんなによくないのか?」
「はい、まず、領民への重税は噂通りです。そして、払えない領民にお金を貸して高利で追い込み、強制労働を強いたり、妻子に手を出すなど悪辣な限りを尽くしています。あと侯爵に納めるべき税を不作を理由に着服していますね。他にも……」
「ちょっと待て、そんな事を領主なのにやっているのか!?」
領民の幸せを第一に考えるのが領主の努めと考えているファーザには考えられない事だった。
「はい、そして、最大の問題が……、スゴエラ侯爵領を含むこの南東部地域の機密情報を積極的に入手しては隣国に売っています。この情報はつい最近、調査に雇っていた冒険者チームから報告がありました」
「な……!それは、侯爵への背信行為のみならず、国への反逆罪だぞ!?」
ファーザは、リューの衝撃的な報告に思わず立ち上がった。
「この調査結果にはボクも驚きました。税収以上に羽振りがいいので資金源を調べさせていたらこの結果でした」
ファーザは隣領の自分も、あの男の悪事にこれまで気づかなかった事に、ショックだったのか椅子に崩れる様に座り込んだ。
「徹底的に追い込みをかける時です。貸し付けたお金の回収のみならず、ランドマーク家に対する無礼の数々、ケリをつける時かと」
「……わかった、侯爵への報告書はリューに任せる」
「はい、準備はできてるので早速、お送りします」
リューはすぐに大量の証拠書類をまとめてスゴエラ侯爵の元に送った。
噂については判断しかねるので、事実のみをまとめました。
後は、侯爵の判断にお任せします、としたためて。