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337話 式典ですが何か?

 王宮内の広場での式典は、順調に進み、いよいよリューがリズを警護する近衛騎士団の面々をランドマーク本領へ送り込む順番が来た。


 式典に参加している王家の面々や、一部の関係者などは半信半疑の面持ちで、登場したリューを見守った。


 リューは昨日からの続きなので慣れたもので、今回の近衛騎士団の警護隊長を務めるダンテ・ヤーク子爵に、「それではリュー・ミナトミュラー準男爵、国王陛下にその能力を披露してくれ」と、合図を送られると頷いて近衛騎士の手を取ってその場から一瞬で消えて見せた。


 笑いものにでもしようかと待っていた者達は、その文字通り種も仕掛けもない魔法に目を見張った。


 すぐにリューは、一人戻ってくると次から次へと近衛騎士達を消していく。


「な、なんと……!デマかと思っていたのだが……」


「私も事実を目にしても信じられない……」


「本当に消された騎士達は無事なのか……?」


 王家の人間やその関係者はリューの手品としか思えない能力に俄然興味を持った。


「確か最近有名なランドマーク伯爵のところの与力だったな?」


「うちに欲しい人材だ。ランドマーク伯爵よりも良い条件で迎えるから口説き落とせないか?」


「それは無理でしょう。彼はランドマーク伯爵家の三男です」


「三男ならば、婿養子にする手もあるだろう。我が侯爵家に名を連ねられるのだ喜んで尻尾を振るだろう?」


 この式典に参加していた一部の上級貴族達は、リューを値踏みし始めた。


 リーンとスードはそんな貴族達の評価を聞き流していた。


 リューがそんな誘いを受けるはずがないとわかっているからだ。


 リューにとって地位と名誉は主家であるランドマーク家があってこそであり、主家の発展が第一、その上でミナトミュラー家がそこに続ければよいというのが、リューの意思であった。


 ミナトミュラー家の家臣達もそれを重々承知しており、その為に動く事を徹底していた。


 リーンとスードもそういう意味で、ミナトミュラー家の家族であったから、揺らぐ事は一切無いのであった。


 リューが準備していた近衛騎士団の騎士達を全てランドマーク本領に送り込むと、続いて今回のリズの旅行道具一式が使用人達によって広場に運び込まれるが、リューが片っ端からそれをマジック収納に入れて消していく。


 結構な量であったが、リューは眉一つ動かさず、こなしていく。


「なんと……!遠い地に移動できるだけでなく大容量のマジック収納も持っているのか……!」


「王家特別仕様の大きな馬車まで!──馬まで易々と移動させるとは……!」


「ランドマーク伯爵に領地の一部と交換してあの少年を譲って貰えないものか……」


 リューは最早、珍獣の様な扱いであったが、リューは表面上はそれを気にする事無く、仕事と割り切って行っていった。


 リズの従者やメイド、専属料理人、使用人達もリューはランドマーク本領に送り込んでいく。


 そして、リズの番であった。


「……ミナトミュラー君。よろしく頼むわ」


 リズは口元を隠し、小声で頼もしい同級生の友人にお願いするのであった。


 リューは、微笑して頷くと、「王女殿下、お手を」と、仰々しい態度を取る。


 さすがに公式の場でいつもの友人に対する態度で気軽にあちらに送るわけにもいかない。


「お願いします、ミナトミュラー準男爵」


 エリザベス王女としての笑みを浮かべてリズがリューに手を差し出す。


 リューは、その手を取ると、一瞬で消え去った。


 そして、すぐに戻ると、丁度、今回の護衛隊長であるヤーク子爵と、今回の一団の総責任者であるマカセリン伯爵が国王に挨拶をしていた。


「──それでは行って参ります、陛下。今回の南部訪問、王家の威光を示してきますぞ!」


 老齢で立派な白いひげを蓄えたマカセリン伯爵はそう陛下に誓うと、戻って来たリューに言い放つ。


「さあ、ミナトミュラー準男爵、行こうか未開の地が広がる南部へ!」


 初めての南部訪問に気合が入っているマカセリン伯爵であったが、かなり失礼な発言をしている事を理解していない様だ。


 それは未開の地を切り拡げて領地にしているランドマーク伯爵領を侮蔑するに等しかったが、悪気がなさそうである。


 きっと、王女を護る事と、王家の威光を示すという任務にのみ集中しているのだろう。


 リューは苦笑しながら手を取り、ランドマーク領に送り届けた。


 最後にダンテ・ヤーク子爵が続く。


 ヤーク子爵は前日に一度経験しているので、ビビる事なく優雅にリューの手を握ると姿を消した。


 きっと、前日から格好よく消える練習をしていたに違いない。


 これにはリューも、昨日はかなりビビっていたよね?と、内心でツッコミを入れつつランドマーク領への運ぶのであった。


 そして、リーンとスードを運び、最後にリューが国王にお辞儀をする。


「ミナトミュラー準男爵よ。娘を頼むぞ。そして、ランドマーク伯爵にもよろしく伝えておいてくれ」


 国王がリューに声を掛けた。


 これは異例だったので、周囲もざわめく。


 下級貴族であるリューにとって、これに許可なく返答する事も憚られたが、国王の横に立つ宰相がリューを見て頷く。


「近衛騎士団のみなさんが旅の安全は守り、そして、道案内はランドマーク家が。王家の威光は王女殿下がお示しになると思います。そして全ての事はマカセリン伯爵が万事うまくなされるかと……。そして、王宮には私が無事送り届けますのでご安心下さい。父も陛下からのお言葉に喜ぶと思います」


「はっはっはっ!そうか!心強い事だ。それでは行って参れ」


 国王はリューの言葉に満足すると手を振った。


 リューは深々とお辞儀をすると、『次元回廊』を使ってその場からパッと消えるのであった。


「頼もしいものだな」


 国王は隣の宰相にそう漏らして笑みを浮かべるのであった。

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