32話 地獄絵図ですが何か?
今回のお見合いを裏で取り仕切っていたリューが一言で表現すると、地獄絵図だった。
庭で立食式のパーティーだったのだが、女性陣がタウロを囲みアピール合戦が始まった。
そこまでは、想像も容易だったが、その後ろには、前世のTVで観た記憶があるどこかのつぶやき女将の様に、親が娘の背後から台詞を吹き込む輪が出来ていて、異様だった。
「……ご趣味は何ですかって聞いて話を広げなさい」
「……ここは自然が多くて良いところですねって、褒めるのよ」
「……料理が得意だとアピールするんだ」
タウロに筒抜けのつぶやき女将合戦が展開される中、徐々にヒートアップしてくると娘同士の嫌味、中傷が始まった。
その頃にはタウロの作り笑顔も表情筋と共に死んでいた。
そんな地獄絵図が展開される中、輪に入らず遠目から心配する娘がいた。
ベイブリッジ伯爵の娘、エリスである。
父親と共に、タウロを囲む輪には入らず、遠巻きに見つめていた。
「これはタウロ君も可哀想だな」
娘の心配する顔に気づいてかベイブリッジ伯爵が背中をそっとさすった。
そんなエリスにタウロが気づいた。
同級生なので顔見知りなのだろう、視線があったので弱弱しい笑顔を見せた。
エリスも、すぐに笑顔で答え、小さく手を振った。
その光景を見ていたリューは、この二人が引っ付けば、良いのにと考えた。
そこで、タウロに背後から近づくと、
「兄さん、エリス嬢にも話しかけて下さい、じゃないとベイブリッジ伯爵に失礼に当たります。それと、ベイブリッジ伯爵の娘さんが相手なら他の人も文句は言えません」
そう、取り囲んでいるのは騎士爵から、男爵のところの娘がほとんどで地位的に伯爵の娘と話すとなると邪魔だてできる者はいないだろう。
タウロは、リューが自分に助け舟でアドバイスをしてくれたと思ったのだろう、素直に従うと、自分を囲む輪を「すみません」と言って突っ切り、エリスの元に行って話しかけた。
他の娘達は最初、その二人の会話に入ろうとしたが、娘の背後に立ってるのがベイブリッジ伯爵と知ると親の方が娘を止めて首を振る。
「すみません、伯爵を利用する事になりました」
タウロが正直にベイブリッジ伯爵に謝罪する。
「いや、かまわんよ。それより娘と話をして上げて欲しい。今日は娘が望んで来たのだから」
笑顔でタウロの謝罪を受け入れた伯爵は父親として娘を案じていた。
「はい。──エリス、今日は来てくれてありがとう」
その後の二人の会話は学校生活や家での事など他愛のない会話ばかりだったが、リューの目に映るのは、二人の今日一番の笑顔だった。
父のファーザはその間、他の参加者の相手を妻のセシルと一緒にするのだが、お見合い一行は標的をタウロからその親である二人に方向転換し、美辞麗句の嵐を注ぎ込んできた。
こちらも後半は表情筋と共に作り笑顔は死んでいた。
お見合いに来た一行は、ランドマーク家が用意したレンガ造りの立派な宿泊施設に一泊するとおもてなしに満足して自領に帰っていった。
ちなみに、宿泊施設はリューが半月かけて、屋敷の近くに土魔法で建てたものだったが、ランドマーク家の屋敷より立派だったと噂になったらしい。
お見合いの返事だが、タウロはこの後すぐにお断りの手紙を全員に出した。
そう、全員にである。
理由は、今はまだそういう事は考えられないというタウロの正直な気持ちが綴ってあった。
数日後に新学期が始まり、タウロは学校に戻るのだが、そこでエリス嬢に会うとすぐに交際を申し込んだ。
タウロからの手紙では返事はOKだったそうで、ベイブリッジ伯爵にも交際の許しを、連名で手紙に綴ってお願いしたらしい。後日、伯爵本人がその件で会いに来るそうだ、多分、雰囲気的に大丈夫だろう。
ファーザもこの報告には驚き、日にちを確認してタウロに会いに行く事になった。
ちなみに、お見合い大作戦のちょっと前、シーマが試験にトップ合格し、今年からタウロと一緒の学校に通う事になったのだが、タウロのお見合い騒ぎで何となく有耶無耶な雰囲気になったのだが、本人は、目の前でタウロがエリス嬢に交際を申し込み、それが成功した事を喜んでいて、気にも留めていないらしい。
どちらにせよ、めでたいこと続きでランドマーク家は我が世の春だった。