312話 粉砕しますが何か?
領境の村を襲撃する南部派閥の精鋭部隊は、昼夜問わず、その数にものを言わせてランドマークとの境にある村を襲撃していた。
南部派閥は数で圧倒していた。
だが、ランドマーク領の村人を装っている領兵達は少数ながら精兵揃いであった。
だが、こちらは数で有利、襲撃隊の隊長達は戦い方を心得ていた。
それでも敵の隊長だろうか?
こちらが調べた限りでは、見た事も聞いた事もない大男が、奮戦していた。
片眼に眼帯をし、左の小指が無いという特徴だらけだったが、ランドマーク領内を調べさせた限りでは、誰も知らない男だった。
当初は、その活躍ぶりからランドマークの領兵隊長であるスーゴという男を疑った。
もし、スーゴという男なら、村人同士の諍いに領兵隊長が混ざって問題を起こしていると、こちらも難癖をつける予定であったが、ランドマーク伯爵は慎重な男らしく領境にそれらしい関係者を送り込んだ形跡はなかった。
無名の領兵を送り込んではいるだろうが、こちらもそこまでは調べ上げるのは無理がある。
という事は、ランドマークの村側の村人を装っている者達は、無名の領兵という事になるのだが、全員、猛者ばかりで村の中に侵入して荒らすところまでいけずにいた。
それでも、手応えは感じていた。
敵も疲れを見せていたのだ。
それはそうだ、こちらは数では圧倒的で数部隊を昼夜問わず、襲撃に向かわせる事が出来る。
だが、敵は眼帯の男を中心に入れ替わりがある様には思えなかったのだ。
人手不足という情報は正しかったようだ。
だが、こちらの情報もあちらに漏れている節がある。
襲撃時間が気付かれている様なのだ。
その為、大打撃を与える事が出来なかった。
しかし、物量を持ってすれば、多少の情報漏洩も関係ない。
今日こそは、眼帯の男を捕らえて、領兵である事を吐かせ、領境を荒らす謀略を企んでいたと責める事が出来るだろう。
南部派閥上層部の命令で精鋭部隊を率いていた隊長達はそう確信していたのだが……。
何が起こっている!?
前回までは、眼帯の男率いるランドマーク領兵と互角に渡り合ってきた精鋭部隊が、村の子供の姿をしている化物に、紙粘土の人形の様に四方に殴り飛ばされ、吹き飛ばされ、投げ飛ばされていた。
さらには女二人がまた、眼帯の大男クラスの暴れ方をしている。
いや、華奢な女の方はそれ以上の活躍をしている。
「全員、気を付けろ!新手の敵が混ざっているぞ!眼帯男用だった仕掛けは、こいつ等に使え!出し惜しみしていると被害が大きくなる!」
いまさらだが、隊長は部下達に警告を発した。
眼帯男とはランスキーの事であり、化物子供はリュー、華奢な女はリーン、もう一人の女はルチーナの事であったが、このいまさらな命令は、ランドマーク側に指揮官が誰であるか教えるものであった。
化物子供リューは、方向転換すると警告を発した隊長目がけて突き進んで来た。
「奴を止めろ!仕掛けを使うのだ!」
隊長は自分が標的になった事に気づくと慌てて周囲に命令を出す。
すると周囲に何やら塊を持った者達が化物子供の前に出ると、それを投げつけた。
その塊は化物子供を覆う様に空中で広がる。
そう、それは投網であった。
南部や南東部では海が無いから珍しく、使用する者もいないが敵を捕らえるのに使えそうだと、どこからか用意したものであった。
その投網は化物子供を覆う様に落下する。
が、その瞬間であった。
投網が空中で四散した。
化物子供の背後で華奢なほっかぶりの女が風魔法でズタズタにしたのだ。
「魔法!?それも、無詠唱だと!?」
隊長は驚いた。
そんな事を出来るものなどこの地域では限られてくる。
というかランドマーク伯爵家にそんな者がいるとは、報告を受けていない。
そうなると、派閥の長スゴエラ侯爵から兵が派遣されているのか!?
隊長は色々な可能性が咄嗟に頭を過ぎった。
だが、それが隊長にとっては、命とりであった。
化物子供が目の前まで迫っていたのだ。
「なっ!?」
はっと我に返った時はもう遅く、化物子供が飛び上がって殴り下ろす様に繰り出した拳が隊長の顔にさく裂し、その瞬間、隊長の意識は吹き飛び地面に叩きつけられていたのであった。
村人に化けていた精鋭部隊は、隊長がやられたので、助け出そうと化物子供に立ち向かっていったが、その前に立ちはだかった華奢なほっかぶりの女性に棒切れで次から次に叩き伏せられてしまい、救出を断念して撤退した。
「この調子で襲撃がある度に、敵の隊長クラスを捕らえていこうか」
先程までの暴れっぷりが嘘の様に笑顔でリューがリーンとルチーナに言う。
「……その前にそいつ、治療しないと顎が粉砕されてるんじゃないかい?」
ルチーナが、自分のところの親分の桁外れの強さに呆れながら、リューがやらかした事を指摘した。
「……そうね。リュー、ちょっとどいて、私が治療するから」
リーンが、ルチーナの進言に頷くと治療魔法を使用するのであった。
「あらら。ちょっとやり過ぎたかも……。少し、気が昂っちゃったみたいだ。でも、ランドマーク領に手を出した事が如何に悪手か身をもって知って貰う機会にはなったかな?」
リューは反省しつつ、捕らえた敵の数を確認して少し満足するのであった。




