305話 手打ちですが何か?
王都郊外での巨大組織同士による手打ち式は、『竜星組』側は大幹部であるマルコが代表し、『聖銀狼会』は先兵隊に続いて第二陣として王都に上って来ていた大幹部との間で行われる事になった。
第二陣の幹部の傍には先兵隊の大将であった大幹部ゴドーの参謀を務めていたラーシュが従っている。
マルコ側の下には使用人のフリをしてリューとスードが付き従っている。
その二人が、手打ち式の会談の為に、マジック収納付きバッグから大きな机と椅子を取り出して丘の上に設置していく。
『聖銀狼会』側はその手際に、「子供までいるのかと思ったが、使えるものは何でも使うのが『闇組織』だった事を考えると驚く事ではないか……」と、妙に納得するのであった。
リューとスードは準備を終えるとマルコの背後について傍から離れない。
『聖銀狼会』側は、その様子を確認して用意された椅子に第二陣の大幹部が座る。
その後ろには元参謀ラーシュと第二陣の大幹部の右腕であろう強面の男が立つ。
マルコはそれを確認して自分も席に着いた。
その背後には使用人を装うリューとスードが立っている。
「……では事前の打ち合わせ通り、そちらの公式謝罪と賠償について確認しましょうか」
マルコは淡々と相手に気を使う事なく話を進める。
「……!」
マルコの事務的な対応に、『聖銀狼会』側は殺気立った。
いくら負けたからとは言え、はいそうですかと素直に謝罪するには抵抗がある。
そこに、この対応だ。
当然の反応と言えば当然であった。
「……それとも、ここでまた殺り合う気か?」
マルコは、鋭い視線を第二陣の大幹部に向ける。
「貴様!黙っていりゃ調子に乗りやがって!」
大幹部の右腕と思われる強面の男が、前に出ようとした。
それを大幹部が右手で制した。
「……止めておけ。こちらは今、陸に上がった魚も同然だ。ここで手打ちをご破算にしたら、率いてきたうちの第二陣もどうなるかわからん。そうなると会長に顔向けできんぞ」
中肉中背と後ろに立つ男より小さいが、強者の風格を持つ大幹部の男は、強面の大男を諭した。
「……くっ!──すみませんでした……」
強面の男は、ぐっと我慢すると、非礼を謝罪した。
「そちらの卑怯な奇襲から始めた抗争を、うちの組長が目を瞑り、大幹部ゴドーの顔を立てて手打ちで収めなければ、その後ろのラーシュと残った半数近くの手下全員の命も終わっていた話だ。それをどれくらい理解しているか確認したかったんだが、どうやら第二陣の大幹部は理解してくれている様で安心した。ならば手続きに入ろうか」
マルコは、目的は果たしたとばかりに、手打ちを進めた。
もちろん、前世の極道の抗争ではないから、こちらの手打ちは誓約書を作ってそれにサインするだけだ。
今回は、第二陣の大幹部による頭を下げての謝罪も含まれる。
これはこれでかなり屈辱的ではあるが、今回の件は仕掛けた『聖銀狼会』側に全面的に非がある。
これで、『聖銀狼会』側が勝っていれば、「勝てば官軍」である。
その行為は正当化され、王都の組織側は敗者=悪として軍門に下って終わりだっただろう。
それが出来なかった『聖銀狼会』の完敗である。
第二陣の大幹部は、今回の抗争の全責任は『聖銀狼会』にあり、謝罪するものである事を認める内容の誓約書にサインする。
これにはもちろん、賠償額も記載されている。
賠償額は多額であったが、第二陣が王都進出費用として用意していた全額でなんとか支払えた。
まるで、こちらの策が完全に読まれていたかの様な賠償額であった。
「……すまなかった」
最後に第二陣の大幹部は、その場で土下座して謝罪する。
これ以上は言葉もいらないだろう。
自分のところの大幹部が、土下座して謝罪する姿は他の部下達も遠目に確認できた。
ここで、自分達が卑怯な手まで使って始めた抗争が、完全な敗北である事を自覚する事になった瞬間であった。
「……これで抗争は一旦終わりだね」
マルコの背後でリューが小声でつぶやく。
マルコは黙って頷き、ここに王都の裏社会を揺るがした抗争は幕を閉じたのであった。
「ランスキーがここにいたら、悔しがったでしょうな」
マルコが、帰りの馬車内でリューに笑って指摘する。
「ははは。それはどうだろう。あっちはあっちで忙しいだろうからね。僕も、ちょっと、マイスタの街を留守にする事もあるかもしれないから、その時はよろしくね」
「人材もかなり増えたので、本家に投入する数、増やしますか若?」
マルコが、提案する。
「そうだね……。魔境の森組の若い衆を二百人程連れて行こうかな」
リューは、最悪の場合に備えて答えた。
「本家の方はそこまで不穏な雰囲気何ですか?」
マルコはリューの言葉に驚いた。
ランスキーの率いて向かった数は竜星組の精鋭二百である。
それと同数を連れて行くとなると、戦争に行くようなものだ。
「今のところの報告では、南部派閥の動きはランドマーク家の領境を本気で荒らしたいみたいだからね。村同士の諍い事に紛れて各貴族の精鋭の兵を村人に装わせて投入しているみたいだから、こちらも数を投入しないと。本家のランドマーク伯爵家は、領地が増えたばかりでただでさえ人手不足。表向きは領境での村同士の諍い程度にスゴエラ侯爵に出て来て貰うわけにもいかないから、困りどころかもしれない」
リューも、領境で揉めている相手伯爵の背後で、南部派閥が動いている事がランスキーの報告からわかっているだけに、悩みの種は尽きないのであった。
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