298話 見つかりませんが何か?
ノストラ率いる『闇商会』と、ルチーナ率いる『闇夜会』は、苦戦を強いられていた。
相手は西部の一大勢力である『聖銀狼会』である。
先手を打った『聖銀狼会』に対し、『闇商会』と『闇夜会』も反撃して一進一退を繰り広げていたが、両者が王都に事務所や商会、縄張りを置いてるのに対し、相手の『聖銀狼会』は、地盤が無く潜伏しては、ゲリラ戦略の様にあらゆる手段を使って狡猾に両者を攻撃していた。
両陣営が営業しているお店の客として現れて襲撃したり、一般人に紛れての騙し討ち。
時には、加工した魔道石を使って派手に事務所を爆破して、騎士団や警備隊の監視下に置かれ身動きが取れなくしたりと、その手法は一昔前の『闇組織』の様であった。
敵は、縄張りを荒らす事で一般人を巻き込む事も躊躇しなかった。
これは、裏社会ではご法度の行為であったが、『聖銀狼会』は、それを無視して攻勢を強めている。
一時は『竜星組』が、『聖銀狼会』の大幹部が暗号を部下に送って命令を出している事を解明し、手の内を読んでいたのだが、敵も馬鹿ではない。
失敗が続くと手法を変えて部下に別の方法で指令を送っている様だった。
こうして、『聖銀狼会』のペースで、地の利があるはずの『闇商会』と『闇夜会』は、泥沼にハマっていった。
その中、『竜星組』は、『闇商会』と『闇夜会』に協力を申し出ていたが、両者が自分達の面子の手前、『竜星組』の参戦を断って『聖銀狼会』と戦う事を決していたので、時折、両者に情報を流す事しか出来ずにいた。
そして、悪循環は続くもので、連日連夜、王都で起きる騒動に、警備隊と騎士団もピリピリして、『闇商会』と『闇夜会』の関係者を連行する事も増えてきた。
警備隊と騎士団は、『闇商会』と『闇夜会』の両者がやり合っていると未だに思っていたのだ。
もちろん、『闇商会』と、『闇夜会』の関係者はやってないと供述して、あとはだんまりである。
裏社会には裏社会の暗黙の了解があり、抗争に部外者が関わる事を、ことさら嫌う。
まして、取り締まる側の人間を拘わらせる事など持ってのほかだ。
それだけに全ては事故、個人の言い争い、喧嘩などで処理するしか解決方法が無いのが、現状であった。
その間、『竜星組』も手をこまねいていたわけではない。
両者に手を出すなと言われているが、独自に人手不足の合間にも人員を割いて、襲撃犯である『聖銀狼会』の実行犯達の潜伏先を探させていた。
だがこれが中々見つからない。
土地勘が無いはずの『聖銀狼会』が、こうも巧みに王都の三大組織のうちの二つを相手に立ち回っているのが不可解であった。
これには、情報戦に自信があった『竜星組』も不思議で仕方がなかった。
未だ部下からは隠れ家と思われる重要な情報は上がってきていない。
まるで、リューの『次元回廊』でも、使っている様であった。
もちろん、リューはこの可能性も考えたが、自分でもいうのもなんだが、こんな珍しい能力が裏社会に二つも存在するとは思えないから、他の可能性を探るしかないのであった。
そうなるとやはり、王都に地の利がある誰かが手引きしている事になるのだが、その一番の可能性である『雷蛮会』は、当然ながら蚊帳の外に扱われて憤慨している状況であったから、その可能性は消えていた。
その考えを頭の中で否定した時、リューは一つの可能性が頭を過ぎった。
「もしかして……。──マルコ。『上弦の闇』の残党で、『雷蛮会』に吸収されていない連中って、今、どうなっているの?」
マルコに確認の為に聞いてみた。
その質問に、
「……その可能性は考えていませんでした。なるほど、『上弦の闇』の残党なら王都について詳しいし、他所の組織を招き入れる理由も持っていますね。──調べさせます!」
マルコは、リューの指摘に可能性を見出すと部下に調べる様に命令した。
「これが当たりなら、地の利もうまく克服して念入りに策を練っていたんだろうねあっちは……」
リューは改めて敵の用意周到さに、感心するのであった。
「敵ながら、あっぱれだね。それだけ王都進出の夢が本気という事か……」
「ですが、我々としては、叩き潰さなくてはならないです」
マルコが、答える。
「そうだね。うちはマイスタの住民でもあり、同盟を結んでいる『闇商会』と『闇夜会』が手痛いダメージを受けているのを見過ごせない。すでにあちらはやる気十分。それに明日は我が身だろう。だから、徹底的に調べ上げて奴らの頭上に鉄槌を下し、王都進出の夢を打ち砕かないといけない」
リューにしては、厳しい言葉がその口から洩れたのであった。
だが、リューの思いも虚しく、上弦の闇の残党は地下に潜っているのか見つからなかった。
というか近隣住民の証言から、どうやら『聖銀狼会』が進出して来た時期を境に『上弦の闇』の残党は消えたようだ。
「残党が、クロ……、みたいだね」
情報元は、確定した。
だが、肝心の『聖銀狼会』の元まで辿り着かない。
「大幹部ゴドーと、その右腕の兎人族の動きは?」
「ありません。これまでのやり方から完全に手法を変えたみたいです」
マルコが、リューにそんな報告しかできない事に申し訳ないという顔で答えた。
「うーん。あまりにも情報が無さすぎるよね……何か見落としている気が……」
リューは考える。
リーンもその傍で、考え込んだ。
「ねぇ、リュー?本当に王都中を調べさせているのよね?」
「うん?──そうだよね、マルコ?」
「はい、もちろんです。敵の縄張りどころか、『闇商会』、『闇夜会』の味方の縄張りまで調べ上げています」
「……あ。──もしかして……!──マルコ、若い衆を率いているアントニオと、ミゲルを呼んで。もしかしたら、敵の潜んでいる場所がわかったかもしれない」
リューは、何か確信をもってマルコに答えるのであった。




