283話 西が動きますが何か?
新年早々、動きが気になっていた『聖銀狼会』が、ついに動き出すようだ。
『雷蛮会』に幹部として入り込んでいる竜星組の部下から、マルコに連絡があったらしい。
先兵として兵隊を百人程送り込んでくるそうだ。
マルコから執務室で直接連絡を受けたリューは、
「意外に多いね」
と、想定よりも数が多い事に驚いた。
「それだけ王都進出が本気って事じゃない?」
リーンが、リューの後ろで指摘する。
「予想の倍か……。これはいきなり何か仕掛けてくる為の布石かも。潜伏先はわかってるの?」
「『雷蛮会』が準備した王都内の隠れ家に入る予定みたいです」
「そっか。それなら動きも監視できるか……。念の為、リーダー格には一日中監視できる体制を作っておいて」
「一日中ですか?」
「うん。百人もの兵隊はともかく、リーダー格さえ押さえておけば、他はなんとでもなるからね」
「……確かに。承知しました」
その翌日──
西部の裏社会のドンである『聖銀狼会』が王都入りしたという情報がマルコからもたらされた。
先兵隊を率いるのは、『聖銀狼会』の大幹部のひとり、ゴドー。
平民から元王国騎士まで一時は昇りつめた生粋の武人だ。
以前の『闇組織』との抗争時にも、先陣を切った人物で、茶色の短髪に黒い隻眼の偉丈夫らしい。
「分かり易いぐらい、人選が抗争する気満々だね」
執務室でマルコの報告を聞いたリューは、相手の王都進出が力任せの様だと察した。
「そのゴドーの右腕が結構頭が回る奴みたいです。雷蛮会の事務所に現れたのはゴドーとその右腕の部下であるラーシュという男ですが、兵隊は自分達で用意したアジトに散開させた後だったらしく確認できなかったそうです」
「……ゴドーの存在は僕達の目を引く為の囮かぁ。やられたね……。念の為、うちの連中にはもちろんの事、『闇商会』と『闇夜会』にも警戒する様に連絡しておいて」
「はい、早速」
「『雷蛮会』は自分達が用意したアジトを使って貰えなかったから大恥だよね?反応はどうだったの?」
「最初、怒っていたんですが、ラーシュという男が、結構な額の詫び料を用意していたとかでボスのライバはご機嫌だったようです」
「……どちらも狸だね。ライバ君は、わざと怒ってお金を多く出させた可能性が高いし、ラーシュという男も『雷蛮会』の一連の流れの反応で、ライバ君という人物を測ったのだと思う。どちらが上手だったって事はないだろうけど、仲違いはしなかったみたいだね。──そうだ、ラーシュの特徴だけ聞いておこうか」
「兎の獣人族です。毛並みは白。身長は平均より低め、体格は普通、前髪で目を隠しているので表情を窺うのが難しかったそうです」
「兎人族か。聞く限り、参謀タイプかな……。──その事もみんなには伝えておいて、うちで対応する事になるかもしれないから」
「はい」
「今回の件、うちの対応はどうしますか?」
「竜星組の方針は変わらないよ。やられたら徹底的にやり返す。ただし、相手の計略が予想される時点で、喧嘩を売られたと判断し、行動する。先の先、後の先を取るのが兵法の基本だから、やられるまで完全に待つ気はないよ。また、連絡会の同胞である『闇商会』、『闇夜会』が助けを求めてきた時点でもまた、同じ対応で。街長的には、みんなマイスタの住人だから、守る義務があるし」
「わかりました。その方針で部下を動かします」
マルコは、そう答えると執務室を出て行った。
「『聖銀狼会』って、以前の『闇組織』との抗争で痛い目にあっているんでしょ?かなり慎重に色々仕掛けて来るんじゃない?」
リーンが、ここで初めて口を出した。
「そうかもしれない。もしかしたら、『闇組織』にやられた事を、そっくりやって来るんじゃないかな?毒殺、奇襲、罠、人質を取っての脅迫や、仲間内で争わせるなど色々ね」
「じゃあ、対応出来る様に対策しないと駄目ね」
「それはマルコがやってくれると思う。問題は、『聖銀狼会』が、王都進出の為にどこを的にしてくるかだろうね。王都の全ての組織を狙う可能性もあるけど、それだと王都進出しても旨味が少ない。今回はどこか一つ大きなところを潰して実力を見せ、確実に各個撃破していく算段じゃないかな。となると、狙われるのは積年の恨みがある『闇組織』から分かれたうちか、『闇商会』、『闇夜会』の三つだろうね」
「じゃあ、もっと警戒しないといけないじゃない」
「うちは、その中でも一番標的にはされないかも」
「そうなの?」
「うん、うちは、大幹部のルッチを潰して勢力の一部を切り取った形だからね。『聖銀狼会』的には、抗争の際、色んな計略で徹底的に自分達に被害を与える策を練った当人である『闇商会』のボス・ノストラか、実行部隊を当時率いて暴れ回った『闇夜会』のボス・ルチーナ辺りを潰したいと思う。復讐も出来て、組織の士気も上がり、王都にも進出できるから。でも、そこまで読んで、王都で一番大きい『竜星組』を狙ってくるというパターンもなくはないけど、現実的じゃないかな」
リューは考え込むと、考えを巡らした。
「うちを狙うのは現実的じゃないの?」
「だって、うちを狙ったら、抗争が長引く可能性が高いでしょ?その分王都進出という悲願も遠のくし、長引けば現実的に費用もかさむ。それに復讐も果たせない。『聖銀狼会』的には、『王都進出』、『利益の確保』、『積年の恨みの解消』の一石三鳥を狙うのが自然かな」
リューは指を折って数えながら説明した。
「じゃあ、『闇商会』と『闇夜会』のどちらかね」
「そうなると思う。──僕だったら、計略に長けているノストラの『闇商会』を先手必勝で真っ先に狙うかな。その後、『闇夜会』を潰し、王都で最大勢力になったところで、『竜星組』を正面から潰すだろうね。『黒炎の羊』は、潰すなり脅すなり、いつでも料理できるし、そうなったら協力者の『雷蛮会』は自然消滅かな」
リューは、そう答えると、アーサの入れたお茶を飲んで一息吐くのであった。




