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272話 大きな大会ですが何か?

 そのイベントは、ランドマーク家主催、ランドマークビル管理人レンド発案のものだった。


 王都の大きな広場の一部の使用許可を取り、そこに大小のテントを張って会場作りが始まっていた。


「結構広い場所を借りたのね」


 リーンが興味を引かれた様に、周囲を見渡す。


「当日は露店も出して盛大にやる予定だからね。ミナトミュラー家は今回、その補助だから」


 大きなテントを張る作業は、ミナトミュラー商会建築部門の職人達が行っている。


 リューは、その作業の初日という事で、現場の確認をする為に学校に許可を取って休んで来ている。


 リーンはリューと一心同体のつもりでいるから、当然の様について来た。


 そうなるとスード・バトラーも護衛を主張してついて来ようとしたが、学生の本分は勉強である。この日は、付いてくるのを許さなかった。


 そこへ今回のイベントの発案者であるレンドが、やって来た。


「リュー坊ちゃん。お疲れ様です」


「レンド、ランドマークビルの方は大丈夫なの?」


 リューは、レンドをランドマークビル以外で見かけるのが珍しいのだ。


「ええ、下も育ってきていますから大丈夫ですよ」


 レンドは笑って答えると、会場の説明を始めた。


「この大きなテントが当日のメイン会場です。主に有力な選手の試合解説を観客相手に行うのが中心ですが、勝ち上がった選手の対戦も行われます。もちろん、他のテントでは予選を中心に行われます」


「初めての大会なのに、規模大きくない?」


 リューがその心配をはじめた。


「俺も最初はそう思ったんですがね。意外に参加希望者が多くてこの規模になっちゃいました」


 レンドは苦笑いする。


「まさか、客引きも兼ねて売り出した『ショウギ』ゲームが、大ウケするとはなぁ」


 そう、今回のイベントは、『ショウギ』大会である。


 リューは作った本人であるが、この人気は予想していなかった。


 確かに王都のインテリ層には最初、じわじわとではあるが人気が出だしていた。


 だが、駒の動きやルールの複雑性から、やる者を選ぶところがあったのだが、『ショウギ』のファンになった者の中に、有力な貴族や軍人などがいた事が、人気の火付け役になった。


 王都の流行の最先端を走っているランドマーク発案のゲームという事を前面に押し出して、とある貴族が、社交界に持ち込んだ。


 貴族は流行を追いかけるインフルエンサーの様な立場でもある。


 それに、知的な遊びというのも、貴族にとっての誇りを刺激した。


 そうなったらもう、最先端を追う貴族の間で広まるのもすぐであった。


 そして、それと同じタイミングで軍人の間でも広まった。


 こちらの場合は、戦略的な知識を磨く事が出来ると、持ち込んだ上司がいたのだ。


 軍人の世界は完全な縦社会である。


 上が命令すれば、下はやるほかない。


 最初は強制的に覚えさせられて始めるが、そのゲーム性に夢中になる者が続出した。


 さらに軍人の方には、平民出身の者も多いのでその階級に広まる一助になる。


 こうして、貴族と軍人、そして、平民と、娯楽に飢えた者達によって『ショウギ』は、絶大な人気を生んだのである。


「今回の大会の賞金はどのくらいに設定しているの?」


 タウロは発案者であるレンドに聞いてみた。


「あ、坊ちゃんに伝えてませんでしたっけ?──今回、貴族階級などから、スポンサーになりたいという申し出があり、多額の資金が流れてきまして、最終的に優勝者には、白金貨三枚(前世の価値で約三千万円)が授与される予定になってます」


「白金貨三枚!?」


 さすがにリューもこの額には驚いた。


 それだけ貴族階級が期待している大会という事だろう。


 だが、スポンサーとはまた、レンドも考えたな。


 と思うリューであった。


「そんな額、大丈夫なの?」


 リーンは、驚く前に呆れてそう質問した。


「大丈夫ですよ。貴族連中は自分が参加するには賞金もそれに見合った額じゃないと、参加しづらいと思ったようです。それに貴族はこういう流行りものには、敏感ですからね。ゲームの大会を、注目されるほど大きなものにして貰う事で、自分達が楽しんでいる事に箔を付けたいんです。それに参加費もしっかり取るので、冷やかしはまず現れませんし」


 レンドがそう分析して答えた。


「……確かに。レンドの分析は鋭いかも……。これだけ大きく騒がれるゲームを広めた自分、凄くない?という自慢をしたがるのが貴族だからなぁ。これなら、資金も少なくて大きなイベントできるね」


「でしょ?」


 レンドも鼻高々だ。


「やるじゃない、レンド。私も参加すれば良かったわ」


 リーンも、感心したのか褒めると同時に悔しがった。


「ははは。さすがに今からは無理ですよ。明日の朝一番から予選が始まりますから。スケジュールは埋まってます」


「『ショウギ』は、勝敗決まるの時間掛かるけど大丈夫?」


 リューはもっともな心配をした。


「予選は、一分を刻む砂時計を使った早指し勝負ですからね。あっという間ですよ」


 どうやら心配は無用な様だ。


「明日から3日間を掛けた大会か。竜星組の露店部門も張り切っちゃうなぁ」


 リューは、自分のところの商売を気にかける事にした。


「そうね。こんな大規模な大会の露店を全部仕切らせて貰えるのだから、みんな張り切るわ」


 リーンも頷く。


「じゃあ、準備してるみんなに発破かけて来るから」


 リューは、そう言ってレンドと別れると、出店の準備をしている部下達のところに向かう。


 すると、すぐに自分の街の長であり、上司でもあるリューの登場に、みんなが気付いて集まり、そこに輪ができた。


 そこでリューが、発破をかけたのだろう。


 おー!


 という気合がその輪から聞こえてきた。


 その光景をレンドは遠くから見つめていた。


「相変わらず坊ちゃんの人望は凄いな……!」


 レンドは感心しながら、明日からの大会に向けて、自分も人を集めて最後の説明を始めるのであった。

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