257話 昇爵の使者ですが何か?
その日、王家の使者がランドマークビルに訪れた事で、その近所はすぐ騒ぎになった。
使者を迎えたのはもちろん、父ファーザ、兄タウロ、そして、リューである。
前もって、王家からの使者が訪れる事は知らされていたので、リューが急いで『次元回廊』を使い、父ファーザと兄タウロをランドマーク領から呼び寄せた。
それでも急遽の事なので、父ファーザは身嗜みは整えたが、その目的までは確認していなかった。
そこで、王家の使者がランドマークビルに横付けしたところで、父ファーザが、今回の使者に心当たりが無いのでリューに小声で確認を取る。
「……今回の王家からの使者は、物々しいな……。リュー、何かしたのか?」
「……もしかしたら、魔法花火の件かもしれないです」
「ああ、軍研究所でトラブルになったあれか」
父ファーザは、それを確認すると、今回の使者はもしかすると叱責されるものなのかもしれないと、覚悟を決める。
そこへ、馬車から使者が下りて来た。
「ようこそ、おいで下さいました。どうぞ、こちらへ」
父ファーザが先頭に立って、ランドマークビル五階に使者を案内する。
近所の住人達は、王家の使者に野次馬が人だかりを作っていたが、どうやら下では何も起きないと分かると、解散するのであった。
応接室に使者を通すと、また改めて挨拶をし、用件を確認する。
すると王家の使者は早速、伯爵への昇爵を提案する。
「国王陛下は、ランドマーク家の日頃の国への忠誠と貢献に大いに満足なされており、昇爵を決定なされました」
父ファーザは予想外の事に、黙って昇爵を受け入れる前に確認した。
「……貢献ですか?先日、魔法花火について褒賞を頂いたばりですが……」
少し前に王家からは、魔法花火について密かに金品での褒賞を頂いたばかりだったので、父ファーザには心当たりが無い。
使者はその辺りを理解したのか、一度、咳ばらいをすると父ファーザに、
「……その魔法花火の件を、隠しておく事ができなくなったので、今回、表立ってランドマーク子爵を昇爵する事にしたのですよ」
と、裏事情を告げた。
「……なるほど、そういう事ですか……。──昇爵、謹んでお受け致します」
父ファーザも、昇爵に関して慣れたものである。
恭しく使者にお辞儀をする。
使者はその態度に頷くと、その昇爵の儀の為に後日の王宮への参上を命じた。
そして、さらに、ランドマーク家の与力であるミナトミュラー家の準男爵への昇爵打診も行った。
父ファーザは、驚く事なくそれに賛同する。
「後日、我が息子、リュー・ミナトミュラー騎士爵の昇爵を求めようと思っていたところです。陛下におかれましては、与力である息子にも気を使って頂きありがたき幸せ」
父ファーザはそう言うと、リューにも頭を下げさせる。
同席している兄タウロも嬉しそうに頭を下げた。
「陛下にはその様にお知らせしましょう。それでは私も早々に王宮へ戻ってお知らせせねばならないので、失礼します」
使者は、身を翻すとランドマークビルを後にするのであった。
「──ファーザ様。王家からの使者は何だったんですか?」
ランドマークビルの管理を任されているレンドは、使者が馬車に乗り込んで早々に帰っていくのを見届けると聞いて来た。
「子爵になって間もないが、伯爵に昇爵らしい」
父ファーザは他人事の様にレンドに答えた。
「──何ですって!?そいつは凄い!こりゃ大々的にランドマークビルで昇爵感謝セールをやらないと!」
完全に商人脳になっているレンドが企画を提案した。
「レンド、流石に昇爵を商売のネタにするのはマズいから」
流石のリューもレンドの提案は注意した。
「そうですか?ランドマーク家の宣伝も出来て、一石二鳥だと思ったんですけどねぇ……?」
レンドはそう答えると残念そうであった。
「……それにしてもランドマーク家がついに伯爵か……。ほとんどリューのお陰だが、王家にもその分報いないといけないな」
父ファーザは感慨深げにそう漏らした。
兄タウロも頷く。
「東の国境では隣国との紛争も増えてますし、派閥の長であるスゴエラ侯爵殿とも協力して国をお守りし、忠義で応えないといけませんね」
「え?そうなの、タウロお兄ちゃん」
リューは初耳なのか聞き返した。
「うん。夏頃、国境で両国民同士の諍いがあって、それが村同士の争いに発展したらしんだ。そして、それを鎮圧しようとお互い国境警備隊が出て一時緊張状態だったんだ。今は少し、落ち着いているけど、何がきっかけで再燃するかわからない状態かな」
「王都にいると、そんな情報上がってこないよ」
「ははは。東の国境は遠いからね。王都に情報が届くのは数週間後、それも過去形だから、騒ぎにならなくても仕方がないよ。普段は東部の貴族達や王都から派遣された将軍によって、解決される問題だしね」
南東部のスゴエラ侯爵派閥としては、東部は別の貴族派閥の問題という意識があるのか兄タウロもちょっと他人事のような言い方になった。
「二人とも、今日は家族で祝いの食事をするぞ。リュー、リーンを連れて夕方、自宅に寄りなさい」
父ファーザは二人のきな臭い話を遮ると、昇爵のお祝いを提案するのであった。
二人は頷き、笑顔で返事をして五階に戻ると、待っていたリーンと共にリューの学校生活について話に花を咲かせるのであった。




