241話 破壊しますが何か?
王立学園の魔術大会は、剣術大会と対となるものだが、こちらの評価が将来の就職に有利になる事は大きい。
努力によってある程度カバーできる剣術に比べ、才能に大きく左右されるところがあるからだ。
それに、魔法に優れる者が貴族出身者に多い事からも、その評価がよくわかる。
なので、剣術大会よりも、進路に有利であり、才能がある者はこちらに力を入れるのが普通であった。
その為、規格外過ぎて出場できないリューとリーンはアピールの場を奪われた事になるのだが、学園側は開会宣言にあたって、リューとリーンには実行委員として魔法の公開演技をして貰う事になった。
本当ならば、学園側はそれをやらせたくなかった。
なぜならば……、
ズドーン!!!!
ドカーン!!!!
ゴゴゴゴゴ!!!!
……そう、6面ある舞台会場のうち、一面がこの公開演技の為に完全に破壊されてしまうからであった。
この公開演技の後、会場全体に張られていた結界も、その威力を抑えきれずに壊れてしまう為、その結界を張り直すという時間も必要になってくる。
実行委員の先生達はこの破壊された会場と結界の補修、張り直し作業の為に大会開始宣言30分で試合が始まる前に疲労困憊になるのであった。
「……二人の公開演技のせいで、この後に試合する俺達、霞むわー……」
ランスがみんなの代弁をすると、出場予定者全員が大きく頷いた事は言うまでもなかった。
観客もこの公開演技には驚愕した。
特に今回、特別貴賓席が設けられ、そこに陣取っていた王族は、度肝を抜かれていた。
「……あ奴はランドマーク子爵の倅……だったな?」
「……その通りです。オウヘ殿下」
そう今回の魔術大会観戦に訪れていたのはオウヘ第二王子だった。
「やはり何としてでも我の直属の部下に欲しいぞ!」
「以前にも申し上げた通り、あの者はすでに騎士爵の爵位を持ち、ランドマーク子爵の与力になっております。それにその爵位はエリザベス第三王女殿下ではなく、陛下自らお与えになったものだとか……。ですからそれは難しいかと……」
オウヘ王子の部下であるモブーノ子爵が、調べ上げた情報を主君に披露した。
「父上自らだと……!?──ならば、その子である我の部下にしても文句はあるまい!」
「ランドマーク子爵が実の息子でもあるミナトミュラー騎士爵を手放すとは思えません……」
「くそっ!──仕方ない……、別の方法を考えよ。今回は、他の優秀な者を見つけて召し抱えるぞ!」
オウヘ王子はやけくそ気味に言うのであった。
魔術大会のルールは、剣術大会と同じで個人戦である。
剣術大会と違うところは、魔法を対戦相手に当てると、会場に張られた結界の力によって、怪我を負わせる事無く消滅する事。
なので危険性は低いがそれでは勝負にならない。
そこで出場者全員の腕に装着してある魔道具である。
これは、装着者にリンクしてあり、当たり判定をポイント化してくれる。
そして、倒されるほどの蓄積ダメージを受けたと判断したら、審判の元に信号が送られ勝負判定がなされるのだ。
他にも対戦相手の降参や失神など、続行不能状態の判断でも勝敗が決するが、リューとリーンは、これらを全て消し飛ばしてしまう程、段違いの魔法威力を誇るので、今回は参加を見送られたのだった。
大会は成績を加味されシードになった、エリザベス王女とナジンの試合は無く、二回戦からであった。
なので、他の試合から行われ、王女クラスの代表組の密かな優勝候補の一角であるシズとイバルが対戦相手に何もさせる事無く圧勝して二回戦進出。
ランスも相手の下級魔法を避けながら高威力である中級魔法を詠唱して一発で仕留め、勝ち進んだ。
そして二回戦。
一番の注目であり、シードであるエリザベス王女の試合は、観客席を盛り上げた。
対戦相手の下位魔法を俊敏にかわしながら、自らも下位の光魔法を無数に使って相手の動きを止める。
そして、威力の高い光魔法で止めだ。
その実戦的な動きに観客は歓声を上げると王女に大きな拍手を送るのであった。
「ひゃー。王女殿下の対戦相手は大変だな!あんな的確な攻撃されたらぐうの音も出やしない」
ランスがイバルの肩を叩く。
そう、イバルが勝ち進んだら、準決勝で当たる予定なのだ。
「その前に、俺とナジン君が準々決勝で当たるから大変さ」
イバルが神妙な面持ちで答えた。
「二人とも大変だな。俺の方は、順調に勝ち進んでも準決勝でシズが相手だぜ?」
ランスは暢気そうに言う。
「ランス。シズさんの1回戦観てないな?彼女、相当強いぞ」
「おお?イバルがそこまで評価するのか!じゃあ、俺も気合い入れ直して次の試合勝って、シズ戦頑張るぜ」
ランスはどこまで本気なのか笑って答えるのであった。
二回戦は順当に試合は終わり、準々決勝──
「王女殿下って、お姫様とは思えない立ち回りするわね」
観客席から眺めるリーンが隣のリューに感想を漏らした。
「確かに。普段から実戦練習してたみたいだね」
リューもエリザベス王女の動きに感心しながら答えていると、エリザベス王女は試合を制した。
「これで、王女殿下が準決勝一番乗りよ。次の対戦はイバルとナジンね」
リーンが楽しそうに言う。
そして、二人が試合会場に出てくると、リーンは二人に大きな声で、声を掛けた。
「二人ともー!頑張りなさいよ!」
イバルとナジンは、笑ってリーンに手を振って向き直ると、真剣な顔つきになる。
「二人とも、リラックスして集中してるね」
リューは二人のここまで勝ち方を見ていると、どちらが勝ってもおかしくないと内心評価するのであった。




