237話 将来有望ですが何か?
リューの日常に、リーンとイバルはよく傍にいたのだが、そこにスード・バトラーが加わった。
スードはいつも背筋を伸ばし、リューの護衛の様に周囲に目を配っている。
そういう役目はリーンがいつもやっているのだが、スードが役割分担してくれることになった。
そのスードは、青い長髪を後ろで結び、鋭い青い瞳を持ち、長身でリューより二歳年上である。
成長盛りの十四歳だから今後が楽しみな存在だ。
何より『聖騎士』のスキル持ちだから、成長次第ではリューの直属の部下としてありかもしれない。
そんな将来有望そうなスードだが、王都郊外の農家の出で、両親と祖父、二人の弟に妹一人の七人家族で、スードは一家の将来を期待される長男である。
王立学園には今年、『聖騎士』のスキルを評価され、才能ある平民に適用される授業料免除制度を利用して入学してきた。
スードの努力は大したもので、勉強のレベルは王立学園では平均レベルであったが、それは勉強できる環境が整っていない農家の出でありながらの結果なので、どれだけ独学で勉強していたかがわかるというものだろう。
それに、勉強だけでなく家の手伝いはもちろん、家族を養う為に村で力仕事もこなしていたのだから、その辺にいるスキル頼りの脳筋とは違う一面を持っていた。
そのスードは、学園では授業以外ではリューの傍を離れない姿勢であったが、リューもこれではスードの学業に影響が出るというので普段、スードの勉強も見て上げる事にしている。
そんなスードも授業が終われば、家へと真っすぐ帰っていく。
王都郊外の自宅まで1時間をかけて徒歩で帰宅すると、早々に村の仕事を手伝って少々のお金を稼ぎ、家族の生活の足しにしている。
夜は弟妹の遊び相手をし、学校の復習・予習をして早めに就寝する。
そして朝早く起きると薪割りなどの手伝いをする。
そして、ギリギリ学校に通学するというのが、スード・バトラーの普段の日常であった。
リューはスード・バトラーの身辺を手下に調べさせ、提出された報告書を読んでこの若者の一日の生活を知ったのだが、この新しい仲間の直向きな生活態度に感心した。
「スード君は意外に苦労人だね」
「第1印象は感じ悪かったけど、頑張り屋みたいね」
リーンがリューの読んでいた報告書を後ろから覗き込むと、リューに賛同する。
「彼は将来性があるし、うちで雇えたらいいなと思うのだけど、どう思う?」
リューはリーンにお伺いを立てる。
「リューがいいなら、いいんじゃない?リューに実力の差を見せつけられて負けてからは改心したみたいだし、私に対する好意は迷惑だけど、それも最近は控える様になってるし」
リーンもスードの事は認めている様だ。
「まあ、あとは本人次第だけどね。僕の従者扱いでいいかな?」
リューが一つの案を挙げた。
「……私と同じなの?」
リーンがリューの第一の従者を誇っていたので少し引っかかったようだ。
「本人の希望にもよるけど、一応僕に剣を教えて欲しいみたいだから、傍に置くのが手っ取り早いかなと。それにリーンも一人じゃ大変じゃない。女子だから一緒に入れない場所もあるし」
リューは、そう言って渋るリーンを説得した。
「……わかったわよ。確かに男同士じゃないと駄目な事もあるからいいわよ」
リーンが少し拗ねた素振りを見せたが納得するのであった。
「じゃあ、それで本人に聞いてみよう。一応、給金も出すつもりだから生活に影響はないだろうし」
リューは翌日、学校でスードに提案する事にするのであった。
「え?いいのですか!?それに給金まで……、助かります!よろしくお願いします!」
スードはリューの提案に驚いたが、最初からリューについていくつもりでいたので、渡りに船とばかりにあっさりと承諾した。
逆にリューの方が騙している気分になったので再確認する。
「え、本当に大丈夫?もしかしたら将来、爵位を得る機会があるかもしれないよ?うちはただの騎士爵家だけから、もっと上級貴族の元に仕えるチャンスがあるかもしれないし」
「いえ。自分の未熟さを圧倒的な実力差で教えてくれたのは騎士爵殿です。確かに上級貴族に運が良ければ今後、仕えられる可能性もあるでしょうが、実力はそこで止まってしまうと思います。それならば騎士爵の元で実力を伸ばす環境を選ぶ方が自分にとって恵まれているのではと思います」
スード・バトラーはそう言い切ると、リューの申し出を受ける決断をした。
「……わかったよ。うちには正規の剣術を扱わない、とんでもないメイドもいるし、剣術だけでなく拳術を扱う職人頭や、後々話すけどトリッキーな剣術を使う頭の切れる優秀な部下もいる。それにうちの執事は剣術教えるのが上手だし学べる事は多いと思う。他には……ごにょごにょ(魔境の森修行コースも……)」
最後の言葉は濁したが、リューの元なら強くなる環境が待っているのは確かだ。
そしてリューの言葉は続く。
「それでは……、──ミナトミュラー騎士爵家にようこそスード・バトラー君。主として君を歓迎するよ」
リューの言葉にスードは片膝をつくと頭を垂れて宣言した。
「主よ。これから身命を賭してお守りいたします!」
「重い!重い!──まあ、気軽にとは言わないけど、これからよろしくね」
リューはスードの真面目過ぎる姿勢に戸惑うのだったが、将来の剣聖を名乗るこの少年に期待するのであった。




