236話 この後、祝勝会ですが何か?
リューは戸惑っていた。
それは目の前に跪く相手にだ。
剣術大会の表彰式終了後、リュー達隅っこグループは、お互いの健闘を讃え合っていたのだが、そこへスード・バトラーが、やって来てリューの前で跪いた。
「え?どういう事?」
リューは周囲を見渡すと、この状況を説明して貰えないかと助け船を求めた。
そんな中、珍しくリーンがリューと視線が合うと目を逸らす。
「……リーン?」
リューはどうやらこの状況について説明できるらしい人物をみつけたようだった。
リーンに理由を問いただそうとすると、目の前のスード・バトラーが代わりに語り出した。
「自分はスード・バトラー。将来、剣聖になる男。その剣聖になるまでは誰にも屈しないと自分に誓いを立てていました。しかし、リーン様と賭けをしましたが、ミナトミュラー騎士爵殿に負けてしまいました。不本意ではありますが、賭けに負けた以上、約束通りこれからはミナトミュラー騎士爵の手下として学生生活を送らせて貰います」
スード・バトラーはそう言い切るとチラチラとリーンを見ては頬を赤らめる。
どうやら、この子はリーン狙いで自分の手下になるつもりのようだ。
「リーンが何を言ったのか見当はついたけど、僕は承諾していないから断るよ。──リーンも、変な賭けをしないで」
リューがリーンを軽く叱る。
「この子が勝手に賭けを言い出したのよ!それにリューを馬鹿にするから……。自分は強いからリューには負けないって──」
「わかったよ、わかった」
リーンが言い訳し始めたので、リューは止めると続けた。
「──そういう事だから、賭けは不成立。それとその賭けに便乗してリーンに近づこうとせず、正々堂々と声を掛けなよ。男として恥ずかしいよ?」
リューはバッサリとバトラーの行為を切り捨てた。
ガーン
リューの言葉に、ショックを受け、自分の行為の愚かしさに気づいたのか地面に手を突きうな垂れるバトラーであった。
「じゃあ、表彰式も終わったし、みんな帰ろうか。今日はみんなにランドマークビルで好きな食べ物奢るよ!」
リューは、みんなに声を掛けると、シズが真っ先に食いつく。
「……リュー君!新作のチョコケーキを出すって本当!?それは食べられるかな?」
「どこでその情報を入手したの!?──『ガトーショコラ』って言うのだけど、もちろん、特別に出すよ」
リューはシズの情報網に驚きながらも、振る舞う事を誓う。
「やったぜ!じゃあ、俺はその新作をデザートに、メインはお好み焼きもどき(ピザ)を食べようかな!」
ランスもシズに便乗して手を上げる。
「じゃあ、自分はパスタと新作にしようかな」
ナジンもランスに賛同した。
みんながこの後の食事に盛り上がる中、
「ミナトミュラー騎士爵殿!先程は失礼しました……!確かに、邪な思いでリーン様との賭けを利用しようとしてました、すみません。ですが重ねてお願いします。その配下にお加えください!」
とバトラーがまた食い下がって来た。
「ちょっと!リューが断ったんだから諦めなさい!」
リーンがリューとの間に入るとバトラーを下がらせた。
「自分は平民です。それも農民の出です。それだけに今回の大会に賭ける意気込みは人一倍ありました。自分にはこれしかありませんから。その過程でリーン様とお近づきになろうと目論んだのも事実です。でも、負けました。そして、今後も騎士爵殿に勝てないだろうと痛感しました。となると、自分は終わりです。きっと周囲の評価も大いに下がったと思います。でも、自分は強くなりたい。その為にも騎士爵殿の元で学ばせて貰えないでしょうか?」
先程のリーンを意識した態度と異なり、今度はどうやら心の底からの真剣な言葉の様だった。
「……さっきまでの態度なら、すぐ断るところだけど……。うーん、そうだ。友達としてならいいよ?あとはみんなの意見も必要だけど……」
リューは、そう言うと友人達の意見を促した。
「鼻に付く態度がムカついたけど、それを改めるならいいぜ?」
ランスが、大会での態度を改める事を条件に賛同した。
「リューやランスが賛成なら別に自分は構わない」
と、ナジン。
「俺も男爵家の養子で平民みたいなものだからな。その必死さはわかるよ。態度を改めるならいいんじゃないかな」
とイバル。
「……みんながいいなら、私もいいよ」
とシズ。
「……みんなが賛成なら私も反対できないじゃない……。仕方ないわね……、いいわよ。でも、リューに対して失礼な態度が今後あったら、容赦しないわよ?」
リーンは賛同しながらも、釘を刺すのを忘れない。
「……ありがとうございます!粉骨砕身、騎士爵殿にお仕えします!」
バトラーは早くもリューの友人ではなく家臣として仕える気になっていた。
「ちょ、ちょっと友人だって言ったじゃない!」
リューが慌ててスード・バトラーの態度を指摘した。
「友人扱いは嬉しいですが、やはり自分は平民です。その分はわきまえたいと思います!」
バトラーは、そう答えると片膝を付く。
その後リューは説得しようとしたが、バトラーは頑として態度を改めない。
「……もう、わかったよ。でも、友人は友人だからね?」
リューがそう釘を刺すと、
「わかりました!」
と、起立してバトラーは答える。
「……じゃあ、改めてランドマークビルで祝勝会しようか」
リューがそう言うと、新たに増えた友人?も連れて、馬車に乗り込むのであった。




