169話 説得ですが何か?
生徒会選挙活動期間五日目。
翌日が投票日という事で、学園内の慌ただしさはピークを迎えようとしていた。
リューと隅っこグループはこの期間、王女殿下が休憩時間を返上して動いている中、クラスで協力姿勢を見せていないという事で、白い目で見られつつあった。
なので、自分はともかく、ランス達も浮いてしまうのは良くないと思ったリューは王女殿下に直接協力を申し出る事にした。
「殿下、僕達にも出来る事はありますか?」
「……うーん。──そうだわ。隣の特別クラスのマキダール君がまだ、普通クラスの生徒相手に良くない活動をしているみたいだから、それを止めて貰えたらみんなの役にも立てていいかもしれない。……どうかしら?」
王女殿下の提案は何気にハードルが高いものだったが、
「……わかりました。早速行ってきますね」
とリューは頷くとその足で隣の特別クラスに向かった。
王女殿下の取り巻きは、呆然とリューを見送る。
リーンもその後に付いて行った。
「マキダール君、ちょっといいかな?」
リューはマキダール特別クラスに直接乗り込むと、教室でクラスメイトを叱りつけている本人に声をかけた。
「なんだ!?あ、お前はランドマーク!何しに来た!」
マキダールは敵意剥き出しだ。
「君達、ギレール・アタマン先輩の支持に回ってるみたいだけどそれでいいの?」
リューが神妙な面持ちでクラスの全員に聞こえる様に言う。
「ど、どういう意味だ……!」
マキダールが意味を測りかねて語調を少し押さえて聞いた。
「僕達はまだ、一年生だよね。あちらのギレール・アタマン先輩は三年生。確かに二つ上で偉いし、天才の呼び声も高い人だけど、すぐ卒業だよね。その後みんなはどうする気?残りの三年間、王女殿下に反抗したクラスとして後ろ指さされながら学園生活を送る気かい?」
「だ、誰を支持しようが自由だろ!」
「もちろん、選挙は誰に投票しようが自由なんだけど、君達の場合、王女殿下が他の生徒に無理強いしているなんて出鱈目を吹き込んだり、三年生に投票する様に脅したりしてるじゃない。みんな王女殿下の耳に入ってるよ?王女殿下は寛容な方だけど、その周囲の僕達はそうは見てないよ。普通クラスの生徒達も君達の事を快く思っていない生徒は多い。そんな中で、残りの学園生活をどんな風に送るつもりなのか心配なんだよ」
リューは温和な態度で優しく脅しをかけていた。
「……お、脅す気か!?」
マキダールは食い下がる。
「脅す?違う違う!君達の事を心配して忠告してるだけだよ?残りの学園生活、王女殿下との間に波風を立てて生活するとか、僕なら考えられないと思ったのさ。それに想像してみなよ卒業後の事。王女殿下の次は王家に睨まれる事になるんだよ?そんな中、この国で安泰に生きていけるのかな、いくら派閥に入っていても王家に睨まれる様な人物を派閥も積極的に守ってくれるのかな?僕なら、厄介払いするなぁ」
リューは学園生活のみならず、社会に出た後の現実問題についてマキダールとその周囲に理解出来る様に説明した。
教室がざわつき出した。
「……確かに、マキダールさんの言う通りにしてたら今後、俺達も王家から睨まれる事になるんじゃないか?」
「エラインダー様もいないのに、何に義理立てして王女殿下を敵に回す必要があるんだ?」
「そうだよ。まだ、学園生活も長いのに王女殿下に盾突いて過ごすなんて不味いだろ」
マキダールの命令に従っていた他の生徒達も言われるがままやっていたが、リューの言葉で現実に引き戻された。
「お前達、惑わされるな!こいつのただの妄言だぞ!」
マキダールの否定こそが妄言の様なものだったが、本人はとにかく否定して自分にみんなを従わせないといけなかった。
「マキダール君。それとも君は王家に何か含むところがあるのかな?そうなってくると、学生の問題どころではなくなってくると思うのだけど」
リューはここで、クラスの全員がマキダールの言動に疑問を持たせる様に言った。
「ち、違う!そんな気は毛頭ない!」
「でも、王女殿下を貶める様な噂を流してるよね。これ以上否定されると僕も庇いきれないなぁ」
リューはマキダールを庇う気も庇った事もなかったが、まるで味方の様に言う。
「お、俺は、アタマン先輩に1年生の票の取りまとめを頼まれただけなんだ!噂も先輩に言われた通りにしただけなんだよ!王女殿下にはその辺りの事をしっかり説明してくれ!」
心理的に追い詰められたマキダールは目の前の唯一の味方?にすがりついた。
「そうかマキダール君も被害者なんだね。それにクラスのみんなも大変だったね。僕から王女殿下にはちゃんと説明しておくよ。これが投票日の前日で良かった……。これがその後だったら君達を庇う事が出来なかったよ」
まるで王女殿下からマキダールクラスを必死に守ってきたかのようにリューは言うとマキダールの肩を軽く叩いて続けて言った。
「これからの学園生活もこれで快適に送れそうだね!」
リューは笑顔でそう言うと背後で呆れているリーンにだけ見える様にVサインをするのであった。
「……心理的に追い込むとか流石に怖いわよ」
リーンが背後でボソッとリューにだけ聞こえる様にツッコミを入れるのであった。




