157話 静かな抗争ですが何か？
『闇組織』対『上弦の闇』、『月下狼』、『黒炎の羊』三連合との抗争は静かに始まった。
すでに死傷者は出ていたが、その場に警備隊が駆けつけた時には、何も無く、被害を訴える者もいなければ、事件化のしようもない。
それに警備隊も上司から下手に関わるなと釘を刺されている。
なので、一切表沙汰になる事なく、両者の争いは水面下で行われていたのだった。
当事者同士も、この抗争で大騒ぎして国に介入されると不味い事になるのはわかっていた。
お互い脛に傷を持っているので、相手が取り締まられる案件でも捜査に協力出来ようはずもなく、逆にこちらからも積極的に証拠を隠して自分達にも火の粉がかからない様にしていた。
なので、どんなに現場に大量の血の跡があっても、そこに死体は無く、さらには警備隊が公に動く理由になりそうな一般人の被害なども絶対に避け、もしもの場合は、すぐに買収していた。
普段なら脅してもいいのだが、今回はそんな手間はかけられない。
さっさと一般人には買収して静かにしてもらい、警備隊の介入の口実を無くすのであった。
なのでお互い、一般人に被害が出ない様に、事前に調べ上げていた相手の隠し拠点を襲撃して損害だけを確実に与えるという事に徹底していた。
だから、一般人も多い通りなどで襲撃するという行為は以ての外だった。
お互いが相手に確実に損害を与えていく中、『闇組織』を監視し、情報を収集する集団がいた。
ミナトミュラー騎士爵率いる一団である。
ほぼランドマーク家の私兵だが、一応、ミナトミュラー騎士爵に助力している形だ。
リューはこの二つの大勢力を争わせる事で、双方の表から隠れている拠点を炙り出す事を目的にしていた。
普段、『闇組織』の拠点は一般に紛れてみつける事が難しいが、ここまで大きな騒ぎになれば普段から相手を警戒せずにはいられない。
警戒すれば人が動く。
人が動けば隠れていたものも浮き上がり、見えてくるものがある。
リューは『闇組織』を丸裸にする為に、徹底して争わせ、それを監視するのであった。
とても、姑息なやり方ではあったが、『闇組織』は、王都の裏社会の最大勢力だ。
三連合が束になってもまだ不利なぐらいの大きさだ。
そんな『闇組織』の勢いを封じるには、最大の収入源である違法な「薬」の元を叩きたい。
その為には炙り出す必要があるのだ、姑息であろうとも卑怯と言われ様ともこれが一番安全なやり方だと思っていた。
そして、勢いを封じたらマイスタの街での影響力を奪い、平和な街へと変えたかった。
理想を言えば、作られた当初の職人の街にしたいという希望がリューにはある。
ただし、『闇組織』を殲滅するとマイスタの街の経済への影響も心配される。
そこで、リューはもう一つ、考えている事があった。
それは、『闇組織』の乗っ取りである。
今のところ、ボスの顔どころか名前もわからないが、その人物を倒して『闇組織』を乗っ取り、そのシステムをマイスタの街に組み込んで、『闇組織』を潰した場合の経済への負担を軽くしたいのだ。
リューはそんな事を考えて、今後について祖父カミーザに相談したのだった。
「全くうちの孫ときたら……、わはは！──そこまで考えていたのか。どちらにせよ、ランドマークの領地内の事だ。出る杭は打たんとな。」
と、納得してくれた。
父ファーザは当初難色を示したが自領の事なのでいつかはどうにかしないといけない問題なのは確かだ。
「いくらマイスタの街はお前に任せたとはいえ、そんな大掛かりな作戦を始めた後に報告しに来るとは……。はぁ……、もう、やってしまったのは仕方がない、やるなら徹底してやれ」
リューの作戦を聞いてみれば、すでに動き出していたし、カミーザもスーゴも協力して動いていたので頷くしかないファーザであった。
そんなリューとリーンは平日はもちろん学校に通っている。
まさか学校生活を満喫している12歳の生徒が王都の裏社会をひっくり返そうとしているとは誰も思わないだろう。
それにまだ世間では、裏社会の大抗争は全く知られていないのが現状だ。
普通科の生徒が、
「最近、取引のある商売相手が突然、今後の取引をしばらくの間延期したいって言って来てさ。理由が別の取引先がしばらくの間の休業を宣言して流通が止まったかららしいんだよ。その商会の本店がマイスタって街にあるらしいのだけど、親父が困ってたな」
と何気ない事をぼやいてるのがリューとリーンの耳に聞こえて来た。
あとでその商会の名前を聞いておこう。
そんなに早く影響がでるところは『闇組織』に近いはずだ。
今は、徹底して関係がありそうなところは調べ上げたい。
まだ、裏社会の出来事は誰も知らないが、表にもその影響は少しずつ出てきているのを実感するリューであった。
