153話 下見ですが何か?
爵位を若干十二歳で授与されたリューは、瞬く間に学園で知られる事に……は、ならなかった。
別に誰かが言いふらす事も無く、ランス達からは祝福されたが、それだけであった。
「ところで、リュー。家名は何になったんだ?」
ランスが早速、出世頭であるリューの新たな家名に興味を持った。
「……家名はミナトミュラー、ミナトミュラー騎士爵の名を与えられたよ」
「へー。不思議な響きの家名だな。いいじゃん!」
ランスが、素直に評価する。
「ミナトミュラーか。これから、ランドマークとその名が、王都でも有名になるかもな」
ナジンが、リューを評価して言った。
「……きっとみんなに愛される家名になると思うよ」
シズも頷いて小さい声で褒めた。
「みんなわかってるじゃない。私もミナトミュラーの名前が有名になる様に頑張るわ!」
リーンは鼻息荒く気合いを入れた。
「みんなありがとう。個人的にはミナトミュラーの名より、ランドマークの名前が有名になればそれでいいんだけどね。僕はその為にこれからも助力していくつもりだよ」
リューはそう言うと気持ちを新たにランドマークの車輪の1つとして励む事を誓うのであった。
学校が休みの日。
リューは早速、リーンと共に王都から馬車で1時間のところにあるマイスタの街に朝一番で訪れていた。
ランドマーク家への領地として譲る手続き中なので、まだ、王家の直轄地だが、今日は下見する事にしたのだった。
先々代国王が肝いりで作った職人の街という事で、朝から忙しく活気に溢れ、親方が弟子を怒鳴りつける声などが街中で聞こえてくるのを想像していたのだが、それとは真逆であった。
鍛冶屋の職人が鉄を打つ音はまばら、活気溢れる声はないどころか、路地裏からは活気とはかけ離れた怒号に悲鳴が時折聞こえてくるという治安を疑う雰囲気であった。
リューとリーンはこの光景を目の当たりにして戸惑った。
そして、次の瞬間にはどうやら厄介な街を押し付けられたのかもしれないと思うのだった。
地方貴族の子爵程度に王都のすぐそばの街を上げる事に、この街の担当官吏が反対してもおかしくなかっただけに、それをしなかったのは価値が低かったからだろう。
実際、王都に続く道は整備が行き届いておらず、ランドマーク製の馬車でなければ、相当揺れたはずだ。
大切なインフラ整備が行き届いていないという事は、つまりこの街の優先順位はその程度に低いという事だ。
確かに、主要な街道からは外れている街だ。
だが、経緯はどうあれ、王都に近いという利便性はある。
城壁は高く、王都の周囲を守る一つの街として機能はしているはずだ。
リューは何かしら長所を見つけてこの街を評価する事にしたのだった。
「とりあえず、お店に入ってこの街の情報収集でもしようか」
リューはリーンに声をかけるとフードを目深に被って容姿を隠すと街を探索する事にした。
朝食もついでに済ませようと表の通りの食堂に入る二人。
すぐにその二人に気づいた食堂の女将が近づいて来た。
「いらっしゃい。よそ者かい?こんな街に来るくらいなら王都に直接行った方が良いよ。この街は王都に続く主要な街道から外れているから、旅人もほとんどこない。治安も良いとは言えないから路地裏には入っちゃいけないわよ」
そう忠告すると二人の注文を取り、厨房に一度声をかけるとまた、戻ってきた。
どうやらこの街にあって、この女将は人が良さそうだ。
よそ者と一目でわかってすぐに忠告までしてくれるのだから。
「ありがとうございます。この街は初めてなので教えて貰っていいですか?聞いたところでは先々代の国王の肝いりで作られた職人の街だそうですが……」
「ああ、それかい?私の祖父の代の話だね。その時は、当時の国王からの命令で全国から職人が沢山集まり、活気に満ち溢れていたそうだけどね。結局のところ王都の職人達がこの街の存在を危惧して、仕事は王都のみで行われる事が多くて、すぐにこの街の職人達は仕事にあぶれてしまったそうよ。それに近いとはいえ、この街を訪れる者はいないからね。人の出入りってのは人間の体を流れる血と同じだから訪れる者がいなければ瞬く間に腐っていく。この街は、それが起きない様にこの街を守る為、模索した結果、通常のギルドとは違う別の独自のギルドが出来上がったんだよ。それが、現在の闇組織の始まりさね」
「「闇組織?」」
リューとリーンは、不穏な単語に聞き返した。
「何だい?そんな事も知らずにこの街に来たのかい?王都でも幅を利かせている裏社会で暗躍する闇組織はこの街を本拠地にしているんだよ?身を守る為に結成したギルドは仕事を求めて人がやらない事を進んでやり始めた結果、裏社会での活動に行き着いたのさ。そしてそれが、この街の一番の稼ぎというわけ。この街の街長も代々その事情を知っていて引き継いで来た人物だからね。だからわかった上で見ないフリをして、税さえ納めれば、余計な事は何も言わないのさ。──あんた、まだ、子供じゃないか。その歳でこの街に流れてくるのは早いよ。食事をしたら王都に行きな。あっちの方がまだ仕事はあるからね」
リューとリーンに特別な理由があると思ったのか、改めて忠告してくれた。
女将の話が本当なら、この街を治める事になるリューはその闇組織をどう扱うかが問題になりそうだ。
「……前途多難過ぎて、どうしたらいいのかわからないや」
リューは、食事中、頭を悩ませるのであった。




