150話 昇爵話ですが何か?
昇爵の儀の翌日。
領内では早速、お祭り騒ぎになっていた。
残念ながらリューとリーンは学校だったので今回はこのお祭りには参加できなかったが、前回の昇爵の際にいなかった兄タウロが嫡男として参加できたのは良かったとリューは思うのであった。
一応、朝一番にいつもの日課の通り、『次元回廊』でランドマーク領に行って商品を倉庫から回収し王都まで運ぶのだが、さすがに納品されるはずの商品が来ておらず、ランドマークビルも昇爵祝いで臨時休業する事にした。
この事でリューは改めて王都周辺にも大きな製造拠点が欲しいと思う様になったのだが、この問題も幸いにもすぐに解決しそうな話があちらから舞い込んできた。
あちらとは、国である。
昇爵の儀から数日後、王家から使者が来て、ランドマーク子爵昇爵に伴い王家が加増の提案をしてくれたのだが、それが王都周辺の王家直轄の一つの街をランドマークに譲渡するというものだった。
これは思わぬ提案だった。
王都の側という事は、街として申し分ないだろう。
王都から近いなら交通の便も最高なはずだ。
どんな街か聞くとマイスタという職人の街だという。
使者が地図を広げて見せると確かに王都の近くにマイスタという街がある。
説明を聞くと、王都の近くだが王都を通る街道からは外れているので、人の流れが気になるところだ。
「これは陛下からの提案なのですか?」
と、リューは気になって使者に聞く。
「はい。ランドマーク子爵に、今後も国への文化的貢献をして貰うには、職人が多い街を領地に欲しいだろうと仰せになり、官吏が適正と思われる街を選びました。」
「それはありがたい。……ありがたいのですが、ランドマーク本領から片道一か月も離れた土地を治めるのは至難の業かと……」
父ファーザはリューの『次元回廊』の事は差し置いて現実的な話をした。
「それはご安心下さい。王家直轄の街なので、優秀な者が街長を務めており、その者に任せておけば統治は容易です」
使者は断る素振りを見せる父ファーザに軽く驚きつつ答えた。
「そのマイスタの街はどんな職人がいるのですか?」
リューは父ファーザに代わって質問する。
父ファーザは乗り気ではないが、ランドマーク王都店の為には持って来いの話だ。
リューは興味津々であった。
「先々代の国王陛下が職人の技術を高める為に作らせた職人の街で、各地からそれこそ料理人から鍛冶師に木工師、石工、服飾職人に宝石鑑定士などあらゆる職人が集められたと聞いております」
「そんな凄そうな街を頂いていいのですか?」
リューは素直に驚いた。
それはつまり、王家の肝いりで作られたという事だ。
集めた職人達も一流に違いない。
そんな街を地方の新興貴族に良く与えようと思ったものだ。
官吏達が止めても良さそうなものだが、その官吏が王の命令で選んだそうだから不思議であった。
「陛下のご命令ですから、我々に否はありませんよ」
使者は笑顔で答える。
「……お父さん。ランドマークビルの今後の運営を考えるとこちらに大きな製造拠点は欲しいよ」
「……だがな。今はリューがいるから良いが、今後の事を考えるとランドマーク領が飛び地になるのは災いの種かもしれんぞ」
父ファーザは将来の事を見据えて悩むのであった。
「先程も申し上げましたが、現・街長は先々代の王に命を受けてから街長という任を祖父、父、息子の三代に渡り務めており問題なく治めております。その街長もランドマーク子爵の配下になりますから問題はありませんよ」
使者の後押しに、父ファーザはこれ以上難色を示しては王家にも失礼だと思い直し、加増を受ける事にするのであった。
リューは断然この加増は喜ばしい事であったが、父ファーザはランドマーク本領から遠く離れた飛び地をちゃんと治められるか心配は絶えないのだった。
そんな嬉しい出来事が続く中、またもや王家から使者がやってきた。
この日は父ファーザが王都に来ていなかったので、リューはランドマーク領に呼びに戻ろうとしたが、使者はリューに用があるのだという。
「え、僕ですか?」
「はい。この度はリュー・ランドマーク殿に叙爵の話が持ち上がりまして……、今日はその事をお伝えに参りました」
「え?……誰ですか?」
「リュー・ランドマーク殿です」
使者が念を押す様にはっきりとリューに伝える。
「叙爵……ですか?」
「はい、この度、リュー殿に王家から魔法士爵位をお与えになるそうです。つきましては──」
「ちょ、ちょっと待って下さい!僕は爵位を頂けるような事、何もしていませんよ!?それにまだ十二歳で学校に通っている身です。その様な話はお受けできません!」
リューは使者へ即座に断りを入れるのであった。
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