15話 バブルですが何か?
ランドマーク家にとって収穫の前に予想外のまとまったお金が手に入った。
手押し車の売り上げ金だ。
地元の木工屋と鍛冶屋も製造を請け負う事で日夜、作業に追われ嬉しい悲鳴だった。
「リューの坊ちゃん大変ですよ!発注が多くて生産が追いついてません!助手も何人か雇ったんですが、まだ、腕が追い付いてなくて」
ランドマークの街は小さい。
この想像を超える注文の多さに応える事が出来る大きなお店が無かった。
「じゃあ、分担作業にしてはどうですか?」
職人の作業する姿を見てリューは提案した。
「分担作業?」
これまで職人達は手押し車1台1台を、1人ずつが作っていた。
なので、1人1人が作る部品を決めて最終的に組み上げるところまで役割分担する事を勧めたのだ。
これなら、まだ腕に自信のない助手も、作業が簡単で、覚える技術も少なくて済む。
「なるほど。分担ですか」
この、リューの提案で1人1人の作業は大幅に単純化され、助手を沢山雇っても効率が落ちる事なく、逆に生産性が大いに上がった。
これにより自ずと仕事も増えるので、街には良い事尽くめだった。
ランドマーク騎士爵領は元々、人口は少ない、なので景気が良くなると潤うのも早かった。
農家に恩恵がなさそうだが、農家も一日中畑にいるわけではない。
空き時間に組み立てのアルバイトが出来る。
なので、この手押し車バブルに乗る事ができたのだった。
ランドマーク家執務室。
「初夏にはお金がないと心配してたのにな」
ファーザが感慨深げに言った。
収穫時期が近づいてきたので、その前の話し合いの席だった。
「うちの孫には驚かされるわい」
祖父のカミーザが豪快に笑う。
「タウロ様も次代当主として成長してるし、その補佐としてジーロ様も励んでいる。リュー様も財政に貢献してくれて、ランドマーク家は安泰だな!」
隊長のスーゴもカミーザに続いて豪快に笑った。
「うちの孫のシーマも御3人を助けられる様に努力を惜しませず、頑張らせます」
執事のセバスチャンが恭しく頭を下げる。
「シーマも同世代の中では優秀だと思うぞセバスチャン。うちの孫達が優秀過ぎるんじゃ」
祖父カミーザが褒めつつ、ノロケてみせた。
「そうだぞ、セバスチャン。シーマはよくやってる。時には褒めてやらないと」
ファーザもシーマを評価してみせた。
「ありがとうございます。そう伝えておきましょう」
セバスチャンは冷静に受け止めた。
「そういえば、リューは呼ばなくていいのか?今回の作物の出来はリューのアイディアが大きかっただろう」
カミーザが言った。
「そろそろ来ると思いますよ」
コンコン
執務室の扉から音がした。
「入れ」
ファーザが短くノックに答えた。
「失礼します」
リューが入室する。
「来たな、リュー。ほら座れ」
祖父のカミーザが、自分の横をポンポンと叩いて座る様、促した。
「はい、おじいちゃん」
リューは素直に従った。
「リューが揃ったところで今年の作物の出来の話だが、昨日、各村を回ったが今年は大豊作になりそうだ」
「そりゃーいい。それなら、ランドマーク家も潤いますな」
スーゴが手放しで喜ぶ。
「それもこれもリューの提案のおかげだ。村長もあの森の土の入れ替えで土壌が変わったと言ってたからな。それとコヒン畑も順調なようだ。今年はまだ、収穫できるのは少ないだろうが、来年、再来年と続きそうだ。だから、今ある利益をコヒン畑の拡張に使いたいと思っている」
領主の決断である。
コヒン豆は確実にランドマーク家の生命線になると判断したようだった。
「……となると、あの広い森を開拓しないと駄目ですね。木の伐採はもちろんですが、切り株もとらないといけませんし整地も考えると、大変な作業になるかと」
セバスチャンが現実的な話をした。
「……それなら、ボクが協力できると思います」
リューには勝算があるようだった。