149話 質問攻めですが何か?
父ファーザの昇爵の儀はあっという間だった。
国王が、側にいる宰相に耳打ちすると父ファーザの名が呼ばれ、子爵へ昇爵の証明書が代理の官吏から手渡され、父ファーザが改めて王家への忠誠を誓って終わりだ。
自分達の両脇に官吏が見届け人として何人かいるが、何かするわけでもなく立っている。
居心地が悪いリューであったが、礼儀正しく片膝をついて下を向いたまま、終わるのをリーンと並んで待っていた。
「ところでランドマーク男爵、いや、ランドマーク子爵よ。そなたの息子ジーロは元気か?以前あった時は才能溢れる礼儀正しい少年であったが」
おもむろに国王自ら声を発すると父ファーザに声をかけた。
突然の事に父ファーザは驚いた。
前回は宰相が代弁して話していたので直接声をかけられるのは初めてだったのだ。
そのまま、答えていいのかわからず、宰相の方をチラッと見て確認する。
「陛下からのご質問だ、お答えせよ」
「はは!我が息子ジーロは元気にしており、現在も勉学に励んでおります」
「そうか、そうか。そなたの家は安泰だのう。──そう言えば、我が娘がそなたの三番目の息子と同じクラスなのは知っているか?」
「も、もちろんでございます陛下。恐れ多くも陛下のご息女と同じ学び舎で学ばせて貰っております」
「そう、堅苦しくするな。そなた同様、ワシも人の親だからな。ところでだ、我が娘エリザベスが言うには、とても優秀な同級生がいるという。ワシが言うのもなんだが、エリザベスはワシの子供達の中でもひと際優秀でな。男の子だったらいかに良かったかと思う程で、目に入れても痛くないと思っている。その娘が人を褒めるのは珍しい。聞けばそなたの息子だというではないか。そなたの息子のジーロも優秀だがそなたの子供はみんな優秀なようだ」
「恐れ多いお言葉です」
「その後ろの子が、その息子か?」
「はは。三番目の息子リューでございます」
「リューとやら面を上げよ」
リューは自分に話が及んでからは緊張しっ放しであった。
ジーロお兄ちゃんもこんな事体験していたの!?
緊張で内心は動揺するリューであったが、国王に声を直接かけられて素直に従った。
「……ふむ。良い面構えをしておる。あのジーロの弟だけあるわ。わははは!──宰相。人物鑑定をしてみよ」
「はは」
宰相は短く答えるとリューに対して人物鑑定スキルを使用した。
「これはこれは……。報告通り……、ゴホン!いや、珍しいスキル持ちですな。そして、十二歳とは思えない熟練度。『器用貧乏』がこれ程成長するとは興味深い……。それを可能にしている『ゴクドー』スキルがまた面白いな……。『次元回廊』もこのスキルの関係か……。そう言えば野に下っている学者サイテンの論文にそんなスキルがあった気が……!……うん?隣のエルフの娘は…」
宰相が一人、リューの才能に驚き、感心し唸っていたのだが、隣のリーンにも鑑定が及んでまた、驚いた。
「むむっ!?もしや、そのエルフの娘はリンドの森の村の村長であるエルフの英雄リンデス殿のご息女か……!王女殿下からの報告はあったが、こちらも素晴らしい才能の持ち主ではないか…。これは驚いた……!」
宰相は鑑定結果にぶつぶつと独り言を言いながら頷いている。
国王も鑑定結果が気になっていたのだろう、宰相に耳打ちする。
「……宰相。落ち着かんか。……でどうだ?」
「素晴らしい才能だと思います。いえ、これ程の才能の持ち主はそうはいないかと思います。詳しくは後でご報告いたしますぞ」
「そうかそうか!」
国王と宰相二人で満足する様に頷き合ってる様は、父ファーザとリュー、リーンにとっては不可解であったが、それを口に出来ようはずも無く、ただただ見守るしかないのであった。
その後もリューには国王自ら、そして宰相からも質問攻めにあうのであったが、それらに答えていくと益々、満足気になっていくので意味が分からないリューにとっては不気味に思えてきた。
僕は何でお父さんそっちのけで質問されてるのだろう……。
次第に心配が募るリューであったが、官吏の一人が宰相に耳打ちするとその時間も終わった。
「陛下、そろそろお時間です」
「うむ、そうか。──それでは此度は楽しい時間であった。ランドマーク子爵、そして、リューにリンデスの娘リーンよ、また、会う機会があろう。下がって良いぞ」
国王は満足顔でそう言うと、下がるランドマーク親子とリーンを見送るのであった。
「……どういう事だったのかなお父さん」
リューが、心配を口にした。
「……うーん、わからん。わからんが、ジーロの時も似たようなものだった気がする。気に入られたのは確かの様だから悪い事ではあるまい」
父ファーザは前向きに捉えると笑顔でリューの頭を撫でる。
「リューが国王陛下に評価されたのよ。良い事じゃない」
リーンもファーザに頷くとリューを励ました。
リューとしては父の晴れの舞台に自分が注目される事に納得がいかないのであった。




