143話 テスト後ですが何か?
中間テストの全日程は無事終了した。
リューは、鬼門のダンスが王女のお陰で乗り越えられた事が大きかったが、このリューと王女のダンスについてまたも王女の取り巻き達は快く思っていなかった。
地方の下級貴族の三男がなぜ王女殿下と踊る事になったのかと、先ずはそれを決めた教師を責め、そして、断らなかったリューにも当然ながら矛先は向いた。
「貴族は魔法や剣技は嗜み程度で良いのだ。そういう者は雇えば良いのだからな。だが、男爵程度の三男では成人すれば貴族でなくなるから必死だな。ははは!」
「卒業後、職に就けなければのたれ死ぬから仕方ない。我々とは違うのさ!」
「おいおい、みんな。学園内で人を見下すのは良くないぞ。卒業してからにしてやりなよ!あははは!」
敢えて誰とは言わないところに厭らしさを感じるところだが、リューは気にしなかった。
言ってる事も事実だからだ。
貴族は優秀な者を見出し、雇用してその才能を保護する立場だ。
必ずしも個の才能に優れる必要はなく、それを見ぬく知識と慧眼と財力を持っていればよい。
そして、三男の自分は成人すれば、家を出るのは自然な事なので、職を見つけなくてはいけないのもまた事実。
特別クラスの生徒は、上級貴族の子弟ばかりであるから考え方はそれで間違ってはいないのだ。
普通クラスだったら逆に自分と同じ立場の者がほとんどだろうが、この教室では仕方がない。
「何あいつら。遠回しにリューの悪口を言ってない?」
リーンが、リューの悪口にいち早く反応した。
ただでさえ、耳が良く、能力も相まって聞き逃す事が出来ないのだ。
「リーン落ち着きな。僕は気にしてないよ。それに、ランドマーク家の三男として僕は間違った事はしていないという自負があるからね」
リューは胸を張って言うとリーンを宥めた。
無位無官のリューだが、この一か月後、まだ十二歳の生徒にも拘わらず爵位の授与の打診の話が持ち上がるとは誰一人として想像した者はいないのであった。
だがそれはまた、後日のお話。
テストの結果発表は、一週間後だがリューとリーンは手応えは感じていた。
それは、ランスやシズ、ナジンがテスト後の自己採点で二人が飛び抜けて良い事を指摘してくれたからだ。
ダンスは及第点レベルだが、それ以外はずば抜けて良かったリューと、全てをそつなくこなしたリーンは元々優秀だったシズやナジンから見ても頭一つ抜けている事は容易にわかった。
後はその対抗馬として、上げられるのはまだ未知の部分が多い王女殿下くらいだろうか?
他にも優秀な生徒は数名いるが、際立っている者はいない。
今回目立ったところでは、当のシズとナジンだろう。
ランスも実技の剣と魔法では際立って目立っていたが、筆記の方があんまりよくないらしい。
「王女殿下は本当に優秀だと思うよ。ダンスの時の王女殿下の落ち着きはただ者じゃなかったからね」
リューのこの数日での王女殿下株はうなぎ登りであった。
ダンスでの恩は大きいのだ。
「ははは。リューはダンスだけで評価が一気に上がったな」
ナジンがリューを茶化す様にツッコミを入れて笑った。
「義理と人情のランドマーク家だからね。ダンスの恩は大きいよ?」
勝手にゴクドー要素をランドマークに取り込むリューであった。
「義理と人情?そりゃまた、変わってるな。ははは!」
ランスが笑う、かなり気に入った様だ。
「おいおい、王家への忠誠じゃないのかい?ははは!」
ナジンがまたツッコミを入れると笑った。
「……義理と人情。リュー君らしい……」
シズがクスクスと笑う。
「私、初耳だけど、ランドマークは確かに義理と人情よね。ファーザ君とセシルちゃんもそんな感じだもの」
リーンも遅れて納得するとみんなの笑いの輪に入るのであった。
テストから三日後、ランドマークビルの王都組事務所、もとい、王都自宅に王家からの使者がやって来た。
それは、ファーザ・ランドマークへの昇爵打診であった。
たまたまこの日、ランドマーク領から朝一番でリューの『次元回廊』でやって来ていたファーザは慌てたが、使者を丁重に迎えると用件を聞いてびっくりしたのだった。
以前、断って流れた昇爵話が再燃したのだという。
理由として『コーヒー』や『チョコ』、革新的な『乗用馬車1号』など国の文化的発展に大きく貢献している事を王家が評価したのだという。
ファーザとしては前回断った事で、二度とそんな話はこないと思っていたから驚くしかなかったのだが、
「お父さん、これは受けるべきだよ。王家からの正当な評価を断る理由が無いよ。それにランドマーク家の発展に繋がるよ」
と、リューが後押しをした。
「……謹んでお受け致します」
二度目を断るのは流石に礼を欠くと思ったファーザは使者に深々と頭を下げると正式に昇爵を受ける事にした。
こうして、ランドマークはこの二週間後、男爵から子爵に昇爵する事になるのであった。




