14話 猫車ですが何か?
父に祖父、執事にスーゴというランドマーク家の大人達の中に混ざって、リューもその場にいた。
父ファーザの執務室である。
「リューのおかげでランドマーク家の財政再建は進んでるが、未だ厳しいことに変わりはない。何か案は無いか?」
ざっくりした質問である。
みんな答えようがない。
「もう、今年はお金に余裕はないんじゃろ?」
祖父カミーザがファーザに聞き返した。
「はい、リューの提案してくれたコヒン豆栽培にお金を使ったので収穫までは我慢です」
「収穫が今以上に上がれば来年にも繋がるんじゃがのう」
「この10年では、ここ数年の収穫量は良い方なので、それは望み過ぎかと」
執事のセバスチャンが指摘する。
「土地が痩せてて元が悪かったからなぁ。わははは!」
スーゴが他人事の様に笑って見せた。
「せめて隣領くらい収穫があれば、余裕が出来るのだが」
ファーザがため息を漏らす。
「……来年に向けて、畑の改善はほぼタダで出来ると思いますよ」
黙って聞いていたリューが口を開いた。
「領内は森が多いです。その森の枯れ葉を集めて、畑の土に混ぜ込めば肥料になって来年はもっと収穫量が増えると思いますよ」
「そうなのか?」
ファーザ達大人は初耳とばかりにリューを凝視した。
「コヒン畑は今順調にきてますが、それは森の枯れ葉と土を混ぜて環境を同じにしたからだと思ってます」
「おお!それを何で今まで言わなかったんだリュー!」
コヒン畑は去年から始めた事だったのでファーザがリューを問うた。
「すみません、確証が無かったので今までは報告できませんでした」
これは本当だ、リューの前世の知識でも農業について詳しくなかった。
ただ、森に毎日入っていて土の違いには気付いていた。
なのでコヒンの木を育てる時、土の環境を同じにした方が良いんじゃないかと農民と話し合った結果だったのだ。
「それなら、今からでもできるな。村長達に提案してみよう」
提案というのがまた人が良い。
領主なのだから命令すればいいのだが、それをしないのがランドマーク家の当主だった。
リューはそんな父を誇りに思うのだった。
村長達はコヒン豆栽培がうまくいってるのを見て納得していたので、この提案にすぐ頷くと村民を集めて作業を始めた。
もう、初夏なのでこれからやって効果があるかわからないがやらないよりはマシだろう。
収穫時期の楽しみがまた一つ増えたのであった。
森からの枯れ葉と土を運ぶ作業を見て、リューは一つ気になった。
それは、効率の悪さだ。
ズタ袋に詰めて運ぶ者、布にくるんで首にかける者、二人がかりで木に吊るした袋に入れて運ぶ者、みんな思い思いの恰好で運んでいたが、結果、量が少ないから往復回数が増えるばかりだった。
リューはこの世界に猫車はないんだろうか?と疑問に思った。
猫車とは工事現場などで人が押す手押し車の事である。
工事現場では主に「ネコ」や、「猫車」と呼ばれている。
リューは前世で十代の頃に、工事現場でアルバイトしてた経験があった。
リューは街の木工屋と鍛冶屋に猫車の設計図を持ち込み、試しに合作で一台作ってくれるようお願いした。
代金は後払いだ。
ごめん、お金がないんだよ……ううっ!
最初、渋られたが相手はリューの坊ちゃんだ。
それに設計図を見ると面白そうだった、これには木工屋も鍛冶屋も職人として興味をそそられた。
共同合作の結果、一部変更が加えられた。
タイヤの部分は馬車の車輪を小さく作って貰い、ゴムが無いので強度アップの為に凹凸のある鉄板を薄く張り付ける、凸凹は滑って回らなくなる事があったからだ。
「坊ちゃん、これは大発明ですよ!こんな便利なもの初めてです。作っててワクワクしましたよ!」
そこまで言われると、お金になるかもしれない、と思ったリューはその足で商業ギルドに向かい、特許を申請するのだった。
数日後、商業ギルドからこの手押し車の特許が下りると、商人がすぐにリューの元に訪れた。
商品化の話である。
もちろんランドマーク家には今、お金がない。
なので、商人に投資させる形で木工屋と鍛冶屋にお金を支払わせ、増産する事にした。
ランドマークの街ではこの手押し車が大ヒットした。
1人で重い物が運べるのだ、バランスさえ保てば誰にでも押せる。
ちょうど、小料理屋の女将が楽しそうにこの手押し車を押していた。
上には小麦の袋が載せてあるが、楽そうだった。
これを目撃してリューは嬉しかった、また、ランドマーク領の役に立てたと思った。
感触を得たリューの元に、すぐに商人から販路の拡大の申し入れがきた。
すぐさまリューはOKを出し、領外にも販売先を広げる事になるのであった。