133話 退学処分ですが何か?
リューは学園側の処分を甘く見ていた。
こちらは明らかに正当防衛だったし、あちらの行為に対してたったの一発殴っただけでは問題にはならないだろうと思っていた。
父ファーザもリューとリーンから話を聞き、担任からも説明をして貰っていたので、いくら相手が大貴族とはいえ、うちの子達は処分らしいものは無いだろうと高を括っていた。
なので、自宅待機の間もリューとリーンにランドマークビルの仕事を手伝わせて気分転換をさせていたのだが、処分を伝えにきた担任のスルンジャーの口からリューの退学と、リーンは不問に処すとの報告を聞いて、ファーザは怒りに身を震わせながらも自制した。
「……先生。うちの子に何の非があったのでしょうか?子供達やあなたの説明ではあちらが一方的に力を行使してきたから、身を守る為に抵抗した、という話だったはず。ましてやうちの子達が抵抗しなければ周囲にも被害が出たかもしれなかったそうじゃないですか。それが喧嘩両成敗でうちの子が退学とはおかしいでしょう」
「トーリッターが無差別な攻撃をした事はこちらも重く捉えました。なのであちらも退学に……」
「名前が上がってない子がいるでしょう?うちの子はその子の分まで罪を被せられたとしか思えない!」
父ファーザは敢えて名前は口にしなかったが、もちろん、イバル・エラインダーの事だ。
「その事は私もこれ以上、何も言えないのです。申し訳ありません……」
担任のスルンジャーも苦悶の表情で父ファーザに謝るのだった。
こうしてリューの退学は正式に決定した。
ランドマーク家はこの決定に怒り心頭も良いところであったが、悲しいかな有名になろうが所詮は地方の下級貴族である、どうする事もできなかった。
いや、何かする暇すらないままの決定であった。
そんな中、なんと数日後にはそれが撤回された。
担任のスルンジャーがまた、ランドマークビルに訪問して父ファーザに頭を下げて、
「退学処分は一旦取り下げられました。なのでまた、自宅待機という事でお願いします」
と、伝えてきた。
「……あの、何が起きたのですか?」
同席したリューが担任に率直な疑問をぶつけた。
「……ここだけの話、王家が動いているらしいのだよ。私もよくわからないが、上層部は今、混乱している。君の処分は多分正式に撤回されると思う。それどころか学園の人事が一新される可能性もあるらしい。そうなると私も失職するかもしれない……。今回、担任として君を守れなくてすまなかった…。今日はそれが言いたくて訪問したのだよ」
スルンジャーはそう言うと、ファーザとリューに頭を下げた。
「先生、頭を上げて下さい。先生が悪いとは全然思ってません。僕は先生が好きですよ」
リューは笑顔でそう答えた。
「……ありがとう。そう言って貰えたら報われた気がするよ」
スルンジャーは少し安堵した表情を浮かべると、また、ファーザに謝罪してとぼとぼと帰っていくのであった。
「……何だか大事になってきたね、大丈夫かな」
リューが父ファーザに心配を漏らす。
「私にもわからん。王家が動いている時点でうちには何も出来ないからな。だが、リューの退学が撤回されそうで良かった。親としてはそれだけが嬉しいよ」
ファーザはホッとした顔をするとリューの頭を撫でて笑顔になった。
「そうだ、セシルにも伝えないといけないからリュー、お父さんをあちらに戻してくれ。お前はリーンに話して上げな」
ファーザはそう続けて言うと、すぐ領地に戻って行った。
「ファーザ君は、もう帰ったの?」
リーンは応接室の外で担任のスルンジャーを見送って、二人が出てくるのを待っていた。
「うん、お母さんに僕の退学処分が無くなった事を伝えにあっちに帰ったよ」
「退学処分なくなったのね!?良かったわ。じゃあ、私のこの退学届は出さないでいいみたいね」
リーンは懐から退学届を出してリューに見せた。
「そんなもの用意してたんだね……。でも、良かったよ。今回ばかりは理屈とは関係無いところで事態は進んでたから全く予想がつかなかったから」
「本当ね。王立学園が酷いところなのは今回の事ではっきりしたわ」
リーンは思い出してまた、少し怒りを覚えた。
「でも、スルンジャー先生の話だと人事が一新されるかもしれないから、これから変わるかもしれないよ」
「そうなの?急にどうしたのかしら」
「何でも王家が動いてるらしいよ。詳しくはわからないけど、王立学園は改革されるのだろうね。そのおかげで僕は助かったみたい」
リューは運が良かったと笑うのであったが、実際はリューを守る為にランス達の親を始め、各方面が動いた結果である事は想像だにしないのであった。




