132話 退学の危機ですが何か?
リューとリーンは教頭による厳重注意の元、出張中の学園長が戻り、最終判断するまでは自宅待機という事になった。
学園側の言い分としては、ライバ・トーリッターという怪我人が出ており、暴力を振るったリューを見過ごすわけにはいかないらしい。
もちろん、ライバ・トーリッターにも問題があったのでそちらも自宅待機になっている。
どうやら、学園側はイバル・エラインダーの関与を無かった事にして、地方貴族のトーリッターとランドマークの問題にしたい様だ。
それならば、喧嘩両成敗として処分しやすいと思ったのだろう。
学園は平等な校風を謳っているのでこの形なら、どちらも処分出来て、学園の名誉も守れる。
王女もこれなら文句を言わないだろうし、エラインダー公爵側も学園が子息を守ったと思ってくれるだろうという算段だ。
後は出張で出ている学園長が戻ってきたら、正式にこの筋書きで処分の判断をして貰うだけだ。
教頭としては、かなり良い判断で問題を解決できたと思っていた。
王女が出てきた事で拗れそうだったが、一晩知恵を絞って出した結論が我ながら良い答えを出せたと思う。
学園長もこの判断なら満足してくれるだろう。
一時は自分の出世街道に暗雲が立ち込めたが、これなら全て丸く収まるはずだ。
そして、次回の学園長選挙では、もしかしたらエラインダー公爵に支援して貰えるかもしれない。
そうなれば、念願の学園長だ。
ピンチをチャンスにする、やはり自分は有能だ。
学園長にも相応しい。
今の学園長も今回の私の判断で国から良い役職に就けて貰えるだろう。
エラインダー公爵の後援があれば尚更だ。
私の未来は明るいぞ!
教頭はそう確信すると自分に酔いしれるのであった。
「……で、教頭。処分についてどう判断する?」
学園長室で、出張から戻った学園長が、教頭の報告を聞いた上で、現場の最終判断を促した。
「学園側としましては、やはり厳正な処罰を下して二度とこんな事が起きない様にしないといけないかと……。ですからトーリッター、ランドマーク両名は退学でよろしいかと思います」
「……だがそれで王女殿下側は納得するのかね?この王立学園は王家の判断が優先されなければならないわけだが……」
学園長は自分の留守の間に起きた問題に渋い顔をした。
「王女殿下は喧嘩両成敗をお望みだった様子。これならば問題ないかと思います」
教頭は自信満々の様子だ。
「……まあ、エラインダー公爵からは多額の寄付を頂いているからな。最初から関係していなかった事にしたのは君の判断が正しいかもしれないな。……よし、ではその二人は退学にして今回の問題は終わらせよう。あ、あと、兵器に関しては生徒達の口止めを重ねて忘れるな。兵器開発の関係者でもあるエラインダー公爵側からも兵器に関して緘口令が敷かれているのだからな」
「はい、わかっております!」
教頭は、勢いよく返事をすると退室するのであった。
エラインダー公爵の執務室。
「……でうちのイバルはお咎め無しか?」
エラインダー公爵は執務の途中、報告を受けていた。
「その様です」
「イバルはどこから軍の兵器を入手した?」
「今、調査中です」
「出処が分かったらすぐに関係者を厳重に処分しろ。この様な事が二度とあってはならん!後はイバルのことだが……、あいつは世継の座から外す。これほど愚かとは思わなんだ。この様な小事で密かに開発していた兵器を持ち出すとあっては、大事を任せる事はできん。妾に産ませた子に期待するしかないな。我が公爵家の悲願もまだ先になるか……」
エラインダー公爵は意味ありげな言葉を言うとため息を吐き、頭を悩ませるのであった。
「──というのが学園側の最終決定だそうです」
エリザベス第三王女は、報告を聞いて表情を変える事はなかったが、
「陛下と会う手筈を取って頂戴。それとすぐにリュー・ランドマークの報告書を学園側に提出させて。どうやら学園側は、彼の才能を過小評価してるみたいだから、王家がそれを改めないといけないわ」
と、側近に厳しい口調で伝えた。
「はは、承知しました」
側近はすぐに部屋を退室すると部下に指示して伝令を各方面に飛ばす。
こうして、リュー達の知らないところで度が過ぎた学生同士のトラブルが大事になっていくのであった。




