115話 友人に勧めますが何か?
休日明けの学校。
リーンとシズは朝からランドマークの商品について、花を咲かせていた。
主に『チョコ』の話の様だが、他にもシズが言うところでは、侯爵家の庭師もスコップと手押し車のおかげで仕事がはかどると喜んでいるそうだ。
リーンは友人であるシズから購入者の生の感想を聞けてかなり嬉しそうだ。
自分ももちろん嬉しい。
職人達の成果が評価されているのだから当然誇らしかった。
ナジンも次の休日には父親の代理の執事と一緒に馬車を見に行くと約束してくれた。
「さっきから何の話してるんだ?『チョコ』は前にリューがくれたお菓子なのはわかるけど、『コーヒー』?とか、『手押し車』?に、『スコップ』?とか聞き慣れない単語が多いんだけど?」
ランスがみんなの会話に付いて行けず蚊帳の外だったので、頭の中が疑問符だらけだった。
ランスは、いつも学校が終わると放課後は王宮に出向き、父親の仕事の雑用をする様になったそうで忙しそうにしているのだ。
「リューの家がお店を王都で始めてそこで扱っている商品名の事さ」
ナジンが掻い摘んでランスに説明する。
「そうなのか?…うん?…『コーヒー』ってもしかしてあの『コーヒー』か?黒い粉のやつ。親父の手伝いした時に最近、運んだ覚えがあるぜ。いい香りがして覚えてる。…という事はリューの家、王家に納める品を扱ってるのか!?スゲーなランドマーク男爵家!」
ランスが、素直に驚いて褒めてくれた。
「いやいや、王宮に出入りしてる君の男爵家の方がよっぽど凄いから」
リューは王都の名家であるボジーン男爵家の跡継ぎにツッコミを入れるのだった。
「そうだぞランス。君の家は常に国王陛下の側にあって影響力を持っているからな。王家御用達商人も君のとこの父上が首を縦に振らなければ何も出来ないらしいじゃないか」
「そこは、仕事だからな。陛下が口にするものは吟味もするし、扱うものも怪しいものは排除しないといけないし……。首を振るかどうかは商品次第さ。つまりリューのとこの『コーヒー』はうちの親父が納得した味って事だ。うちの親父、堅物だけど味にはうるさいから十分凄いぜ!」
思わぬところでランスの父親のお墨付きを間接的に頂く事になるリューであった。
「そうなると、ランスにも色々勧めたいところだけど、今日のお昼は、リゴー飴でも食べて貰おうかな」
リューは自分が好きな甘味を勧める事にした。
「俺に勧めても駄目だって。ははは!王家御用達商人が選んで持ち込み、それを親父が吟味するから俺の入る余地はないぜ?」
笑って断るランスであった。
昼休み。
「うまっ!これ、親父に食べさせるからお土産にいくつか貰えないか!?『ホワイトチョコ』も美味しかったけど、このリゴーの実の酸味とそれを覆ったパリパリの飴が、食感と合わさって美味しいよ!これ、親父好みの味だ。それはつまり、陛下も好きな可能性があるって事だぜ?」
ランスは、朝の発言を簡単に撤回するとリューの勧めるリゴー飴の虜になるのであった。
「じゃあ、放課後、帰る前に渡すね」
内心ガッツポーズをするリューであった。
「……これ、喫茶『ランドマーク』にも、置いてるの?」
シズがパリパリと音を立てながら少しずつ頬張り、聞いて来た。
「そうだよ。最近は新作で他の果物も、水飴でコーティングして出してるんだ」
早速、シズにも売り込む。
「……また、休日出かけて注文するね」
どうやら、シズも気に入ってくれた様だ。
リュー達がスイーツの話で盛り上がっていると、他のグループも同じ様に盛り上がったのか声が聞こえてきた。
「どうだ凄いだろ?今、上流階級で有名になってる何とかってお店の『ホワイトチョコ』だよ。朝早く使用人に並ばせて入手したんだ。限定商品だから中々入手できないんだぜ?」
貴族の男の子がランドマークの家紋が入った『ホワイトチョコ』の箱を開けて自慢しているのが見えた。
周囲は、「おお!」と、その男の子を囲んで羨ましそうに見ている。
「うちも使用人に買いに行かせたけど、売り切れてたんだよ!」
「うちは買えたけど、父上がそのまま手土産に偉い人のところに持って行っちゃったから食べられなかったんだよな!」
「それはついてないな。でも、入手困難で珍しいから仕方ないよ」
取り囲む子供達はヨダレを飲み込んで、今この瞬間、誰よりも偉い『ホワイトチョコ』を手にした男の子を羨望の眼差しで見上げるのだった。
「よし、先着で五名に一粒ずつ上げるぞ!じゃんけんするからみんな用意しな」
椅子の上に立つこの男の子は最早、民衆に敬われる英雄の様であった。
「何か凄い事になってるな……」
ランスが一角で盛り上がる光景を目にして呆れた。
「……そうね。というかランドマークの名前を忘れてる時点でダメよ!」
リーンは肝心のランドマーク家の名が出てこなかった事に憤慨した。
「まあまあ……。巻き込まれない内に教室に戻ろう」
じゃんけん大会が始まる傍ら、リュー達は食堂を後にするのだった。




