113話 続・放課後ですが何か?
放課後、ラソーエ侯爵家の娘シズの馬車に乗せて貰い、リューとリーンは、ランドマークビルの前まで送って貰った。
リューとリーンが馬車から降りると当然の如く、シズ・ラソーエと、ナジン・マーモルンもついて降りて来た。
「送ってくれてありがとう……って、何で二人とも降りるの?」
「シズがランドマークビル内を案内して欲しいそうだ」
ナジンがシズを代弁して目的を言う。
あ、そういう事だったのね!
シズは『チョコ』のファンだと言うし、それならこちらも案内するのはやぶさかでもない。
というかラソーエ侯爵とマーモルン伯爵という名家に懇意にして貰えたらそれだけでも、うちは安泰だ。
「じゃあ、『チョコ』専門店が二階にあるから──」
リューがシズの目的と思われるお店へ案内しようとすると、
「……一階からお願いします……!」
と、シズが珍しく声を張ってお願いしてきた。
これにはリューもナジンも驚いた。
どうやら、ランドマークビル自体に興味を持ってくれた様だ。
「じゃあ、一階の『各種車』専門店から──」
リューは喜々としてシズとナジンを案内するのだった。
シズはリューの案内、商品説明に耳を傾け、商品を1つ1つ食い入る様に目を輝かせて見て回った。
ナジンもその傍で商品を感心しながら見ると時折質問をしてくる。
「さっき在庫不足って言ってたけど、今からだったら納車はいつになりそうだい?」
「カスタム内容にもよるけど、通常のなら今は多分1週間以内にはなんとか。あ、職人さん!今、納車はどのくらい待ち?」
「あ、坊ちゃん。納車ですかい?それなら本領の方で製造したのを坊ちゃんが運んでくれたら5日待ちくらいで納車できると思うぜ!」
「了解!じゃあ、後で部品も含めて取りに行ってくるよ!」
「リュー、君が、自領まで馬車を取りに帰るのかい?片道三週間かかる遠方の領土だと聞いたが?」
ナジンがリューと職人のやり取りが理解不能だったのでクエスチョンマークだらけになっていた。
「あー。えっと……、説明すると話が長くなるからあれだけど、今なら5日で納車できるみたい。予約するなら今だよ!」
リューは強引に説明を端折ると、店内展示している『乗用馬車1号』の車内に案内した。
そして、車内を揺らして衝撃吸収するサスペンションをアピールして二人の購買意欲を誘う。
「……裏事情が気になるが、確かにこれはいいものだ。父上に話してみるよ」
ナジンが乗り心地に感心すると親に相談する事を約束してくれた。
「……私もパパに、……話してみる。」
シズも決意を胸に頷く。
よし、二台売れるかもしれない!
リューは内心でガッツポーズするのであった。
その後、二階でも案内をするのだが、『チョコ』専門店は商品の売り切れでこの日はすでに店を閉じていた。
「あらら。売り切れたからお店はもう閉じてるや……。……あ、そうだ!商品はないけど店内見てみる?」
リューが残念な顔をしているシズに聞いた。
するとパッと顔か輝かせてシズが何度も頷く。
「じゃあ、鍵を開けるね」
リューはマジック収納から鍵を取り出すと開けて店内に案内した。
シズはお店に入ると大きく深呼吸してまた、感動する。
「……『チョコ』の香りがする!」
店内は専門店だけに『チョコ』の香りが充満していた。
カウンターにはガラスケースが並んでいて、その中に商品である『チョコ』が陳列される。
お客さんは商品を指さし、買う量を指定して店員が商品を取り出して包むのだ。
なので衛生的だ。
お客さんはみんな老若男女問わず、ガラスケースの前で張り付いて商品を選んでいるのだが、目を輝かせて選んでいる姿は子供の様で、リューはそれをお店の外から眺めるのが好きだった。
そして、シズもまた、商品の無いガラスケースを前に感動して見回していた。
「……今度休みの日は自分で買いに来るね……。あ、ナジン君も連れて」
店内を確認できた事でシミュレーションが出来たのだろうシズは少し自信を持って言った。
「うん、お勧めはナッツ入りのチョコかな。あ、各種ドライフルーツ入りも美味しいよ?」
「……そんなのがあるの!?……私、普通のしか食べた事ない…。絶対、それを買うね」
シズは鼻息荒く誓うのだった。
「もう、リュー!取っといて上げればいいじゃない!」
リーンが横からもっともな事を言う。
「ほら、自分で買う楽しさがあるじゃない。あ、もし、買えなかったらその時は、取って置いてそれを渡すね」
リューはこの先、常連になりそうなシズと約束を交わすのであった。




