110話 友達が出来ましたが何か?
「え?」
ナジンは、リューの弁解に増々混乱した。
新興の地方の男爵家がこの特別クラスに入れるわけがない。
普通クラスにも貴族は沢山いる。
地方の新興の男爵なら普通はそっちのはずだ。
このリューという子は、英雄の娘を従者に連れているし、例外的なボジーン男爵の子息も傍にいるからきっと彼も例外的な貴族のはず……だ。
「……ナジン君。ランドマークって、あのランドマークじゃない?」
ナジンの影に隠れているシズが、ナジンの袖を引いて小声で教える。
「……あのってどの?」
ナジンは幼馴染の言葉にまだ、ピンと来ず、聞き返した。
「……私が昨日上げたじゃない『チョコ』。あの『チョコ』を売ってるところだよ、多分」
「ああ……!ランドマーク商会って事?それって商人なんじゃ…?」
ナジンはシズの言いたい事はわかったが、的外れに聞こえて指摘した。
「あ、商人ではないけど、うちがその『チョコ』を製造販売してるランドマークだよ。確かに商業ギルドに登録して直接販売を始めてはいるけどね」
ナジンは処理できない情報にまた混乱したが、シズは『チョコ』のランドマークとわかって目を輝かせ始めていた。
「……ちょ、『チョコ』の……ふぁ、ファンです……!大好きです……!」
シズが、顔を真っ赤にして、小さい声で勇気を振り絞ってリューに伝える。
そんなシズを見るのは珍しいのかナジンは驚いてシズを凝視する。
確かに、シズは『チョコ』を初めて口にすると感動して、使用人をランドマークビルの『チョコ』専門店に直接並ばせて購入をさせる程、珍しく自己主張してみせていた。
いつもなら控えめに、それでいて遠回しに周囲に伝えてくるので、その本意を周囲が察する事が常だった。
なので直接的に誰かに伝える事がほとんどなかったのだ。
それだけにシズの勇気を振り絞った姿を目にしたナジンは嬉しくなって笑みが生まれた。
「そうか、そのランドマークなのか……。シズも喜んでいるみたいだし、こちらからも同じ班になる事をお願いしたい。改めてナジン・マーモルンだ。こっちはシズ・ラソーエ」
シズはナジンの陰から出てくると、会釈してまた、ナジンの後ろに引っ込んだ。
やはり、かなりの恥ずかしがり屋の様だ。
そこに、授業の鐘が鳴るのが聞こえてきた。
「じゃあ、休憩時間にまたね」
リューは二人に改めてまた挨拶すると自分達の席に戻るのであった。
休憩時間に改めて話すとナジンとシズは偉ぶったところが無く、かなりの好印象を受けた。
ナジンは幼馴染のシズを守る事に全力を注いでる感じだ。
それでいて、周囲にも目を配り、話しかけた男爵の三男風情の自分にも気を遣ってくれる思い遣りがあった。
リーンもこの二人の印象は良かった様で、シズに積極的に話しかけ、『チョコ』はリューが発案した物だと教えた。
それを聞いた恥ずかしがり屋のシズは目を輝かせて、リーンに質問をし始めた。
ナジンはシズが自分以外の人に積極的に話をする姿に驚いたが、自分以外の友達が出来た事を素直に喜ぶのだった。
「──だから、うちはただの男爵家だよ」
リューは、改めてナジンに説明をしていた。
「思い出した……。君、上位合格者だよね?そう言えば、シズが『チョコ』と一緒の名前って言ってたよ」
ナジンが、シズに視線をやりながら思い出した。
「ははは……。でも、ランドマーク家の名前を知って貰えてて良かったよ。こっちではまだまだ、無名だから……」
リューが苦笑いしながら言う。
「さっきから、言ってる『チョコ』って、何なんだ?」
ランス・ボジーンが、ずっと聞きたかった事を口にした。
「うちの領内で作ってるお菓子の名前だよ」
「お菓子?ランドマーク領ではお菓子を作ってるのか?それは食べてみたいな。でも、ランドマーク領って遠いんだろ?王都で買えたら良いのにな」
甘い物に目が無いランスが残念そうに言った。
「あれ?ランスにはまだ説明してなかったっけ?うち、王都にお店出してるから食べられるよ。というか今ちょっとあるから上げられるけどお昼休みに渡すね」
リューがそう言うと、リーンと話をしていたシズがこっちをチラチラと見ている。
「リュー、シズも食べたいみたいだから……。お金は払う、少し譲って貰えないかい?」
ナジンが、シズの気持ちを察してリューにお願いしてきた。
「もちろん、シズとナジンにも上げるから、お金は要らないよ。あ、うちの喫茶『ランドマーク』では、『チョコ』以外のデザートも食べられるからお越し下さい」
ちゃっかりお店の宣伝もするリューであった。
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