107話 入学祝いですが何か?
入学初日という事でこの後は、学生寮に入寮する者達の為に時間は割かれ、通いの者達は解散になった。
リューとリーンは、ランドマークビルからの通いなので、待っていたファーザ達と馬車に乗り込むと一緒に帰る事にした。
「クラスはどうだった?」
母セシルが、今日の感想を聞いて来た。
「王女殿下と同じクラスになっちゃった……」
これには、父ファーザも母セシルも驚いた。
「粗相がない様に、気を付けるんだぞリュー!?うちは男爵家、こちらから話しかけるのも失礼になるからな」
確かに、父ファーザの言う通りだ。
ましてや自分はその男爵家の三男坊だ。
王女殿下に関わっていたら、命がいくつあっても足りない。
となると問題はリーンだが、リーンはリューの従者として一緒にいる事を優先しているので他の者に興味はさほどない様だ。
失礼な物言いさえしてくれなければ、危機は訪れないかもしれない。
「他の保護者から聞いたのだけど、今回は異例の特別クラスが二つなんでしょ?そこにリューとリーンちゃんが入るって大丈夫なのかしら」
母セシルが、不安を煽る事を言う。
そう、うちのクラスでも手一杯なのに、もう一つ特別クラスがあるので、そちらからのトラブルも降りかかりそうで怖いのは確かだった。
「……無事に卒業してランドマーク家に貢献できる人間になるから……!」
前途多難そうな学園生活を想像しながらリューは両親に約束するのであった。
ランドマークビルに帰ると、ビルの前に見た覚えのある制服を着た生徒達が数人集まっていた。
「思ったより立派な建物じゃない?」
「そうね、高そうな雰囲気あるけど、いいのかしら……」
「今日は入学祝いなんだから!うちのパパが支払うから安心してね」
どうやら、生徒達の背後に立っている貴族ではなさそうだが十分裕福そうな格好の男性が生徒の父親で、娘に出来た友達と一緒に喫茶「ランドマーク」でお祝いの様だ。
お友達二人は平民なのか気後れしていた。
「そうだぞ、今日は入学祝いだから、遠慮しなくていい。今後も娘と仲良くしてくれよ」
お父さんは満面の笑みで娘のお友達に愛嬌を振りまいている。
ここは、娘の父親として良いところを見せたいところだろう。
その一行が二階に上がって行くのを見送ると、リュー達もそれに付いて行く。
と言っても、リューはうちに帰っているだけなのだが。
「お?そちらのお子さんも王立学園の新入生ですかな?うちの娘達もなんですよ。ははは!」
お父さんは余程誇らしいのだろう、同じ喜びを共有できそうなファーザとセシルに話しかけた。
「ええ、うちの子達も今日は入学式だったので、嬉しい限りです」
ファーザもこのお父さんが微笑ましく映ったのだろう、笑顔で同調すると頷いた。
「今日は入学祝いに、今、話題になっているこのお店に来たのですが、お宅もですか?」
お父さんは満面の笑みだ。
「うちはまた、別の理由ですが──」
二階に上がると、店先に行列ができていた。
「こりゃ、噂以上ですな!少し並ばないといけないな」
お父さんは娘達にも聞かせる様にファーザの言葉を遮る形で驚いてみせた。
「これは、いけないな。ちょっとお待ち下さい」
ファーザはそう答えると、喫茶「ランドマーク」の従業員を呼び、奥の個室にこの男性と娘達を通す様に言った。
「え?」
お父さんはこの自分と同じ新入生の保護者である父親の行動に驚いた。
「今日は、入学祝いです。ご存分にお楽しみ下さい」
ファーザはこの好感が持てるお父さんに笑顔で応えると店内にお父さんを先頭に娘達を案内し、従業員に任せるのであった。
娘達は突然のVIP待遇に驚いて喜んでいる。
お父さんはお父さんで、自分が話していたのがここのオーナーだとわかって別の意味で驚いていた。
そして、ペコペコとファーザに頭を下げるのだが、ファーザはそれを止めてまた、改めて一言、
「楽しんで下さい」
と、答えるのであった。
この、父ファーザの行為に、さすがうちのお父さんだと、誇らしく思い笑顔になるリューであった。




