104話 大成功ですが何か?
ランドマークビルオープン初日は、大成功であった。
初日は二・三台売れてくれれば御の字と思っていた馬車が一日で十二台を売り上げ、その内六台は即、納馬車を求められた。五台分までしか組み立て済みの馬車がなかったので、リューが持ち込んだ在庫の部品を職人が急いで組み立てるという方式ですぐに対応して納馬車するという大忙しの局面があった。
リアカーや手押し車は商人が積極的に買っていってくれた。驚くべきことに、便器なども売れた。馬車を買いに来た貴族が待っている間に興味を示し、ついでに契約をしてくれたりと相乗効果で売れたのだ。
そして、やはり一番の売れ行きは『コーヒー』と『チョコ』であった。
あらかじめ用意したものがお昼には完売した。
用意したものは今後の事も考えて量は控えめにしていたので、1人で買える量も限られての販売だったのだが、貴族の御用達商人を始め、中にはお忍びの貴族や、その使用人なども並んでいたそうだ。
そんな中、一日中反響があったのが、喫茶「ランドマーク」だ。
最初、高価な『コーヒー』と『チョコ』をお試しする為に入店するお客が多かったのだが、誰かがそれ以外のスイーツを頼み、店内で思わず「美味しい!」と、絶賛した事で他のメニューにも目が向けられると注文され始め、絶賛されるという繰り返しでお客が絶えなくなった。
ランドマークビルに長い行列が出来てから閉店間際のオーダーストップまでの間、従業員は他部門からの助っ人ですら休み無しのフル稼働であった。その報告を受けたリューは、ビルの総管理者のレンドと共に従業員の大幅増員を早急に図る事にしたのだった。
コーヒーはブラックでもいいけど、仕事のブラックは駄目、絶対!
──リューがレンドに発した一言──
言われたレンドは最初、全くピンときてなかったが、リューが上手い事言ったという顔をしていたので、大事な言葉なのだろうと察し、標語としてランドマークビルの管理事務所に掲げられる事になった。
父ファーザもオープン初日が良い出だしだった事に満足で、仕事終わりの従業員を集めて感謝と労いの言葉を述べた。
従業員達はみんな領民だ。
父ファーザのみんなを労う言葉と感謝に素直に感動すると、
「明日からもみんな頑張るぞ!」
「「「おお!」」」
と、一致団結するのであった。
「あ、みんなコーヒーはブラックでもいいけど、仕事のブラックは──」
なお、リューがお気に入りの言葉を言って、みんなにポカンとされた事も記しておく。
それからの入学式までの数日間、ランドマークビルの評判は日増しに増大していき、貴族やその子弟も連日ランドマークビル周辺で多く見かけられる様になった。
お忍びのつもりだろうが、貴族の馬車は派手目なので直ぐ目立つ。中には離れたところでわざわざ降りてこちらに歩いてくる者もいたが、ランドマークビルは5階建てなので、上から眺めているとよくわかった。
服も地味目のつもりだった様だが、庶民との格差は大きく、喫茶「ランドマーク」でも目立っていた。
中には、同年代の子もいて、コーヒーはともかくとして、お好み焼きもどき(ピザ)に美味しいと喜びはしゃいでいた。
食後のスイーツにも感動するがいい!ははは!
と、リューはその光景に、お店の外から眺めて内心大満足だったが、
「リュー、私達明日入学式なんだからちゃんと切り替えなさいよ?」
とリーンに指摘され、ようやく学校が明日から始まる事に気づく有様なのであった。
入学式当日。
リューとリーンは、父ファーザ、母セシルと一緒に馬車に乗り込むと王立学園を訪れた。
馬車がランドマーク製の特別仕様だったので一部の貴族にはその凄さが伝わったのか注目を集める事になった。
サスペンションはもちろんだがその時生まれる揺れを吸収するショックアブソーバを追加、他にも内装や外装のデザインも『乗用馬車一号』からの発展系でまだ試作段階なので商品化していないのだが、同じランドマーク製の馬車でドヤ顔で入学式会場にやってきた上級貴族にはまぶしく映った様だった。
父ファーザ、母セシルは、四人の子の親とはいえ、少し年を重ねただけの美男美女である、馬車から降りて現れると馬車の事と相まって目立っていた。
リューとリーンも馬車から降りたがこちらもまた、親に似て整った顔立ちに燃えるような赤い髪、聡明そうな青い瞳のリューに、美しい金色の長髪に緑の瞳、誰もがはっとする美女のエルフのリーンはインパクト十分だった。
「お父さん、馬車が目立ってるみたいだよ!やったね!」
リューは、自身も目立っている事に気づかず手放しで喜ぶのであった。