1話
兄さんの訃報の知らせを聞いたのは、死後から3日くらい経った頃だった。
「兄さんが死んだ?!うそでしょ……」
右京詩音の妹、右京愛梨はアメリカ合衆国のハーバード大学で研究をしていた。
「アイリ、もう今日は休んだ方がいいわ。教授には私から言っておくから」
「ありがとうルーシー」
愛梨は帰る途中、学校の廊下で教授と会った。
「やあアイリ! 研究は順調かい?」
「教授。いえ今はそれどころじゃなくて。実は3日前、兄が亡くなったという連絡が来ました」
「oh...それは残念だったね。もうすぐ君の異世界の発見と移動という前代未聞の研究も佳境に入ってきたというのに。いまこういうことを言うのは、あれかもしれないけど、二ホンには輪廻転生って言葉があるらしいじゃないか。ジャパニーズアニメでも転生するのが流行ってるみたいだし。案外異世界で見つけられるかもしれないね」
「ほんとに失礼な事言いますね……でも待てよ? そういう可能性もあるのでは……」
「ジョークだったんだけど。まあ、アメリカが支援してるんだ。しっかりと研究を成功させて合衆国に貢献したまえ」
そういうと、教授は去っていった。
「最後までなんてこと言うんだ……でも、ヒントはもらった!この可能性に賭けるしかない」
愛梨は研究所へ戻っていった。
「アイリ!! 帰ったんじゃなかったの?」
「教授から良いヒントをもらったんだ! もしかしたら異世界に兄さんがいるかもしれない!!」
「そんなわけないでしょ。大体異世界って言っても膨大な数あるわけでしょ?どうやってお兄さんを探すのよ」
「それを今から考えるのよ!!」
それからひと月、愛梨は研究を休まず行った。その熱意を見たルーシーは途中から愛梨を手伝うことになった。
その後、
「や、やったわ!! ついに異世界転移装置が完成した!!」
「おめでと!! 愛梨! こっちも探知装置ができたわ!!」
「よし!! 早速実行だ!!」
「「おーーー!!!」」
二人は探知装置を使った。
「この世界にお兄さんはいるみたいね。まあ実験したわけじゃないから確証はないけど」
「でもルーシーの最高の出来なんでしょ? だったら信用できるわ。後は転移するだけね!」
「ちょっと待って」
「なによ。実験は成功してるんだから安全性は大丈夫よ」
「そうじゃなくて、手ぶらで行くつもり? しっかり準備はしていかないと」
「その通りだよ。ミス・アイリ」
「「教授!」」
「合衆国が支援するといったはずだよ。なんでも必要なものを言いなさい。それは武力でもだ」
「支援してくれたから、研究はあなたたちに渡すわ。でも侵略とかなら別の世界でやって。兄さんの捜索の邪魔になってほしくないから」
「解かったとも。だが困ったときはいつでも言ってほしい。それと最低限の物資と武器は用意させてもらったよ。気を付けて行ってくるといい」
「言われなくても」
愛梨は転移ポットについた。
「この腕輪を持って行って。これは愛梨から申請すれば必要なものを送ってくれるようになってるの」
「いやアメリカの力を借りるのは」
「そういうと思って教授が配慮してくれたわ。これは日米合同の極秘研究になってたらしくて。だからこの申請は二ホンの自衛隊に行くようになってるの」
「えぇ。そういう問題じゃ・・・。まあ、弾薬とか必要な物もでてくるかもしれないし。ありがたく使わせてもらう」
「アイリよ。定期報告はしたまえよ?」
「解かりましたよ、教授。それじゃ、行ってきます」
「気を付けてね。じゃあ、起動ッ!!」
ルーシーの掛け声と同時に、ポットが機動し始めた。その後ポットの中にいた愛梨は異世界に転移した。
「ついた・・・・?」
数秒後、景色が研究室から野原に代わっていた。
「やった!!成功だ!!!」
愛梨は成功を喜んでいた。
「まずは村か何かを探してみよう」
愛梨は村を求めて歩き出した。
「めちゃくちゃ重いな、リュック。」
愛梨は相当歩いていた。流石に背嚢が重くなってきた。
しかし、長い徒歩も終わりが見えた。村らしきものを見つけたからだ。
「村だ!!看板になんか書いてある。ええと、パウラ村か。あれ?なんでだろ。異世界なのにバリバリ日本語書いてある」
「どうされましたか?」
老人が話しかけてきた。
「うわぁ!! めちゃくちゃ日本語!!」
「ニホンゴ? なにを言ってるかわかりませんな。これは共通語でしょうが。それはそうと、私はパウラ村の村長です。あなたは旅人ですかな?」
「はい。そんなとこですね。このあたりに町や村は一つだけですか?」
「いや、もう少し行ったところにアスリカ王国
の王都があります。でもあまり行かない方がいいですね。ここも危険なので村で逃げようかと思っているところです」
「なぜ?」
「アスリカは魔王軍との戦争の最前線の国です。特に王都は運の悪いことに前線から1番近い都市です。だから行っても危険ですよ」
「私は兄を探してるので情報を集めなきゃいけません。だから王都に行ってみようと思います。場所はどこですか?」
「ここを出て西へ行けばつきます。くれぐれもお気をつけて行ってください」
「解かりました。ありがとう、村長さん」
愛梨はアスリカ王国へ向かい歩き出した。