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僕は『僕』じゃないっ!  作者: 立田友紀
2.『かわいく』なりたい
9/15

9.「お姉ちゃんの女の子講座(前編)」

 僕の女装姿がお姉ちゃんにバレて。

 そして、お姉ちゃんに「女の子の服で居ても良いよ」って言ってもらってから――一週間が経った土曜日の朝。

「それじゃ、私は仕事行ってくるから」

 ――あとよろしくね。

 そうとだけ言い残して、お母さんは慌てて家を飛び出していった。

「社会人は大変だなぁ」

「本当にね」

「お姉ちゃんも数年でああなると思うんだけど……」

「そっかぁ。でも私は土日は休めるところに就職するし」

 少なくとも、ソファーの上でマンガを読みながらだらけるお姉ちゃんにだけは言われたくない内容だ。

 けどまあ、そんなことはさておくにしてもお母さんが家を出たということは……。

「で、望海は着替えてくるんじゃ」

「あっ、そうだった!」

 そう言って、慌てて。

 ――いや、慌てていたわけじゃないけど、足早に自分の部屋に戻ってクローゼットを開ける。

「何にしようかなぁ……」

 そう言いながら服を選ぶ。

 以前はシンプルな服がたくさん入っていたはずのクローゼットも今ではいろいろな種類の服が増えており、その中で着たいと思った服を手に取って着替えると1階に戻ると。

「おかえり。……今日もかわいいじゃん」

「そうかなぁ? そうだよね!」

 そう言いながら、その場でくるっと回るとロング丈のカットソーがふわっと舞う。

 週に1回だけ許された、僕が『僕じゃない』服で居られる。いわばシンデレラになれる時間。シンデレラタイムがやってきたのだ。

「そうかなぁって言いつつ、めちゃくちゃ顔は楽しそうにしてるよ?」

「当たり前じゃん! こっちの服が僕は好きなんだから」

「それは分かるけど……」

「だってだって、まずこの両腕のフリルが可愛いでしょ? しかもこのカットソー、ロング丈だから普段はスカートっぽく見えるんだけど僕が動くと下にはいているショートパンツがちらりと姿を見せるわけ。かわいさの中にボーイッシュな部分があるって良くない!」

「えっ、うん……。まあ……」

 あれ? なんか……心なしかちょっと引いてる?

 久々に僕は来ていて楽しい服装ができて、ついウキウキで今選んだ服のポイントを言ったんだけど……。

「なるほど。まあ、似合ってるから良いんじゃない?」

 なんか、すごい淡泊な反応だった。それどころか。

「というか、あんただから良いけどもししょーくんが着ていたらドン引きじゃ済まないよねぇ」

 なんでここで祥太郎が出てくるんだよ、とちょっとムッとした。どうせなら僕の服装のほうにコメントして欲しかったんだけどなぁ。

 ……まぁ確かに、祥太郎のような男の子らしい男の子が着ていたらちょっとヤバい絵面になっちゃうか。でもそれって逆を返せば僕が男らしくはないってことでもあるよね? 

 僕が男らしくないっていうか、僕に男らしさを押し付けないでいてくれていることは……まあありがたい話なんだろうけど。でも……なんか、素直に喜べないのは何でだろう。

「あれ、なんか望海拗ねてる?」

「拗ねてません」 

 そう言いつつ、お母さんが残していった洗い物に手を付ける。

 まあ、色々とこの服ではしゃぎたいところではあるけども、だからって家事をやらないで良いというわけでは無いし、家で留守番をしている以上多少は家事をしないとお母さんにも申し訳ないしね。

 そんなわけで気分をいつもの調子に戻して、さっきまでの作業を再び繰り返す。

「せっかくオシャレしたのに洗い物って……」

「そう言う暇があるなら洗濯機とか回してよ」

「えーっ、やだ」

「ちょっとは手伝いなさいって」

 まあ、この姉にそんなこと言っても仕方ないかと半分呆れつつ。……そんなんだから彼氏できないんだよ。

「のぞーみっ? 何考えているか分かっているからね?」

「勝手に人の頭の中覗かないでくれるかなっ!」

 というか自覚あるならさっさと家事を手伝ってよ、とちょっと文句を言いたくなるけどそこはぐっと我慢。というのも、僕は今までこの姉に対して一度も口げんかで勝てたことが無いのだ。

 口げんかというか、どんな姉弟げんかであっても。口であってもリアルファイトであっても最後はお姉ちゃんに何かしらの形でやりこめられてしまうってわけ。

 4歳も差があるとね……やっぱりなかなかその差を埋めるのは難しいってわけ。だからこそますますうちの姉が暴君になっちゃったというのもあるんだろうけど。

 なんてボケーっと考えていたその時だった。

「というか望海」

「えっ?」

 いつの間にかお姉ちゃんは僕の後ろに立って冷蔵庫から麦茶を取っていた。それはまあ、別に大して驚くことじゃないんだけど。

「ちょっと見せて?」

 そう言うなり、僕の腕をつまんでじっと見つめる。

 それだけならまだ良いんだけど。

「ちょっと……何さ?」

「いや、あのさぁ……」

 っていうなり彼女はさらに僕の脚のほうをじーっと見つめてくるのだ。

 僕は女の子じゃないから、こういう反応をするのはちょっとヘンなのかもしれないけど……。

「なんかその、舐めるように見るるのはちょっと……」

 恥ずかしいんだけど、ってつい言って左脚を隠す。

 何だろう……男の子の服を着ているときってそんな視線を浴びないからむず痒くてヘンな感触を覚えたのだ。

 だけどもそれに続く彼女の言葉は。

「ゴメンゴメンっ! まさかそんな乙女な反応するなんて思わなくて」

「乙女じゃないけど、でも……」

「いやさぁ、前々から私もちょっと気になってたんだけど。やっぱそういう服を着るってなったら、言わなくちゃいけないかなって?」

 そう言って珍しくお姉ちゃんは頭を抱えて、言うのをためらっているようで。

 てっきり僕も、女の子っぽい服装をするうえでのアドバイスかなって。お皿を洗っていたこともあってその程度のことしか考えてなかったんだ。

 でも、あんな舐め回すような――って言い方はアレだけどそんなところからきれいなアドバイスなんて出てくるわけないじゃん?

 だから続くお姉ちゃんの言葉の破壊力はなかなかにインパクトが大きくて……。

「いや、あのさぁ。気を悪くしないで欲しいんだけど……」


「脚の毛が……ちょっと気になる」


 毛が気になる。

 考えてみれば、それは当たり前のこと。

 僕だってそこは男の子だし、他の子ほどは無いとはいえ多少はやっぱり産毛とか生えているのは確かなんだけど……でも女の子な服装の中に男要素があるって言われると何だか急に恥ずかしくなって……。

「えっ? ど、どうしようっ⁉」

 いや分かってる。むしろそれが正常ってことも。

 でも明らかにそのアンバランスさがおかしくて、顔から火が出そうなくらい恥ずかしくて。

 そっか、だからお姉ちゃんジロジロ見てたんだ……けどもうちょっとだけオブラートに包んでくれてもいいじゃん!

「あんたこの後の買い出しもそのカッコで行くんでしょ?」

「行くわけないじゃんバカっ!」

 仮に違和感ないって言われてもそんな……毛が……生えた状態で脚なんか出せないよ。

 それって明らかに女装趣味のヘンタイですって周りに言いふらしてるようなもんじゃん! ……まあ本当にそうだから、いざ言われたらぐうの音も出ない。だけど……。

「そんなわけだから、家事をちゃっちゃと片づけたらちょっとお手入れをしようか?」

「お手入れ?」

 そう提案するお姉ちゃんに、つい疑うような目線を向けてしまう。

 けどそこは、現役の女子大生。言っていることは至極まともで。

「いやだって、望海は女の子になりたいんでしょ?」

「女の子になりたいわけじゃなくて――男っぽく……。なりたくはないだけで」

「だったらどっちみち『男』要素は消さなくちゃ、でしょ?」

「……うん」

「だから」


「お姉ちゃんが、望海を女の子にしてあげるっ!」


 そう言うと、すごく可愛らしい言葉のようだけど。

 けど実際はかなり生々しいというか、女の子の大変さを学ぶことになるとは――その時の僕はまだ知らない。

お待たせしました。僕は『僕』じゃないっ! 連載再開です。

といってもストックが無いので、当分はゆっくり更新が続いてしまいます

理想は週1更新ですが果たしてできるのか……? 


そして、新たに新章に入りこの章のテーマ「かわいくなる」というもの。

主人公望海は、姉とともにどうやってこの問題に向き合っていくのでしょうか?

次回に続きます。

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