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僕は『僕』じゃないっ!  作者: 立田友紀
1.『男』になれないおとこのこ
4/15

4.「バレちゃった⁉」

 姉の服を借りて女装をする。そんな習慣が始まって、2週間くらいたったある日。

 それは、本当に突然の問いかけだった。

「望海さぁ、最近あたしの部屋ちょくちょく入ってたりする?」

 ソファーに寝転がって、リラックスした様子で雑誌を読んでいるお姉ちゃん。そんな彼女が発した一言は、きっと彼女としては大したことじゃない内容だったのだろうけど――。

「えっ? どうして……?」

 彼女に見破られているかもしれない、という焦りもあってか返す言葉がついぎこちなくなってしまう。

「いやさぁ、マンガの配置とか、カーテンいつの間にか閉まってたり空いてたりしてるしなぁ」

「あぁ、それは漫画とか借りているから。カーテンは夕方とかになったらついでに閉めてるだけで」

 それでもお姉ちゃんが、マンガって言葉を出したからさもそれを借りているということを強調して言い返す。

 とっさの返しではあるけども、我ながらよくこんなこと考えついたものだ。

 そしてこう言われたら、さすがのお姉ちゃんもそれはそうだと納得するしかなかったのか。

「そう? ならいいけど」

「それか僕じゃないならお母さんが部屋に入って掃除でもするついでとかなんじゃない?」

「あぁ、そっか」

 しれっと、お母さんに罪を擦り付けて再び読みかけの本に目を落とす。のだけども。

 ――正直に言うと、話の内容が全く頭に入ってこない。

 だって、結果として気づいていないとはいえこまちゃんの言うことは……僕が抱えている「秘密」を明かそうとする一言だったわけだから。

 まあそれでも、お姉ちゃんはさっきの返答で納得したらしくて話はそこで終わってしまった訳なんだけど――。


 ◇


「へー。『ネバーランド』終わっちゃうんだ……」

 おせんべいをつまみながら、マンガ雑誌をぺらりとめくる。

 中学3年生の前半とは何とものん気なもので、授業が終わってしまえばすぐに家に帰ることができることもあって自由時間がこれでもかってくらいあったりするのだ。

 今までは部活とかもあって、何だかんだで帰る時間は夕飯直前って状態だったというのにそれが部活引退した瞬間にこれなんだからやっぱり戸惑ってしまうというのが本音で。

 もちろん本当なら、中3らしく受験勉強とかし始めなくちゃいけない時期なのかもだけどもじゃあ実際に勉強するか?って言われたら……まあねえ? 別にまだ受験本番までは時間があるから、なんだかそんな気もしなくて……。

「人気作終わりまくりだけど、『ジャンプ』大丈夫かなぁ……」

 マンガ雑誌の将来よりももっと心配すべき将来があるのではなかろうか。

 とまあ、こんな感じでマンガを読んでお菓子を食べてとお気楽生活な毎日。まあ成績とかに影響出てきていないから良いのかなとは思ってるんだけど――。

「けど、これで良いわけは無いんだよね」

 成績って意味じゃない。

 鏡に映る自分を一瞬ちらっと見て再びマンガ雑誌に目を落とす。

 そう、完全に癖になってしまったのだ。女装(・・)することに。しかもよりによって――お姉ちゃんの部屋で。

 我ながら何をやっているんだ? ってツッコミたくなるよね。というかツッコんでいたさ。最初のうちは。

 実際、女装がバレることについてはかなり警戒をしていたしきっかけになったお姉ちゃんのワンピースだって、最初は自分の部屋でこっそり着替えていたでしょ? 2回目の制服だって、自分の部屋で一応着替えたし姿見を見るためにお姉ちゃんの部屋に寄ったのは事実だけどそれ以外は全部僕の部屋で完結させていたはずだ。



 けど慣れってものは恐ろしくて、最初はおっかなびっくりだったこの姿も今では何ともない姿で過ごしてしまっているのだから何とも罪深いところ。

 だいたい、ちょっと3日前くらいにもお姉ちゃんに危うく女装がバレかけたじゃん! ――と自分で自分には言ったけど。

 けど本格的に女の子の服を着るようになったら、やっぱり大きな姿見とかが置いてあるお姉ちゃんの部屋のほうが都合がよかったし。というか変な話、今までだってマンガを借りたりするためにお姉ちゃんの部屋には普通に入っていたんだから変な警戒心を持たないでも良いって思うようになっというのもあるのか。

 ともかくそういうこともあって、必要以上の警戒はいらないのかなって思うようになって。

 そもそもお姉ちゃんと僕は年齢が4つ離れているから着る服とかも全然違うし、今お姉ちゃんが着る服の棚には手を付けてないからっていうのもあるかな。

 あとはそれとなくお姉ちゃんやお母さんの行動予定を聞いているし、父さんは大阪に単身赴任だからそうそう突然は帰ってこれないはず。

 要するに、バレる可能性が極めて小さいんだ。

 お姉ちゃんが普段触るところ――そこには僕の手は入っていないし、借りた服だってこれでもちゃんと洗濯して返しているんだ。

 あくまで僕は、「男」の服装が嫌だから。というより、「安心」するために。「居心地」の良い服装を求めた結果がたまたまこれだったってわけで、やましいことは無いつもりでいるんだ。

 そう。だから――問題ないでしょ? 何にもおかしくない、ってそう思ってた――。

 けどさ、冷静に考えて一度お姉ちゃんに訊ねられた時点で僕は気づいておくべきだったんだよ。


 実はすでに、「安パイ」どころか「詰み」になっている、ってことに。

 

 そしていつかは訪れるであろう。

 でも、本当は訪れてほしくは無い。できれば、その機会が無いまま人生が終わって欲しい。そういう瞬間は、実にあっけなく訪れて。

「望海……っ⁉」

「おっ……お姉ちゃ」


「―――――――何やってるの?」


 お姉ちゃんの突然の言葉に固まる僕。

 だけどもそれ以上に混乱していたのはきっと……弟の女装姿を見せつけられた姉のほうなのかもしれない。

読んでいただき、ありがとうございます。


2週間更新をお休みしている間に気が付けば評価が50もついていました。

評価してくださった皆様、ありがとうございました。これからも評価、感想、ブクマなどいただけると嬉しいです。


さて、感謝の気持ちもそこそこに本編のほうはというとさらりとヤヴァイ状態に。

望海はどうなっちゃうのか⁉ 次回に続きます。

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