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僕は『僕』じゃないっ!  作者: 立田友紀
1.『男』になれないおとこのこ
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2.「こっそりワンピース」

 ――男になりたくないな。

 それって、変な考え方なんだなって自覚はあった。だって男の子だったら、男らしくありたいって思うのはたぶん普通だしあえて口にはしないけどみんなそう思ってるってことはなんとなく伝わってくるから。

 そんあ状況の中で、男になりたくないって言ったらなっちゃうのか?

 まあ、僕の周りの人はみんな大らかで優しいから、それでいじめられたりとかは無いと思うけど……でもやっぱり、変な空気になるのは起こり得そうな話だし。

「……というか、理解されないよね」

 悪い意味じゃなくて。でも、本当に理解がされないというか。

 例えていうなら、いきなり目の前の人がペラペラの英語を話してきたとしてそれが理解できるか? って話で。

 ……まあ、考えてもそれは仕方のないことか。

 だって、どうあがいたっていつかは僕にだってその機会は来てしまうわけでしょ? そりゃヘンだ、とか思ったりはするんだろうけど、実際当事者になっちゃったらそういう感情もきっと起こらなくなるのだろうし。

「ただいまー」 

 そんなわけで、悩み事もそこそこにさっさと家に帰って自分の部屋へ。

 いったん制服とカバンは自分の部屋に片づけてから、おやつを取りに行くべくリビングへ。きっとお母さんもお姉ちゃんも、今日も帰ってくるのが遅いんだろうからね。そんなわけでリビングに戻って棚から適当にお菓子と、冷蔵庫から麦茶を取って部屋へ戻ろうとした。

 本当にいつも通り。平日の夕方だったら、だいたいやっているであろうこと――のはずだった。なんだけど……。

「あっ」

 それは、本当に偶然の事。たまたまソファーに目をやったら気づいたこと。

 でも、それ(・・)がそこにあるというのは……っとタイミングが悪い出来事だったのかもしれない。

「……だらしないなぁ」

 そう言いながら、ソファーに掛かっている服を取る。

 掛かっていたのは、ワンピースと呼ばれる衣服。いわゆる、女性の服だ。

 きっと僕の姉が、試しに着てはみたもののやっぱり「いらない」ってなって、それでこのソファーにでも放置したのだろう。

 自分で言うのもなんだけど、僕の姉はそういうところは結構がさつでおおざっぱ。

 別に今回の件に限らず、いつもだって制服を放置してみたり着た服をそのまま脱ぎっぱなしってことはよくあることだし、僕も気づいたら黙って洗濯かごに持っていくってだけの話だというのに……。

「まだ、帰ってきてないよね?」

 周囲をちらちら見て、誰も居ないことを確認して。ついでに玄関のカギをちゃんと閉めているか確認すると――。

「ちょっとなら――」

 ――いいよね?

 そういうなり僕はその服を掴んで、洗濯かごに入れる……のではなく。

「ちょっとだけだから」

 誰に言い訳する必要も無いというのにそんなことをつぶやいて、僕は姉のワンピースに袖を通してしまったのである。


 ◇


 それはほんの出来心だった。

 出来心で、興味本位でやっただけなのに――。

「うっそ、でしょ……」

 鏡の向こうに映る彼女(・・)は、そうつぶやく。

 鏡に映る少女は、顔を赤くしつつ。でも、どことなく嬉しいような顔もしていて――。

 なんて、全部ウソ。

 鏡に映っているのは姉のワンピースを着ている僕なわけだし、ほっぺたが赤いのは単純に恥ずかしさと変態行為に手を染めてしまったという焦りや後悔が混じっているだけだし。

 でも、じゃあそのワンピースが女装した変態レベルになっちゃったのかといえば……。

「まあ、悪くないのかなぁ」

 ……と思ったりもしているわけで。

 なんだろう、変な言い方かもなんだけど。自分で言うのもなんだけど、これが意外に似合っていたりもするのだ。

 もちろん、女性の服を着たのは初めてだよ? ――いや、悪ふざけで女子にスカートを穿かされたことはまああるけども。でもその時は、長ズボンの上からスカートを穿かされたからなんか分からなかったってのが正直な感想で。

 そういう意味で言えば、やっぱり初めての女装は衝撃が大きかった。

 まず、女装させられた人が口をそろえて言う、『足元がスースーする』っていうのはやっぱりそう。でも、脚を閉じればそんなこともなくてまあまあそんな感じか、って感じ。

 あとは――そうそう、せっかくスカートなんだから。

「あぁ、やっぱりふんわりするんだ」

 ちょっとその場で軽くターン。アニメとかで見ていて、たぶんそうなんだろうとは思っていたけども、実際に軽くターンをするとスカートがふんわりと上がるのはホントの話。ちょっとかわいい、って思ってしまった。……着ているのは男の僕だというのにね。

 まあ、そんな感じでせっかく初めて着たワンピースなので他にもいろんなことをしてみた。

 まずは、廊下に誰も居ないことを確認して歩いてみたり。普通に歩くと男らしくて見た目があれだから、脚をなるべく閉じて歩いてみたり。あとは椅子に座るときもちょこんと座ってみたり。

 なんだろう。変なんだけど、最初は変態かもって思ったこの格好なんだけどいざやってみると……。


 ――あれ? なんか、ちょっと楽しい?


 恥ずかしいって気持ちが消えたわけじゃないけど、けど可愛い服を着ると――なんだかテンションが上がるような気がしたんだ。鏡に映る僕が、それこそまるで女の子みたいな振る舞いをしていて。

 それって、ある意味男らしさの真逆でしょ? 

 男性を否定するってわけじゃないけど、あんな野太い声とかがっしりとしか身体とかには、女性はならないと思うしもちろん毛むくじゃらってことも無い。

 それって、僕が思っていることと全部が重なるわけじゃないんだけど……部分部分ではやっぱり重なってくるわけで。

 だったらいっそ、僕が女の子になっちゃえば⁉ ――そう、考えたまさに瞬間だった。


『こちらは、防災無線です』

「……はっ!」


 もうすぐ、17時です。日が暮れますので、おうちに帰りましょう――そういう、いわゆる夕方の放送に一気に意識が現実へと引き戻される。


 ……何をやっているんだ僕は。


 鏡に映るワンピースを着た僕を見つめて、急にテンションが下がってしまう。

 そうだよ。例えどんなに男になりたくないって思っても、じゃあ女になれるかっていったら――それはまた違う話なんだよね。

「着替えなきゃ」

 そうでなくても姉が、お母さんがもう帰ってくる時間だ。

 それなのにこんな服装を見られたらどうなるか。だから僕は、何事も無かったかのようにワンピースを脱いで丁寧にたたんで洗濯かごへ入れておいた。

 ちなみに、これだけ派手に女装していたのに姉もお母さんもそんなことにはまったく気づかなかったらしく。

「お姉ちゃんさー。頼むから脱いだ服はちゃんと洗濯かごに入れといてよ」

「あぁ、おきっぱだった? ゴメンゴメン、忘れてたけど望海も年頃だもんね?」

 僕の姉は、からかうようにそう言って。それで、この騒動は本当に幕を引いてしまったのである。

読んでいただき、ありがとうございます。

第2話ということで、望海が初めて「女性の文化」に触れるお話でした。


冷静に考えて、やってる内容は結構やばいお話ではあるんですけどね(苦笑)

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