天使のココロ
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天使のココロ
作:狩屋ユツキ
【有原 稔(ありはら みのる)】
突出したところの無い、ごく普通の高校二年生。
ある日死神にいきなり余命一ヶ月を告げられる。
【死神】
稔に死亡宣告をした張本人。
死に方は告げていない。
【天羽 癒香(あもう ゆか)】
心優しく、天使のようだと噂の学校のマドンナ。
実際には所々活発な面も見られる。
40分程度
男:女:不問
1:1:1
稔♂:
死神♂♀:
癒香♀:
------------------
(夜、稔の自室)
死神「突然だが、お前の余命はあと一ヶ月だ」
稔「……はい?」
稔M「ある日、自室のベッドの上に寝転んで漫画を読んでいた俺の前に、いきなり黒い影が現れてそう告げた。真っ黒いローブに骸骨の顔、大きな鎌。誰が見てもひと目で分かる」
稔「え、コスプレ?」
死神「死神だ。私は死神。ちなみにこの姿は死にゆくものにしか見えなくなっている。今のお前は独り言をブツブツ言っている怪しいやつになりかねんから、一人の時を狙っていた」
稔「え、マジモン?」
死神「マジモンだ」
稔「……え、死神って、え、余命一ヶ月って、え、まじで?」
死神「もう一度宣告する。お前の余命は今日より一ヶ月。そこでお前の命は途切れるだろう」
稔「嘘……だろ……。え、冗談きつい……」
死神「死に方は規則により告げられない。が、確実にお前は死ぬ。一ヶ月後にお前は死ぬ。それまで私が監視することになった。宜しく頼む」
稔「監視って……ほ、本当に俺、死ぬの?一ヶ月後に?」
死神「そう言っている」
稔「うっそだろおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
稔M「俺の絶叫は、家中に轟いた」
間
(次の日、昼休み、学校の体育館裏)
死神「……で、何故いきなりラブレターなのだ」
稔「……俺には好きな子がいるの。ずーっと憧れてたマドンナ。それに玉砕覚悟でアタックする」
死神「よくわからん」
稔「余命一ヶ月って言うなら未練残したくねえの!!やりたいことやって、それでスパッと死ぬ!!もうそれしか無いじゃん!!」
死神「まあ、確かに」
稔「ああー……天羽さん来てくれるかなー……無理だろうなー……無理なんだろうなー……」
死神「……私は邪魔のようだからしばし離れるぞ。無茶をして勝手に死ぬなよ、有原 稔」
稔「するか!!」
癒香「あの……手紙をくれた有原くんって、貴方ですか……?」
稔「くっはー!!天使!!……じゃなかった、……はい、そうです、俺です。俺が有原 稔です」
癒香「天羽 癒香です。……あの、このラブレターって……本当なんですか?」
稔「は、はい。……俺、余命あと一ヶ月しかなくて。理由は言えないんですけど。……ずっと、天羽さんのことが好きで、未練、残したくなくて。今付き合ってる人や好きな人が居ないなら、一ヶ月だけ、彼女になってくれませんか……!!」
癒香「……一ヶ月の……彼女……」
稔「やっぱり……嫌……ですかね……」
癒香「ううん、嫌じゃない……。手紙、嬉しかった……です。私で良ければ協力します。あの……宜しくお願いします、有原くん」
稔「……へ?」
癒香「一ヶ月の命なんて……辛いですよね……。それを少しでも癒せるなら、協力させてください。あのっ、私、好きな人も、付き合っている人もいないので……っ」
稔「(呟く)天使……。(首を振って)あ、いやいやいや、い、いいの?本当に?俺なんかでいいの?一ヶ月とはいえ彼氏なんだよ?一応もう一回言っとくけど、彼氏なんだよ?」
癒香「有原くんの手紙はとっても真摯で真面目そうでした。きっと私の嫌がることはしない……そう思えたんです。……あの、私、誰かとお付き合いするの初めてで、色々至らないと思いますが……」
稔「あっいえ、こちらこそ!!俺も初彼女なんで色々至らないと思うけど……精一杯いい彼氏に一ヶ月間なるから!!あの、……宜しく、天羽さん」
癒香「(少し笑って)癒香、でいいですよ。彼氏さんなんですから」
稔「あっ、そ、そっか。じゃあ、あの、俺も、稔、でいいから」
癒香「稔くん、ですね。わかりました。じゃあ、はい(手を差し出す)」
稔「?」
癒香「握手、しませんか?初めて同士、宜しくお願いしますって」
稔「あ、ああ、いいね!!じゃあ、改めて……宜しくお願いします、癒香ちゃん」
癒香「はい、宜しくお願いします、稔くん」
間
死神「タイムリミットまで、あと三十日」
間
(学校、昼休み)
稔「え、癒香ちゃん、お弁当、作ってきてくれたの?」
癒香「はい、私、料理が趣味なんです。一人分作るのも二人分作るのも変わらないので、……良ければと思って稔くんの分も作ってきちゃいました」
稔「うわ、助かるよ!!俺いっつもパン食か学食だったからさあ。え、こっちが俺の分?お弁当箱まで用意してくれたの?」
癒香「昨日雑貨店に帰り寄って、男の人用のお弁当箱探したんです。男の人ってよく食べるって聞いていたから……これじゃ、足りませんか?」
稔「いやいやいやそうじゃなくて弁当箱分お金払うよ!!こんなしっかりした作りのやつ、高かったでしょ?俺も小遣い少ないほうだけど、これくらいは……」
癒香「いいんです。私がしたくて勝手にしたことなんですから。それよりもお口に合うといいんですけれど……」
稔「うわ、すっごい彩りキレー……。手間かかったでしょ、こんなの。って、量が多いだけで癒香ちゃんのと変わりないのか。いつもこんな凄いお弁当作ってるんだ……」
癒香「いえ、あの……今日は……その、ちょっと頑張りました……。初めての……その、お弁当、だし……」
稔「え、あ、……えっと」
癒香「その……いつもは、もう少し、手抜きで……」
稔「っくーうううううう!!癒香ちゃんマジ天使!!ありがとう、冷凍食品まみれでもよかったのに、全部手作りとか時間かかったでしょ、ありがとう!!」
癒香「え、へへ……嬉しい、です……。喜んでいただけて」
稔「ありがたく頂くね、いっただきっまーす!!!……んー!!!まじ美味い!!この唐揚げすっげー美味い!!あ、甘い卵焼きって俺好きなんだよね。好み知ってたの?癒香ちゃん」
癒香「私も甘い卵焼き好きなんです。唐揚げも下味がちゃんとついてるのがとっても好きで、ふふ、同じですね」
稔「俺達好み似てるのかもな」
癒香「それはとっても嬉しいです。なにせ、初めての彼氏さんと好みが似てるなんて素敵じゃないですか」
稔「そうだね」
癒香「(暗く)……でも、一ヶ月なんですよね……」
稔「(明るく)一ヶ月でも俺、癒香ちゃんの彼氏になれて幸せだよ」
癒香「稔くん……」
稔「あと一ヶ月、あ、休日抜くともう少し少ないか。こんな美味い弁当食えるなら、俺今死んだっていいって感じ!!」
癒香「そ、それは困ります!!お弁当、もう作ってこないですよ?!」
稔「あはは、それは困るなあ。じゃあ一ヶ月、意地でも生きないとねー」
間
死神「タイムリミットまで、あと二十九日」
間
(夜、自宅にて)
死神「有原 稔よ」
稔「うわびっくりした!!!いきなり出てくるなよな!!」
死神「明日は土曜日、学校が休みなのだろう。天羽 癒香とのデートで来ていく服を探しているところ悪いのだが、明日は雨だぞ」
稔「えっ嘘」
死神「私達は未来が見えるのでな。明日のデートは中止にして、日曜日にするがよかろう。日曜日は晴天だ」
稔「えー……でも約束しちゃったしなー。死神に言われたから日曜日にしない?って言ってどうするんだって感じだし、日曜日まで待てないし」
死神「デートプランはどうしているんだ」
稔「えーっと、遊園地行ってー遊びまくってー帰る!!」
死神「雨には最低のプランだな」
稔「うぐっ。だって、デートとかしたこと無いし。オンナノコが喜びそうなことなんて何も……」
死神「仕方ない。デートプランの提案をしてやろう。水族館に行くがいい」
稔「水族館?」
死神「天羽 癒香は綺麗なもの、可愛いものが好きだ。水族館ならば空調も効いていて、雨が降っていても問題ない。併設されているカフェでお茶でもしながら親睦を深めるがよかろう」
稔「うわ、なんか凄い大人っぽいデートプラン」
死神「幸い遊園地のチケットと水族館のチケットはそう値段が変わらない。寧ろパスポートを買うのなら遊園地のほうが高く付く。学生のデートスポットとしてはおすすめだ」
稔「し、死神にデートプラン提案されるとは思ってなかったけど……それいいな!!」
死神「では私はもう行く。せいぜい明日も頑張るがいい」
稔「おうよ!!」
間
死神「タイムリミットまで、あと二十八日」
間
(土曜、水族館)
癒香「水族館なんて久しぶりです!!!うわあ、ペンギンの赤ちゃんが生まれたそうですよ!!見てみたいです!!」
稔「生憎の雨だったけど、ここなら雨にも濡れないしね」
癒香「どこに連れて行ってくれるんだろうって楽しみにしていたんですけれど、こんな素敵なところにつれてきてくれるなんて……稔くん、本当に恋愛初心者ですか?」
稔「ゔ。……じ、実は知り合いにアドバイスを貰ってね……雨だからこっちにしとけって」
癒香「そうだったんですか。ふふ、その知り合いさんにも感謝ですね!あ、おっきな水槽がありますよ!!すごい、大きなエイがゆったり泳いでる……」
稔「サメもいるね。小魚もキラキラして綺麗だ。癒香ちゃんはエイが好きなの?」
癒香「はい!あの、エイってひっくり返すと人の顔みたいになってるんですよ。こんな感じ(変顔をする)」
稔「ぶっ、うわはははははは!!癒香ちゃん凄い顔!!」
癒香「だって本当にそんな顔してるんですってー!!それがたまらなく面白くて好きなんです。ほら、今上に登っていくから顔が見れますよ、ほらほら!!」
稔「あ、ホントだ人の顔みたい……って、でもさっきの癒香ちゃんの顔よりは酷くないよ!」
癒香「むーっ、言いましたねー?!じゃあ稔くんもエイの真似してみてください!!!」
稔「えー?……こんな感じ?(変顔をする)」
癒香「ぷっ、あははははは!!!そんな、そこまで酷くないですよぉ!!あはは、お腹痛いー!!」
稔「ははっ、ちょっと盛った。……楽しい?癒香ちゃん」
癒香「はい、楽しいです!!あ、人が増えてきましたね……」
稔「あの、さ」
癒香「はい?」
稔「……手、繋いでもいい?……はぐれないように」
癒香「……っ。……はい、喜んで」
間
死神「タイムリミットまで、あと二十七日」
間
(日曜、自室)
稔「あー土曜のデート楽しかったー!!」
死神「楽しんだようだな」
稔「ありがとな、死神。最高のデートだった」
死神「また来週遊びに行くのだろう」
稔「うん、今度は彼女の希望でゲーセン。癒香ちゃん、ゲーセン行ったこと無いんだってさ」
死神「ふむ。目新しいものは人の気を引くものだ。せいぜい浮かれすぎないようにすることだな」
稔「わかってるって」
間
死神「タイムリミットまで、あと二十日」
間
癒香「ここがゲームセンター……!!」
稔「あんまり離れないでね。ガラの悪い連中もいるから」
癒香「はいっ(手を繋ぐ)」
稔「……手を繋ぐの、自然になったよね、俺達」
癒香「あ、……そうですね。最初は恥ずかしかったですけれど、帰り道、いつも稔くんが私の家まで送るときに手を繋いでくれるから、慣れちゃいました」
稔「だって繋ぎたくて……。あー……さってと、どこ行きたい?女の子が好きそうなのだと、クレーンゲームとか……」
癒香「プリクラが撮りたいです!!」
稔「え?」
癒香「付き合った記念に、プリクラが撮りたいです!!」
稔「……」
癒香「駄目……ですか?」
稔「いや、駄目じゃない、駄目じゃないよ。でも、癒香ちゃんからそんな事言われると思ってなかったから」
癒香「だって、一ヶ月の彼氏彼女じゃないですか。記念になるものが欲しくて……私、……一週間ですけど、稔くんのこと、本当に好きになって……」
稔「癒香ちゃん……」
癒香「死ぬ理由は話せないって、告白してくれたときに言いましたよね?あれって難病とかなんですか?どうしても一ヶ月なんですか?もっと一緒に居られないんですか……(涙混じりに)」
稔「……っ」
癒香「(泣きながら)私、まだ稔くんのこと全然知りません。でも、一緒にお弁当食べたり、一緒に帰ったり、水族館に行ったり、色々してきました。その度に好きになっていくのがわかった……だからせめて、稔くんとの思い出が欲しいんです……」
稔「……泣かないで、癒香ちゃん。取り敢えずプリクラコーナーに行こう。あそこは男一人じゃ入れないから、俺も行ったこと無いんだけど……癒香ちゃんはプリクラ撮ったことある?」
癒香「(涙を拭きながら)……友達となら、何回か。プリクラ専門店で撮りました」
稔「じゃあ、先輩、ご鞭撻のほど宜しくお願いいたします!!」
癒香「……ふふっ」
稔「よかった、笑ってくれた。……じゃ、行こう。プリクラって俺本当に初めてでさあ」
癒香「えーっと、今のは全身撮れるのが流行りなので、あ、あそことかいいんじゃないでしょうか。美肌!盛れる!!っておっきく謳い文句掲げてますし」
稔「女子って美肌とか盛れるって言葉に弱いよね。癒香ちゃんなんか、そのままでも十分美肌だし可愛いのに」
癒香「もっともっと!!!ってなるのが女子の宿命なんですよ!えーっと、ここに四百円いれてー、荷物はここに置いてー……」
稔「え、ポージングとか決まってるの?」
癒香「それ通りにする必要は無いですが、今回は指令通りにしてみましょうか」
稔「だ、抱き合うとかあるよ?!」
癒香「付き合ってるんですから何の問題もありませんよ!ここは思いっきり抱き合っちゃいましょう!!」
稔「ゆ、癒香ちゃんって意外と大胆だよね……」
癒香「大胆な女の子は嫌いですか?」
稔「いや、全然!!でも、いいの?一ヶ月の彼氏だよ、俺。抱き合うとかさ、その、キス、とかさ、そういうのはいいかなって俺、思ってて」
癒香「(遮るように)ほら、撮影始まっちゃいますよ!!カメラあそこなので、あそこに顔向けてくださいね!!」
稔「ええ?!もう?!」
癒香「最初は背中合わせでー……ほら、三、二、一、カシャッ!!」
稔「う、ええ?!」
癒香「次は抱き合ってー……はい、三、二、一」
稔「こ、こう?!」
癒香「次は顔を寄せ合ってー……三、二、一」
稔「うわわわわ癒香ちゃん近い!!」
癒香「とまあ、こんな感じです。……稔くん?どうしたんですか、隅っこで胸押さえてしゃがみこんじゃって」
稔「ぷ、プリクラって心臓に悪い……」
癒香「ここからが楽しいんですよ!!落書きコーナーに行きましょう!!」
稔「落書きコーナー?」
癒香「今撮った写真に好きに落書きできるんですよ。ほらほら、荷物持って、早く!!」
稔「ええええええちょっと待って、癒香ちゃん!!」
間
(自室、夜)
稔「……」
死神「なんだ、静かだな。……それは今日撮ったプリクラか?」
稔「死神もプリクラ知ってるんだ。そうだよ、今日撮ったやつ。ハサミで癒香ちゃんが切り分けてくれた」
死神「ふむ、よく撮れているではないか。もうすっかり恋人同士といった感じだな」
稔「……俺さあ、自分のことしか考えてなかった」
死神「うん?」
稔「一ヶ月……いや、もうあと二十日か。俺はさ、好きになった女の子を置いて死ぬわけだよ。そんでさ、何の奇跡か好きになった女の子も俺のこと好きになってくれてさ。……今日泣かしちゃったわけ」
死神「ふむ」
稔「母さんと父さんには遺書残せばいいやーなんて考えてたけど、俺、癒香ちゃんになんにも残せないなって」
死神「同じように遺書を残せばいいではないか」
稔「書くことが思いつかねーんだよ。もっと生きたかった。もっと色んなことしたかった。もっと一緒に居たかった。そんなことしか書くこと思いつかねー」
死神「未練をなくすどころか、未練が生まれてしまったというわけか」
稔「……そんなとこ」
死神「ならば別れればいいのではないか?」
稔「……」
死神「そうすれば未練は消えはしないだろうが、増えもしない」
稔「……俺が、嫌なんだよ……」
死神「そうか」
稔「……なんで一ヶ月なんだよ。何で俺が死ななきゃいけないんだよ、なんで俺が……」
死神「……」
間
死神「タイムリミットまで、あと、三日」
間
(下校中、夕方)
稔「癒香ちゃんの家の場所もすっかり覚えちゃったな」
癒香「……」
稔「癒香ちゃん?」
癒香「あと……三日ですね」
稔「……ああ、そうだね」
癒香「最後の日……土曜日じゃないですか。一日……一緒にいませんか」
稔「え?」
癒香「何で死んじゃうのかわかりませんけど!!稔くんが何で死んじゃうのか、教えてくれないからわからないけれど!!でも、一緒にいれば最期くらいは……一緒に居れるじゃないですか……」
稔「……まいったな、最期の日は一人で遺書書こうと思ってたのに」
癒香「!!」
稔「……一緒に居てくれるの、癒香ちゃん」
癒香「はい……はい!!!一緒に居ます。一緒にいたいです!!」
稔「じゃあ、ウィンドウショッピングでもしようか。人通りの多いところなら、俺がいきなり死んでもなんとかなるだろうし」
癒香「稔くん……」
稔「欲しい服とかアクセサリーとかあったら買ってあげるよ。どうせもう使うことのないお金なんだからさ、最期に癒香ちゃんのために使いたいな」
癒香「うっ、く……(泣き出す)」
稔「癒香ちゃん」
癒香「(泣きながら)最初は……人のためになれるならって……そんな軽い気持ちで付き合いました……。でも一ヶ月でこんな……こんな好きになるなんて思ってなかった……。稔くんがいい人過ぎて……私……私……」
稔「癒香ちゃん。泣かないで。俺が死ぬのは決まってることらしいからさ」
癒香「どうして稔くんが死ぬのが決まってるんですか!!そんな運命、私、いらない!!」
稔「……癒香ちゃん、あんまり泣かないで。俺の決心が鈍っちゃう」
癒香「鈍っちゃえばいいんです……!!そうして私と一緒にもっとたくさん生きてくれたらそれで……」
稔「我儘聞いてあげたいけど、……それはできないみたいなんだ。ごめんね」
癒香「うっ……うぅ……」
稔「……癒香ちゃん、最期の日、宜しく頼むね」
癒香「……はい……」
間
(夜、自室)
死神「最期の日まであと三日と迫ったわけだが……どうして人間は死ぬ間際になると片付けを始めるのだ?」
稔「うるっさいなー。見られたくないものとかそういうの処分しておかないと死んでも死にきれねえっつーの」
死神「そうか」
稔「っていうかさあ……実際、本当に俺死ぬわけ。あと三日後に」
死神「死ぬ」
稔「慈悲なーし」
死神「人はいずれ死ぬ。それがわかる人間と、わからない人間がいる。神の定めた運命に沿って我らは動く。お前の魂は私が刈り取り、神の御下へ連れて行く。それが定められた運命」
稔「神様ねえ……もうちょっと融通効かせてくれてもいいと思うんだけど」
死神「最期の日はどうするのだ」
稔「……癒香ちゃんと過ごすよ」
死神「……そうか」
稔「最期の最期まで付き合ってくれるってさ。いい子だよね、本当に」
死神「……そうだな」
間
死神「タイムリミットまで、あと、零日」
間
(土曜昼、商店街)
稔「ピーカン晴れー!!!」
癒香「……」
稔「こんな天気のいい日に死ねるとか、俺それなりに恵まれてるんじゃないかな。さーて、どんな死に方をするのやら。心臓発作かな、それとも車に撥ねられて?」
癒香「(強い口調で)やめてください」
稔「……ごめん」
癒香「……いえ」
稔「……あ、あの雑貨店可愛くない?ちょっと寄ってみようよ」
癒香「そう……ですね」
稔「ほら、最期の日くらい、癒香ちゃんの笑顔で見送ってよ。いいじゃん、癒香ちゃんにはきっと新しい恋人がすぐにできるって」
癒香「そういう事言うの……やめてください……」
稔「あ、はは、……今日は俺、地雷踏みまくりだなー……。駄目だな、……正直、何してても、死ぬのいつだろうって怯えてる」
癒香「そんなの……当然だと思います」
稔「癒香ちゃんと一緒だから笑えてるけどさあ、内心ガクブルもんだよ?何が起こるかわからないけど確実に俺は死ぬんだってわかってるって」
癒香「そんなの……当然です!!」
稔「……だね。当日になるまで、実感なかった。いや部屋の片付けとか遺書とか色々したけどさあ、なんていうか、恐怖感みたいなのはなかったんだよね。……今日になるまで」
癒香「稔くん……」
稔「でも、しょうがないよね。俺、今日で死ぬんだから。神様の運命ってやつで決まってるらしいから、しょうがないよね!!」
癒香「……っ」
稔「だからめいいっぱい今日楽しむからさ、癒香ちゃんも楽しんでよ。そうしないと俺……死にきれないからさ」
癒香「……はい。……あ、じゃあ、ちょっと歩き疲れましたし、公園に行きませんか?この近くに気持ちのいい公園があるんです」
稔「お、いいね。行ってみようか」
癒香「はい、こっちです!!」
稔M「駆け出して行っちゃって……元気に振る舞おうとしてくれているんだな……。癒香ちゃん、本当に最期まで天使だったよ……。……ん?工事中の……標識?」
癒香「稔くん、早く早く!!」
稔「あ、ああ、うん、今行く……、っ?!」
稔M「クレーンで運ばれてる鉄パイプがぐらついて落ちてくる?!……癒香ちゃんの上?!嘘だろ、今日死ぬのは俺のはず……!!」
癒香「稔くん?」
稔「癒香ちゃん、危ない……!!!!!!!」
間
癒香「あ、……あ……」
稔「がはっ……あーあ、鉄パイプが全身に刺さるとか……ついてない……な」
癒香「……みのる、く……」
稔「だいじょうぶ……だった?ゆ……か、ちゃ……げほっ!」
癒香「私は、私は大丈夫です!!怪我一つありません!!でも、稔くん、稔くんが……!!」
稔「いいんだよ、俺は……。はは、好きな子守って死ぬとか、カッコいいじゃん。……俺……幸せだったよ……。……死神ぃ、……あとは、任せた……」
癒香「稔くん?……稔くん!!稔くん……!!!」
稔「ゆか……ちゃ……」
癒香「(泣きながら)……まだ、キス、してなかったね……。大好きだよ、稔くん……(キスする)」
長い間
死神「タイムリミットまで、マイナス一日」
間
(癒香の自室、夜)
死神「……これでお前は死ぬまでの期間が伸びた。いつまでかはまだ定まっておらぬ。天寿を全うするか、また一ヶ月後に期限が来るかは神の采配次第」
癒香「……そう、なんですね」
死神「しかし、別の者を身代わりにして死を逃れることを考えつく者はそういない。大体は告げられた死に向かって歩み続け、崖から転落するがごとくに死んでいく。お前はその中でも稀有な存在だった」
癒香「……私、まだ死にたくないんです。やりたいこともいっぱいあるし、行きたいところもいっぱいある。稔くんのことは好きだったけど、……自分の死に比べれば、忘れることもできる」
死神「ほう」
癒香「彼じゃなくても誰でも良かった……一ヶ月のうちに告白してくれそうな人なら誰でも。告白してくれないなら自分からでも……でも稔くんが一番だったから。……思ったよりいい人だったから、心は痛むけど」
死神「天羽 癒香。笑っているぞ」
癒香「だって、私は生きながらえたんです。笑いもします。……プリクラ、ちゃんと保管しておかないと。暫くは悲劇のヒロインを気取らなきゃいけないし、ちょっと大変ですね」
死神「……天羽 癒香。私は、お前を恐ろしく思う」
癒香「稔くんだって言ってたじゃないですか。好きな子を守って死ねるなんて幸せだって。私は死ぬ前に幸せを彼にあげたんですよ?」
死神「……」
癒香「今度また私が死ぬようなことがあれば、死神さん、また教えて下さいね。私、何度でも同じことを繰り返しますから。そして絶対に死なないから」
死神「……何故だろうか。そうならないように祈る気持ちが、私にある」
癒香「死神さんにも人の心っていうのがあるのかもしれませんね。でも私は天使だから。天使には人の心がないので。……ふふ、稔くん、ありがとう。そして、さようなら」
間
死神「これが事の顛末だ。有原 稔は文字通り天羽 癒香のために死に、天羽 癒香は生き残った。その天羽 癒香に人の心が無いというのは本当だろう。彼女の在り方は天使の在り方だ。彼女は彼女のため、生き続ける。人を幸せにしながら不幸を撒き散らす。それが神の定めた運命ならば……君は受け入れるのだろうか」
了
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