褪せ続ける2
短編小説、『褪せ続ける』の続きです。
バス停の椅子で眠っていた。
バスを追いかけても追い付けないことに気付き、疲れて眠っていた。
「あれ…ここは」
空に綿菓子も無くなり地面に降った飴も溶けきった頃、辺りはもう美しい夜だった。その美しい夜空にはオーロラが果てしなく泳いでおり、水面が太陽光を乱反射するように星がキラキラと輝いていた。それはまるで小川のように。
「わぁ!すごいすごい!キレー!」
ユーリは流れる夜空に見とれていた。
すると、ハッと何かを思い出すように立ち上がり、一人の女の子の名前を呼ぼうとした。
「あ、そうだ!あ、あれ…誰だっけ…思い出せない。」
ユーリは、ユーリが追いかけた女の子、佐根絢香の名前を思い出せなかった。ただ覚えているのは遊んだということと年の近い女の子だったということ。 どんな遊びだったか、どんな特徴の女の子だったかはもう思い出せない。
何故思い出せないのかユーリにはわからなかった。いくら考えてもわからなかった。
これは絶対だった。
ユーリの思考の成長は、四年前から止まっていたのだ。
空は綿菓子で薄く曇っており、綿菓子と綿菓子の隙間から光が射し込んでいる。わかりやすく時間を言うとお昼ぐらい。
バス停にはユーリが座っていた。
バスがやってくる音が聞こえるとユーリは待っていたかように席を立ち、道路に顔を出してバスがバス停に到着するのをずっと見ていた。
すると、ユーリはあることに気づく。
運転手が見えないのだ。ユーリは不思議に思って、バスが来たら中に入って確認しようと思った。
そしてバス停に到着し、プシューとバスのドアが開いた。
「ここで降りるんですか?」
お客さんはユーリに話しかけている訳じゃない。運転手に話しかけていた。
「はい。はい。わかりました、降ります」
ユーリはまた不思議に思いながら、
「ねぇねぇお姉ちゃん。今誰としゃべってたの?」
「きゃあ!!」
セーラー服にポニーテール。いかにも体育会系な中学生ぐらいの少女だった。
「あ、あなた…誰?」
「僕の名前はユーリ!お姉ちゃんは?」
「私は、八十島 遥。あなた名字は?」
「みょうじ?…わかんない!忘れちゃったよ」
「それよりさ、お姉ちゃん♪遊ぼうよ~」
遥は少し恐怖していた。
ポツンと草原に佇むバス停に得体の知れない痩せた子供がいて、一緒に遊ぼうとせがんでくるのは確かに怖い。
しかしユーリは無邪気に何して遊ぶ?と聞いてくるので遥は怯えながらも話を聞いた。
「ねぇ何して遊びたい!?僕今鬼ごっこで遊びたい!」
鬼ごっこと聞き遥の顔が曇る。
「ごめんね。ユーリ君。私、夏の大会で右足のアキレス腱切っちゃってて歩くことも難しい…の…?」
そこで遥は自分の言動のおかしさに気づく。
「あれ?じゃあ何でバスから降りれたんだ?」
そして恐る恐る右足を出し歩きだす。
「なんだ~お姉ちゃん歩けるじゃん~」
「え…な、なんで…」
遥は泣き出した。
「やった…!これで大会に出られる」
「お姉ちゃんなんで泣いてるの?早く遊ぼ!」
「…ちょっとだけね!」
遥はいつの間にか自分が走れてることに気が付いた。
やった!やった!嬉しい!
遥とユーリは一通り遊び倒した
「ふー疲れたぁ…お姉ちゃん速すぎだよぉ」
「えっへん。これでも私は百メートルの選手なのだ!アキレス腱も治ったしこれで大会に出られるぞ!」
百メートルと聞いてユーリはある選手を思い出す。
「お姉ちゃん!ボルトと一緒なんだね!?」
「えぇ?!ボルト?!そんな速くないよ!」
「えー、お姉ちゃんすっっっごい速かったよ!」
遥は上を向いた。
「そんなこと言われたの初めてだなぁ…」
「ん?なんか言った?お姉ちゃん」
「うんん!何にも言ってないよ!」
「そっか!それと、お姉ちゃんはなんで"あきれすけん"を切っちゃったの?」
「あぁそれはね、ちょっと私、調子に乗ってた時があってね。準備体操もせずに思いっきり走り込んじゃったんだ。そしたらバツンッって切れちゃった…」
「ふーん、そーなんだぁ」
「何よ、聞いておいてその返事は…まぁいいわ。それはそうとユーリ君。君は意外と走る才能があるかもよ」
「ホント?!」
「うん。お姉ちゃんが速く走れる方法を教えてあげよう!」
ここで遥に異変が起きる。
「やった!ありがとうお姉ちゃん!」
遥は佐根絢香と同じようにバス停に吸い込まれていく。
「あ、バスだ!新しい人が来るのかな?!仲良くなれるかなぁ」
ユーリは隣に、遥がいないことに気付く。
「…あれ、お姉ちゃん?どこ?」
遥はもうバス停に着いていた。
ユーリは急いで遥の方へ走った。
「お姉ちゃん!待ってよ!僕に速く走れる方法を教えてよ!お姉ちゃん!」
まるで聞こえてないように遥はバスの到着を待っている。
ユーリがバス停に着く頃にはもうバスは到着しドアが開いていた。
遥はバスへと入っていく。
「待って!」
ユーリはバスに入ろうとした。
その瞬間バスのクラクションが大きく響いた。
音にびっくりしユーリはドアの前で止まってしまい、その間にドアが閉まってしまった。
「待ってよ!お願い!」
無情にも、バスは遥か彼方へ、消えていった。
「どうして行っちゃうんだよぉ」
ユーリは悲しみに溢れ泣いてしまった。
誰かに気付いてほしいと言わんばかりに大きな声で涙を流した。
空の黒に黄緑のオーロラが泳ぎ始めた頃にはユーリは疲れて、
眠ってしまった。
読んでくださりありがとうございました。
こちらでも誤字脱字が無いように見つけ次第修正しますが、もしあったら教えていただけると助かります。