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堕落屋

作者: 無花果

そこまで長くはないので、サラッと読めるかと思います。

 私は堕落屋だ。


 家でひとりになると、落ちる。とことん、堕落という堕落を犯し、違和感を感じながら。

 変わることのない自分に嫌悪し、それでも、虚しい心が満足を求めて、堕落する。

 その行動が、私に満足を与えると錯覚を促しながら。



 私は、人がいるところでは、偽れる。

 普段の堕落ぶりを一切、欠片も、微塵も見せることなく、笑顔で他者と関わっている。


 そう、最初は気持ち良く他者と相対できた。


 周りの人が、私のいないところで、私の日常について理想を語っているのを聞いたことがあった。


 私は、恐ろしくなった。もしも彼らの理想と私の現実がとてつもなくかけ離れている事に……気がつかれたら。


 ちょっとしたことから、私の本性がバレてしまったら。



 それからだろうか?

 社内で、隣人から良く顔色悪いけど大丈夫?

などと心配されるようになったのは。


 きっと私から、堕落が漏れ出していたのだろう。それで、違和感を覚えられた。


危なかった。でも、まだ大丈夫……気をつけないと。



 たまに、私が築いた今が壊れる可能性のある未来が、家や社内で思う浮かぶ。


 社内でふとした時に聞こえる、私の噂。

『知ってる?三松さんって社内ではとても素晴らしいけど、自宅では今とかけ離れてるってよ』

『知ってるっ!えっ、でもそれってただの噂でしょ?』

『いや、どうやらそうじゃないみたい。社内の同期が、前に休みの三松さんを見たらしいんだけど……』


 彼女たちから一瞬だけ、注がれる侮蔑、劣情の視線。


 きっとその時は、今の私の社会的地位が壊れてしまうのだろう。




 怖い……怖い…………怖いっ!


 痛っ、無意識に腕をきつく握りしめていたことに、気付く。


窓から降り注ぐ月明かりに目を細める。

この部屋から脱出したい。

この外と中での生活の違いを失くしたい。

この心が乾いて乾いてしょうがない衝動を消したい。


視界が歪んでる。

床に手を当てると、濡れていた。いつから泣いてたのか分からない。


 それでも私は変わりたい。この外と中での凄まじいギャップを消し去りたい。


でも、変われない。

この私が犯した呪縛が解けるまでは。


私が堕落屋となったのは、アレが原因なのだろう。




昔から人が怖かった。

 他人の顔に貼り付けた感情は分かるものの、腹の中では何を考えているのか分からない。

 知りたいとも思ったけど、私に見せている感情と別の感情や考えを腹の中でしていると思うと。

一歩前に進むことは出来なかった。



確か、学生の頃だったと思う。


ある時、致命的な失敗を犯した。

 何気なく振る舞えたとは思う。でも、私は彼にとって余計な事を言ったのだろう。

『えっ?ナニをイッテイルノ?』

 彼は笑っていた。でも、その瞳は冷静に私を見つめていて、本当は笑ってなどいない事がわかった。


ゾッとした。

人は、こんな姿を私に向けてくるのかと。

私は、目の前が真っ暗になった。




気が付けば、景色が変わっていた。

 目の前には彼もいなく、教室でも無くなっていた。


自分の私室にいた。

 鏡の前に立つワタシは、以前の私とかけ離れていた。

ひび割れた唇。ボサボサの髪の毛。乾燥した肌。ヨレヨレの服。


あの後の記憶がないのはなぜだろう?

どうしてか、とてもどうでも良くなった。


 だが、あの恐怖をまた味わうと考えると、怖くて仕方が無かった。


 鏡の中の女の口がカタカタと震え、両腕で身体をギシッと掴んでいた。


 あぁ、これが今の私か。そう思うと無性に泣きたくなった。




それからだ。


 外で私をおくびにも出さずに、他者と触れるようになったのは。


 その分の代償としてか、家ではやる気が欠片も出ない。感情はあるのだが、変われない。

読んで頂きありがとうございました。


はい、後味は悪いかもしれませんが、こんなお話でした。


なにか言いたいこと、思ったことがあれば、教えてください。受け止めきれるかは分かりませんが、努力しますので!

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