第弐章 屋敷(4)
「聞いてんのか? にいちゃん?」
言われてようやく小鳥遊は考えるのをやめた。驚いて若旦那を見ると、彼は再度はっと嗤い、地面に唾をはいた。
「働けっつってんだよ。わかるか? おめェらにタダ飯食わせるわけにもいかねえんだ。せめてなにか、そう何か一つ貢献しろって言ってんだよ」
「なにか、ですか」
「今、イヌコの話を聞いてただろ? な? それのニエになってもいいんだけどな。世帯、もってねぇだろ?」
「にえ?」
「若旦那様」
女中に恐々呼ばれて若旦那の意識は小鳥遊からそれた。
「旦那様がお呼びです」
女中はそわそわした様子で若旦那に言うと、彼は初めて動揺を見せた。
「おれァ、何もしてねェ。そう言っとけ」
「急な……、大事な用事だと」
そう言われると、若旦那は急にくたりと脱力しその場に座り込んだ。
「一人じゃ動けねェ。運んでくれよう」
「旦那様は一人で来るようにと。それほど、大事な話なのだと」
今度は若旦那よりはいくつか若くて立派な男がやってくる。すると、若旦那は笑みを引っ込め、あきらかに不機嫌そうに顔を歪めた。
「じゃあ、しかたねェ。あーあー、こんな連中と会ってるから臭い臭い。厭だ、厭だ」
若旦那はのっそりと立ち上がって、そう言うと大股で家に向かう。
その途中、女中の尻を思いっきり叩いた。けれど、彼女はそうされると予測していたのだろうキュと唇を噛み黙って彼が行くのを待っている。