第参章 廃屋(3)
三
台所では小雪と梅、そして二人の女中の他に二人の嫁による争いが起きていた。
二郎の嫁は三郎の嫁を気に入らないのか「私の方が料理ができる」と豪語し、女中が止めるのもむなしく包丁を握っている。
言われた三郎の嫁も負けじと台所に来たはいいが、なにせ子供を抱えているのでろくに包丁も振るえない。ただただ働く女中たちと二郎の嫁の小言を聞くだけになっている。
まるで戦場だと小鳥遊は一瞬でもそう思った。
「どうしたんですか、小鳥遊さん」
「す、すまん。えぇと、暑くて……。そのう、塩をひとつまみいただけないでしょうか?」
丁寧に尋ねると小雪がさっと塩を小鳥遊の両手に振りかけた。ほんの小さな塩の山に小鳥遊は再度ぺこぺこと頭を下げながら足早に去っていく。
「変わった人ねえ」
とせせら笑う二郎の妻に三郎の嫁はどこか冷めた目で見ていた。
「方角を合わせ塩を守袋に擦り込ませ、埋める」
そんなことを言われたとは知らない小鳥遊は、椿から教わったお守りの対処法を恐々行っている。
手で小さく地面に穴を掘り、そこに塩をすり込んだお守りをいれ埋める。そうして「彼岸におわす、雛子の……」と指示通りの言葉を紡いでいく。
そうしてそれが一通り終わると、ようやく安堵した。
ゆっくり息を吐きながら、そういえばあの家はどこにあるんだろうと周囲を見る。
元々、お守りを埋めるために方角を確認したのだ。そうして目的の家を見つけて、ひどく後悔した。
「鬼門か」
村の入り口から見て、ぴったり鬼門の位置に家がある。
「どういてあがなとこに……」
次、インカイにあったら文句の一つでも言ってやらないと気が済まない。小鳥遊はそう思いながらぐずっと鼻をすすった。