第参章 廃屋(1)
ベンジャミン・フランクリン曰く
「なにであれ、怒りから始まったものは恥にまみれて終わる。」
一
探検がてらそこらを歩きたい。もしかしたら帰るのに時間がかかり夕飯に間に合わないかもしれない。
そんな小鳥遊の無茶なお願いに三郎は二つ返事で許可を出した。
「元々僕たちと使用人との時間は違うのです。僕たちが食べ終えてから使用人は食べるので、それにさえ間に合えばいいと思いますよ」
住人と使用人で食べる時間帯が違うというのもなんだか癪に触るがここで文句を言っても始まらない。小鳥遊は礼をいれると、さっそく歩きだした。
山登りに西洋靴はあわないと知ったのは良い機会であった。
番傘も日除として大いに役に立つとしれたのも良い機会だろう。ただ、ガラ空きの背中が異様なほどに熱を持っていた。目的の家までまっすぐなのでこの強い日差しから逃げる場所がない。それが余計に背中が暑くて仕方がない。
「どういて、こがに、しんどいがよ」
そう文句を垂れながらようやっと目的の家につくと、そこは思った以上にボロ家だった。
家はすでに傾き、地震がくればひとたまりもないだろう。廃屋同然のところにはついさきほどしめたであろう鶏が数羽吊るされている。
こんな状況下でも人は住んでいるらしい。
「――……あ?」
敷地に入った途端、もの言えぬ寒気が小鳥遊を襲った。
心臓から凍りそうな、風邪とはまた違う忌むべき寒気。
思わず椿から授かったお守りを強く握りしめる。四つ荷物にいれ、一つは懐に常備している。
それがよかったのかもしれない。
不思議なことにそのお守りは熱を帯びているように思えた。
嫌な気配に心臓が煩く音を立てる。周囲は静かなはずなのに遠くの方で子供の声が聞こえる。
人の気配はする。けれど、何かがおかしい。
小鳥遊は固唾を飲んで逃げ出す恐怖と戦っていた。