乱子
相手は「えっ?」と驚いたような表情になり、次に険悪な顔つきになった。
「何、言ってんの? キモタク、あたしが判らないとでも?」
口調は確かに周布乱子だ。
だが、目の前の女の子は、どう見ても乱子とは思えなかった。
卵型の顔に、驚くほど大きな瞳。肌は薄いピンクで、小さめの唇は紅を塗ったように赤く、ほっそりとした顎の、アイドルでもおかしくない美少女だ。
が、じっと彼女の顔を見詰めていると、だんだん乱子の顔に見えて来た。
というより、乱子の目鼻立ちがバランスよく配置されれば、こうなるであろう顔立ちに見えてきたのだ。
もともと、乱子の顔の目鼻立ちは、美人顔の条件を満たしている。ただ、その配置がアンバランスなため、ガッカリな結果になっているだけだ。
両目の感覚がもうちょっと広がって、口と鼻の頭の位置がもう少し近づき、顎がちょっぴり膨らめば……それが今、僕の目の前にいる女の子になる。
よく見れば、彼女の身に着けている服装や、髪型も、元の乱子と寸分変わらない。
僕はゆっくりと立ち上がり、乱子に話し掛けた。
「やっぱり、君、乱子か?」
「あんた、おかしくなったの? 何であたしが判らないの?」
僕は乱子に囁いた。
「鏡を見ろよ」
乱子は「えっ!」と小さく呟くと、慌てて自分のポーチを探った。
すぐに小さな手鏡が出て来た。
女の子というのは、例外なしに鏡を持っているもんだ。
乱子は鏡を覗きこみ、妙な顔になった。
「何も変わっていないじゃない!」
これには僕は驚いた。
鏡をのぞいた瞬間、絶対乱子は「これがあたしの顔?」と、叫ぶと思い込んでいたからだ。
すると、低い苛立ったような声が、僕の堂々巡りの思考を、すっぱりと断ち切った。
「あんたら、ここがどこか考えたらどう?」
声の方向には、あのミリタリールックの女性が背中を見せ、窓の外を覗いているところだった。
僕はその時になって、ようやく窓外の景色に注意を振り向けた。
そこには都会の風景は、欠片もなかった。