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「こら! 起きろ、起きろ! 朝だぞ!」

 突然の甲高い声に、僕は一遍で目が覚めてしまった。

 どでかいソファの足元で、音貝姉妹がピョンピョン飛び跳ね大声で叫んでいた。興奮で双子の頬は真っ赤に染まり、飛び跳ねるたびに髪の毛がふわりと揺れた。

「お兄ちゃん、起きないの?」

 ようやく飛び跳ねるのをやめ、双子はちょっと首を傾げて僕を見降ろした。

 うう……可愛い!


 その時、乱子の苦々しい声が響いた。

「あーあ、早速、小学生の女の子をいやらしい視線で見てやがる! キモタク、お前ロリコンだな?」

 ぎくりとして顔をそちらに向けると、乱子が非難の眼差しで、僕を睨んでいた。顔にかっと血が昇るのを感じ、僕は慌ててソファから立ち上がった。

「妙なことを言うなよ。誤解されるだろ……」

 乱子は目を光らせた。

「誤解? そうかねえ……」

 薄笑いを浮かべている。

 まあ、本気じゃなさそうだ。

 美人に変身したが、性格はそのままだ。相変わらず、僕をチクチク苛めることはやめてはくれそうにない。

 もっともキョロの理論によると、僕に向けて乱子が憎まれ口を叩くと、僕の妄想パワーが刺激され、この世界をさらに強固なものにする効果があるそうだから、必要なのだろう。

 それって、僕がドMってことかい?

 まあいいさ。乱子が今の憎まれ口を利かなくなると、それこそ彼女が乱子かどうか僕には判らなくなりそうだ。


 周囲を見回すと、透明なゼネラル・プロダクツ製船殻を通して、リングワールドの壮大な景観が広がっている。

 と言っても、目に入るのは海ばかりだ。

 これが〝大海洋〟か。

 寝入る前は、高度十万メートルほどの超高度を飛んでいたが、今はかなり低く飛行しているようだ。それでも高度は数千メートルはありそうで、目に入るのは真っ平らな海面と、ところどころ浮かんでいる雲ばかり。ただし地球と違い、海はどこまで眺めても、ただ平面で、これが惑星上なら水平線は微かに丸みを帯びているはずだ。


「朝飯だ。顔を洗いな」

 面倒くさそうに、乱子は僕に命令した。僕は「へいへい」と生返事して、洗面所に移動した。船内は地球の豪華ホテルほどの設備が整っていて、洗面所には洋式のバスタブが付属している。

 しまったな……こんなのがあるんなら、風呂に入っておくんだった……。

 落ち着くと、色々気になる点が出てくる。

 一応、トイレ、バスルームなど、僕らが生活するための設備は完備しているようだ。それも個人個人のために、専用の設備が揃っているようで、これなら長期間の生活も不自由なさそうだ。

 長期間?

 俄かな不安が僕の胸を締め付ける。

 この宇宙船で、僕らはいつまで生活していくんだろう?


 いつもの集会所に戻ると、朝食の準備が出来ていた。

 今回は個人個人の好みではなく、普通にトーストとスープ、コーヒー、サラダに目玉焼き。それにこんがり焦がしたベーコンが人数分。ついでにフルーツの盛り合わせ。

 うん、これなら落ち着いて食事が出来そうだ。

 と思ったのもつかの間、席に座った僕の両脇に、三人のメイドがぴったりと寄り添った。左に座ったエヴァが、フォークにフルーツを刺して僕に差し出し、声を上げた。

「ねえ~ん……キモちん! あ~んして!」

 エヴァの言葉に、僕はギクッとなった。

 八咫烏を「ヤタちん」と呼んだら、今度は僕を「キモちん」かい!


 右隣のルーナが悪戯っぽい笑顔を満面に浮かべ、口を開いた。

「いいじゃん! キモちんの方が、可愛くなるもん」

 僕は「まいったな」と首を振った。

 ぐっと両腕を伸ばし、エヴァとルーナを押しのけた。

「いいから! 食事くらい、一人で出来るよ。頼むから、構わないでくれないか?」

「え~?」

 エヴァとルーナは抗議の声を上げた。

 二人の不満に、ユミは宥め役にまわった。

「まあまあ、キモちんがああ言っているんだから、ここは好きにさせてあげようよ。それがメイドの正しい道ってもんよ」


 ユミの言葉に、僕はホッとなった。

 彼女は結構、常識家のようだ。

 僕はやっと落ち着いて食事に戻った。

 最初、三人のメイドが僕に纏わりついてきたときは嬉しかったが、こう何度もベタベタされると、奇妙に鬱陶しく感じる。こんな気持ちになるとは思わなかった。


 気が付くと、乱子、奈美代、麗華と双子は、黙々と朝食に取り掛かっている。床では、キョロの目の前に皿が置かれ、キャットフードをキョロががっついていた。

 僕はキョロに話し掛けた。

「それ、旨いのか?」

「食べ慣れた味だからな。これでないと、食った気がせん!」

 ゴニョゴニョと唸り声を挟みつつ、キョロは無心になって食事にとりかかっていた。

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